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インモータルッ!!  作者: 小元 数乃
第一部 おふざけはここからや!!
13/21

12話

 歩法術というのは「ありとあらゆる場所で《神行》ができるようにする」ことを目的とした《神行》補助のための体術だ。


 そのため、これを収めた人間は様々な場所を走破することが可能となる。


 先ほどシシンが行った『壁面』も、通常では無理とされる『水上』『水中(息が続けばの話だが……)』も……『空』でさえもだ。


 シシンが行ったのはそのうちの一つ、『空中歩行』の歩法術だった。


 名前は『空中回廊』。「空に見えない回廊があるがごとく」と名付けられたこの歩法術は、実はかなり難易度が高い。


 水上や壁面とは違い、空中には足場にするための物質が非常の希薄にしかない。一応、何もないわけではなく酸素や窒素があるため、歩法術者はそれを踏んで走行を行うのだが、そのためには長年の研鑽によって詰まれた、センスと筋力が必要だ。


 しかし、シシンにはその両方が足りなかった……。


結果、彼はたった四歩空中を歩いただけで落下するという、無様な失態を見せたわけだ……。


「うわぁあああああああああああああああ!? チョウシのっとったぁあああああああああああ!! 学校始まる前に水面行けたからって、超調子のっとったぁあああああああ!!」


 意外としっかり自己分析をした悲鳴を上げるシシン。しかし、今頃分析が終わったところであとの祭り以外の何物でもなかった。


重力に従い落下を開始するシシンの体。落ちた高さは大体25メートルぐらい。このまま落ちたら割と即死じゃね? ぐらいの高さはきちんとあった。


さすがは学校の屋上。飛び降り自殺防止のためにフェンスがあるわけや……。と、妙なところで感心しながら、シシンはとりあえず悲鳴を上げておく。


「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!! 助けて~パンの人~!!」


 幼少のころ見た、自分の顔面を引きちぎって空腹の子供たちを助け、愛と勇気だけを友とし、細菌と戦うスパーヒーローの名前を叫びながら落下するシシン。その声はひどく緊張感に欠けていたが、実際彼はもうこの状況を打破する手段を持ち合わせていなかった。


「あなた……けっこう余裕でしょう!?」


 その時だった。シシンが悲鳴を上げると同時に、見えない力がシシンの体