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インモータルッ!!  作者: 小元 数乃
五月事変
18/21

2-1話

 5月。新しい環境になれない人々に若干鬱が入り、環境に適応できた人間が未だぎこちないながらも確実に人間関係の構築を強化していく時期。


 主人公松壊シシンは後者に分類されるようで、今日も今日とて元気に学校に登校してきた彼はあのバカ騒ぎに参戦にした面々と、食堂で賑やかな昼食をとっていた。


「そういえば、シシンはソロソロですのね?」


「そろそろ? 何が? あこらっ!!」


「おまえ、唐揚げとられることにだけ過剰反応しすぎだろ? どんだけ味覚子供だよ……」


「それを重点的に狙う健吾に言われたくはないんだな……」


 鮮やかな手口でシシンの弁当から唐揚げをかっさらった健吾に、シシンが大人気ない怒声を上げ周りの友人を驚かせる。そんなシシンの態度にあきれたのか、彼の視界の端で息をつきながら黒江と紅葉は同時に肩を竦め思わず目を見合わせて苦笑をうかべていた。


「そろそろってのはあれよ、シシン。能力覚醒用の特別授業」


 紅葉が告げた聞きなれない授業名に、シシンは少しの間脳内の記憶をあさりようやく今朝のニュースでやっていた《留学生たちがついに超能力に目覚める!!》という大々的な宣伝を思い出し、あぁと漏らした。


「あぁ……なんや暗室にこもってひたすら数式とくっていうあれかいな?」


「正確には世界越境式演算基礎数式……俗称ノグチ数式と呼ばれる数式なんだな」


「なんでも、日ノ本の有名な数学者である《野口英世(本名不詳)》が作った、数式だそうで、超能力の発動に必要不可欠な演算式がすべて組み込まれているそうですね。私は特殊任務でもぐりこんだせいで正規のカリキュラムを受けられず見たことがありませんが」


「そこら辺も何とかしないといけませんわね……学園長あたりが動いてくれているらしいのですが」


 さすがは諜報員といったところか、信玄の説明をアシストするように詳細な説明を付け加えてくれた江。その話を聞いたシシンは「ついに俺が能力者に!? キタっ! 俺実は最強フラグがキタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━ !!!!!」と浮れきっていたが、黒江が最後にぽつりとつぶやいた言葉を耳ざとく聞きつけていたレインベルは、ほんの少しため息を漏らしながら黒江が作ってくれた弁当へと箸を伸ばした。


「それにしてもあなた方の国の気がしれませんわ。黒江みたいなか弱い女の子を敵国としてここに送り込んだくせに、その一方ではニコニコ笑いながらあなた方のような留学生を送り込むなんて」


 若干機嫌が悪い雰囲気がにじみ出たレインベルの言葉に、シシンは思わず顔をひきつらせた。彼女の隣に座っている黒江もなんとも言えない顔をしている。


「いや……その国の国民がおる前でようそんなこと言えんな……。否定できひんけど」


「実際戦争している期間が長すぎましたからね……。大戦は《英雄》シオンの手によってひとまずは終結し昔の話になりましたが、それでもうちの大陸の老人たちに話を聞かせてもらえば今でも戦場の風景はまざまざと思い出せてしまう程度の昔ですし……」


「禍根は孫の代まで残るってことね……。あ~やだやだ、歴史関係はしみったれた話ばっかり」


 やれやれと首を振る紅葉にシシンは苦笑交じりに「まったくや」と同意を示しながら、健吾と同じようにシシンの弁当に箸を伸ばしてきていた信玄を素早く迎撃。彼の手をぴしゃりと叩く。


「いたたたたた。でも、そんな国によく自分の国の学生を送り込んだんだな~。危ないとは思わなかったんだな?」


「いやいや、さすがにそこらへんは考えてたみたいやで? なんでも独自の方法で生徒の安否を確認する方法があるとかないとか……」


「どっちだよ」


 虎視眈々と自分の弁当を狙ってくる悪友二人を視線で牽制しながら、シシンはまるで刃物のような気を放ちながら細心の注意を払いつつ弁当を食べていく。


「まぁ、少なくとも……生徒が死んだりしたら、すぐにわかるらしいで? まぁ、さすがにそんな事態にはならへんやろうけど」


 下手したらまた戦争やしな~。と物騒な言葉とつぶやいた後、シシンはにやりと笑い悪友二人に自分の弁当を掲げた。それを見た瞬間、信玄と健吾の二人はがっくりと頭を垂れ大げさな落胆の意を示す。


 シシンが弁当を完食したからだ。




…†…†…………†…†…




 シシンらが弁当を食べてのんびりとした学生生活を送っているころ……天草大陸・中央浮遊島《天草》。


 六つの魔術宗派が広大な領土を一つずつ総べる巨大大陸を眼下に見下ろすこの浮遊島には、天上の魔術と呼ばれる《十字教》を主な信仰対象とした天草一族が暮らしている。もっとも、実際住んでいる人間はたったの四人。その四人ですら、普段はこの浮遊島にはおらず下に降りて、各宗派にわずかながらに譲ってもらった土地に建てた、小さな教会で寝起きをしている。


 つまり、普段はこの島は無人島になっている。だが今日は珍しいことにこの島には人があふれかえっていた。


 修験者、神主や巫女、白衣を着た和服の医師集団、強壮な鎧武者たち、白と黒のコントラストで鮮やかに彩られた着流しの集団。


 その週たちが視線を向ける先には独特の雰囲気を持った五人の大魔導師たちが、厳かな雰囲気を放ちながら天草の中央に鎮座する巨大な教会……《大聖堂・島原》へと続く長い階段を上っていた。


 四つの塔を周囲に配置し、天蓋を巨大なステンドグラスによって覆ったその教会はまさに大聖堂と呼ばれるにふさわしい雰囲気を持って五人の偉大なる魔導士たちを迎え入れる。


 それと同時に、大聖堂から姿を現したのは白銀の髪に真紅の瞳を持ったアルビノの美女。彼女は腰にはいた刀を鞘から抜き放ち、大魔導師たちがあがった階段の頂上へと突き立てた。


「これより……六大長老会議を開催する。公正な会議を行う為各々の護衛、信者……各宗派の人間はこれより大聖堂に入ることはまかりならん。《戦乙女》……天草藤葉(ふじは)の名において、この階段はこれより封印される」


 その言葉と同時に、今まで緊張に包まれていた各勢力から一斉に安堵の息が漏れた。




…†…†…………†…†…




「いつも思うんだけどこれいらんだろ、これ!」


 窓の向こうで一斉に今までの整列体勢を崩し雑談に移った各勢力の魔術師たちの姿を見て、白黒の着流しを着た男アルビノの男……《英雄》松壊シオンはケラケラ笑いながら円卓の椅子へと座る。この場には英雄としてではなく宗派・陰陽道……松壊一族当主としての出席だ。


 その円卓の向こう側には簡素な装飾でありながら、どことなく上品な雰囲気を漂わせる上等なイスが設置されている。あそこが、天草一族当主……天草四郎が座る場所だ。


「一応毎年の恒例行事としてテレビも来とるんじゃ。カメラがまわっとる間は形式だけでも落ち着いた式にせねばならんのじゃよ」


「要するに見栄の問題やろ? くだらんな~」


「そんなんいうのはおぬしらの一族だけじゃ……」


 学校の校長のあいさつが最短な領第一位に輝いたことがある松壊領の実績を思い出しながら、天草四郎の椅子の隣に座った老人が顔を引きつらせる。


 宗派・修験道――荒楠(あれくす)一族の長老、荒楠小角(あれくすおづの)。正式な年齢は分からないが、数百歳は確実に生きているといわれる修験者の最高峰。もっとも、最近は持病にギックリ腰を持ってしまい、寄る年波には勝てないと黄昏ている老人だ。


「どうっでもいいです!! さっさとこ~んな会議を終わらせて、シオンの体を解剖したいで~す!!」


「あの……そのキャラはさすがに無理があるとおもうのです」


「え? マジ? MADな感じが出てない?」


「どちらかというと子供が背伸びしてる感がにじみでてしまって……」


「二十歳の男に対して言うセリフじゃねぇよなそれ……」


 そう言ってシオンの両隣に座ったのは、現在の長老会議の中で最年少とされる二人。


 最近キャラが濃すぎる長老会議の面々にもまれてしまい若干自分のキャラを見失いかけている白衣の青年が、宗派・錬丹会……桃終(ももしまい)一族(グループ)会長、桃咲(ももざき)桃児(とうじ)。本当は妾腹の息子だった彼は一族の会長になれる立場ではなかったのだが、たぐいまれなる魔術の才と、魔術の探究の為、人体改造にまで手を伸ばした禁忌の男……桃終(ももしまい)桃餓(とうが)――自分の父を粛清した功績によって現在の地位についた重い過去を持つ青年だ。


 もう一人は簡素な簪と巫女服に身を包んだ絶世の美女。どことなく幼げな雰囲気も残しているため美少女といっても通りそうな彼女の名は逝竹(ゆきたけ)(みそぎ)。宗派・神道……逝竹(ゆきたけ)一族を統括する《天照》の巫女として、数日前『禊』の名を襲名した。長老会議は今回が初めての新参議員だ。ちなみに、どういうわけかシオンを父親のように慕っており、『禊』となる前はよく自分の領をお忍びで抜け出しシオンのもとへと遊びに行っていたおてんば娘だったりする。


「雑談はそこまでにしろ……。ここは会議の場だ」


 風に最年少同士仲良く話す二人に、氷のように冷たい忠告を飛ばしたのは、円卓のもとにやってきても鎧を脱ごうとしない巨漢。その顔には鎧の面がかぶられており素顔はよく見えない。


 宗派・八百万信仰……杉破(すぎわ)一族統領、杉破(すぎわ)正宗。寡黙な武人が多い杉破(すぎわ)一族の典型的な性格の持ち主で、シオンが冗談交じりで『厳冬将軍』などと呼んでしまったのが自然と定着してしまうほどの厳格な性格をした男だった。


「いえ、杉破(すぎわ)さん。そう固くならなくて結構ですよ。どうせ毎年やっている定期報告もどき……。言ってしまえば書類一枚でやらなくてもよくなるような会議ですから」


 そしてとうとう姿を現したのは、漆黒のカソックに身を包み長い髪を後ろで束ねてポニーテールのようにしている一人の美女のような線の細い美男子。


 腰には刀身が細い両刃の西洋剣。胸には小さなロザリオをかけた、青年はふわりと笑いながらシオンの対面のイスへと腰を下ろす。


「また彼は遅刻のようですが……はじめましょうか?」


 この大陸をたった四人で支配する宗派・十字教……天草一族の教()、天草四郎。この見た目でありながら大戦が起こる遥か昔から天草を統治している、神格級魔導師。




 そして、もう一人、


「いやいや、待ってください教皇猊下」


 天草最強の剣士が守っているはずの場所を素通りし、一人の男が円卓の間に入ってきた。


 曇った眼鏡をかけ、ボサボサの髪を整えた形跡も見えない男は小汚い黒いスーツを着ていた。到底会議に出席するべき姿だとは思えない。それに、席はすべて埋まってしまっている。男が座るべき場所など存在しない。


 しかし、ほかの長老は彼が入ってくると同時に今までの緩い空気を引き締め、厳格な雰囲気を持って彼を迎え入れた。


 彼らは知っているからだ。彼が入ってきたときは、本当に重要な案件がこの会議で話される時だと。


 男はそんな長老たちの姿に、ほんの少し怖気づいたような雰囲気を流しながら、


「宗派・忍……黒桜(くろさくら)一族忍頭(しのびがしら)兼《天草大陸暗部統括役》、《黒桜(こくおう)》34代目。参上しました」


 存在しないはずの、六人目の長老として名乗りを上げた。


 遅れてすいません……。と、優しげな雰囲気を醸し出す照れ笑いを浮かべる男に、長老会議の面々は得体のしれない恐怖を感じた。




…†…†…………†…†…




 それから数時間後。いつも通り何の変りもない今年度の各領の税収と、それを使った予算編成の報告を終えた後、壁にもたれるようにして立っていた黒桜(こくおう)に、


「では、次は黒桜(こくおう)の議題ですね」


 天草四郎は、いつものように聖人の笑みを浮かべながら指示を出す。


「はいはい。といっても、皆さんお分かりかと思いますが、私が告げる議題はたった一つです。つまり」


「留学生たちについて……だろ?」


 円卓の上に肘をつき、姿勢を崩してだらしなく座っていたシオンがにやにや笑いながら黒桜(こくおう)のセリフを奪う。それに黒桜(こくおう)は苦笑をうかべながら、「ええ、まぁ、そうですよ」と肩をすくめた。


「現在のところ彼らの魔力には何の異変もありません。報告ではずいぶんといろいろな事件に巻き込まれているようですが、そこらへんはうまく立ち回って何とか解決できているようです」


「当たり前じゃ……。たとえあの国に人質に取られても自力で生還できるもの。留学生の第一条件としてワシらが決めた絶対条件じゃ。それに準拠して選ばれたあ奴らが、高々強盗だの殺人犯だのごときにやられるわけがあるまい」


 ふん。と、鼻の穴を膨らませながら自慢げに語る小角に他の長老会議が同意の意を示した。もっとも、シオンだけは盛大に首をかしげていたが、彼は自分の息子をやや過小評価しているきらいがあるので誰も気に留めなかった。


「それより私としては、そちらが使っている魔力感知式の生死判定術式の方が気になるのだが……。確かなものなのだろうな、黒桜(こくおう)


 胡散臭そうな声色を隠そうともせず尋ねてきたのは、鬼の面に表情を隠され真意が読み取れない正宗だ。そんな彼の疑問に、「アイタタタタ。そんなに信用ありませんか? まぁ、暗部ですから仕方ないですけど……」と若干おどけながら、黒桜(こくおう)は素早く手印を結ぶ。


「まぁ、今回はそれの詳しい説明をするために参加したようなものですからね、聞かれなくてもお教えするつもりでした。これが、現在われわれが使っている留学生の安否確認用の術式です」


 印を結びおえた黒桜(こくおう)が魔力を放出する。その魔力は見る見るうちに巨大な大陸地図を描きだし、そこに六つの赤点を出現させた。


 大陸の形は明らかに日ノ本。それも拡大すれば細やかな街の様子すら確認することができるとんでもないものだ。


「これは……これほど詳細な地図は……」


 思わず絶句する禊をしり目に、シオンは少しだけ目を見開いただけで、


「ほ~。よく調べたな。今は友好国といっても所詮裏ではお互いに仮想敵国扱いしている相手だろ? こんな詳細な地図普通なら調べただけで国際問題だぞ?」


「うちには千里眼の術式を持った忍がいますので、試験的にやってみたんですが思った以上にうまくいきましてね……。まぁ、最後はむこうの超能力の《千里眼》に察知されたようなので、不明な点もややありますが」


 主要な都市程度なら網羅しているかと……。と、黒桜(こくおう)がヘラリと笑いながら告げた言葉に、ほかの長老たちはうめき声をあげた。


 なるほど、流石は宗教的に作られた魔術ではなく、暗殺・諜報を目的として造られた魔術といったところか。他に宗派でこれほど精密な遠視をしようと思うと、一体どれだけの苦労が必要なのかわかったものではなかった。


 だが、彼らがうめき声をあげた理由はそこではない。


こんな高性能仮名遠視術式がある黒桜一族にうめいたのだ。海を挟んだ遥か彼方にある大陸ですらこれだ……。彼らがすんでいる大陸と同じ大陸にある自分たちの領となると一体どれほどの……。


 長老会議の面々が一瞬脳裏にその考えをよぎらせた時だった、


「そういう考え方はやめておけよ、お前ら。そういったことを考えたやつらに限って、歴史紐解いたらろくなことになったためしがないんだからな」


 シレッと吐かれたシオンの忠告に、長老会議の面々は思わず息を止め、表情を改めた。確かに彼が言うとおり、外敵がいる状態なのに内輪で疑心暗鬼にかかってしまうことほど愚かなことはない。


 そんな彼らの反応を見て、黒桜(こくおう)はほんの少しの苦笑をうかべた後『ありがとうございます』と言いたげにシオンに小さく頭を下げた。


 シオンはそれに気付いていないのか、大きな口を開けてあくびをかましボリボリと首筋をかいていた。


「で、この赤い点はうちの学生どもと考えていいのか?」


「えぇそうですね……。基本的に留学生たちは魔力が多い方だけですので、出国する際に隠密式の魔力放出術式をつけさせていただきました。この放出術式は日ノ本で言うところの電波を放出するアンテナの役割を果たしており、こちらに彼らの魔力を飛ばすことで彼らの安否の確認を取っています」


「それであの子たちの魔術の発動が阻害されることは? 話を聞く限り、魔力を奪われているように聞こえるのですが……」


 今度は少し心配そうな禊の質問。それに黒桜(こくおう)はあくまで慌てることなく、ヘラリとした軽い笑みを浮かべながら返答を返した。


「皆さんのご心配はごもっともですが、心配はありません。普段術式自体に吸われる魔力はスズメの涙程度ですし、万一その術式が何らかの邪魔になるようでしたら、オートで魔力吸引をストップするようにしてあります。たとえば、切り札を切らなければならないくらい激しい戦闘とか……」


「そのような事態が起こっている時点で国際的抗議は十分可能ですか……。なるほど、よく考えられていますね」


「おほめに預かり光栄です。ただ……」


 そこで黒桜(こくおう)は言葉を切りシオンの方をちらりと見つめる。


「一つ問題が……」


「うちの息子には施術できていないんだろ?」


 その言葉を聞くと同時にその問題を言い当ててきたシオンに、アハハハ……と気まずそうな笑みを返した黒桜(こくおう)は、


「えぇ……。その、あなたのご子息はその……魔力が何というか」


 言葉を選ぶようなそぶりを見せたが、


「あぁ、あいつ魔力持ってないからな。そりゃ飛ばす電波がなけりゃアンテナも意味ないわな」


 魔術師としては致命的な欠陥がある息子のことを、シオンはあっさりと暴露し他の長老会議の嘆息を誘った。


「おいおい……なんだよその態度。ここにいる全員が知っている事実だろうが」


「だからといって、普通はもうちょっと隠すもんじゃろうが……」


「そうですよ。シシン君がかわいそうです」


「あいつが一体、魔力がないことでどれだけの苦労をしてこの国で生きてきたと思ってるんですか……」


 長老会議の代表として、彼の両隣に座っている桃児と禊がシオンに非難をぶつけてきた。シオンが留学をする際色々と力を貸していた長老会議達もそろって同意の意を示している。そんな彼らに向かって、


「おいおい、勘違いしてんじゃねェぞお前ら」


 シオンはフンと鼻を鳴らし不敵に笑った。


「確かにあいつは魔力がないせいでいろいろと苦労してきたさ。誰でも出来る簡単なことを血反吐吐くような努力をして何とかしているような落ちこぼれだ」


 だがな。と、シオンはそこで言葉を切り、


「俺はそんなあいつを一族の恥だとは思ってねーし、あいつも自分がそんな風に憐れに思われなければならない対象だなんて微塵も思ってねーよ」


 この場に来て初めて、息子を絶対的に信頼していると言い切った。


 そんな彼の言葉に、ほかの長老会議達が「こいつが、ちゃんとした人の親をしているだとっ!?」と唖然とした様子で彼を見つめるが、


「あ~……前置きが長すぎましたね。本題に入りましょう」


 一早く復活した黒桜(こくおう)の言葉によって、今のは悪い夢だったんだと慌てて意識を切り替える。


「なんかすっごい失礼なこと言われてる気がするんだけど……」


「き、気のせいですよ」


 シオンの鋭い疑問に黒桜(こくおう)は若干頬をひきつらせながらなんとかごまかし笑いを浮かべ、


「さて、今回の議題ですが……」


 一枚の書類を提示する。


「万が一畏れていた事態……留学生たちがあちらの政府の手によって殺された場合にとる報復行動について、どうするか決めたいと思うのですがよろしいですか?」


 まるで、留学生が殺されることが確定しているかのような議題にほかの長老会議のメンバーたちは思わず眉をしかめたが、それでもその議題の有用性を否定することなく黙って書類を手に取った。




…†…†…………†…†…




 昼食を終えたシシン達男子が「お花を摘みに」といった女子勢と別れて教室に帰ってくると、珍しいことに山邑女史が教室前で待ち構えていた。


「あれ、山邑女史がおる? 珍しいな……いつもはナノセカント単位のストップウォッチでもあるんちゃうか? 言うくらい時間ピッタリに教室くんのに……」


「地味に事実な気がするのがシャレにならないんだな……」


「俺あの人の腹が12時ジャストに鳴るのを聞いたことがある」


「時計は時計でも腹時計やったか……キャラにあわへんスキルもっとんなおい……」


「どうやら死に急ぎたいらしいですね、松壊生徒……。遺言は何がいいですか?」


「教師が言うセリフとちゃう!?」


 相変わらず不祥事全開の暴力発言にシシンが愕然としているのをしり目に、健吾と信玄はひきつった愛想笑いをうかべながら山邑へと話しかけた。


「んで、結局先生何してんの?」


「まだ昼休みが終わるのに30分近くあるんだな? 僕たちこれから図書室行って、あそこにおいてあるラノベの品評会でもしようかと思っていたんだけど……」


「うちの図書室はオタクのたまり場ではないんですが……」


 この三人が図書室の一角を占拠し「ハァハァ……このヒロイン、モエー」とか言っている光景を思い浮かべて、生理的に受け付けなかったと見える山邑女史は、微妙な表情をしながら警告を放ってきた。


「まぁ、いまはそんなことどうでもいいのですよ」


「あれ? ええの?」


「えぇ、困るのは私ではなく図書室に詰めている司書の方ですから」


 その司書が聞いたらブチギレそうな発言だったが、この場にはいないので問題ない。と自己完結する山邑女史に、やはりシシン達は顔をひきつらせた。


 それに……。と、シシンは思考を昨日であった司書の女性教員へとほんの少しだけそらす。そして記憶の中に保存されていた彼女の手に握られていたのは……『魔法少女! モラトリアム・アリサ!!』と丸っこい文字で題名が書かれたライトノベル……。


 むしろ困るよりも嬉々として話に食いついてきそうな気がしてならないシシンだった……。


「それよりも、少し松壊生徒に可及的速やかに渡しておきたいものがあったので、こうして昼休みの貴重な時間を割いてやってきたわけです」


「ん? 俺に渡したいもん?」


 なんか間違えて没収された品でもあったやろか? とここ最近の学校生活で没収されたものを思い出すシシン。


「……………………」


どうやら結構な数があったらしく、「えぇ~、没収されすぎやろ俺……」と少しだけへこんでしまった。


「没収品の返却ではありませんよ。ただの書類です」


「書類?」


 首を傾げたシシンの鼻先に、一枚の書類が突きつけられる。


「留学生特別授業・《世界越境式演算基礎数式》演算実施日について、だ」


「あぁ、さっきレインベルとかが言うとった」


「なんだ、知っているのか?」


「タイミングが良かったんだな、先生」


「ニュースでもやってたしな。話題に上ってたぞ?」


「ふむ。なら話が早いです。詳しいことはその書類に書いてありますから、ちゃんと読んでから実施教室に来るんですよ? あと、これは言わなくてもわかっているでしょうが、遅刻は絶対にしないように」


 では! と、言いたいことだけ言って意気揚々と帰っていく山邑女史の足取りはどことなく軽そうに見えた。思った以上に早く帰れてうれしかったのだろう。


「いや~。にしてもこれで俺もいよいよ超能力者か!!」


「めでたいことなんだな~」


「いや、でも初っ端から行為の能力者に目覚めることなんてめったにないから、そんなに期待しない方がいいぞ?」


「いや、むしろそっちの方が燃えるやんけ! 育成ゲームみたいで!!」


「自分を育てるのは育成ゲームっていうのか?」


「どちらかというとギャルゲの方が自分育成することが多いんだな……」


「なるほど……シシンはギャルゲ主人公になるわけだな」


「なんやすっごい不本意な主人公やな……。いや、モテるんはええんやけど」


「いやいや~。どっちかというと初心者が育てた主人公みたいな?」


「本気で分岐とか調べないから、すぐにバッドエンドやノーマルエンドになって不完全燃焼になっちゃう奴なんだな」


「最悪やんけ……」


 悪友たちにめちゃくちゃ言われて、げんなりしながらもシシンは書類に目を通していく。そして、


「なぁ……」


「ん? なんなんだな?」


「これ……日付が今日になってんねんけど」


「「はぁ!?」」


 山邑女史が可及的速やかにこの書類を渡しに来た理由を理解した瞬間だった……。


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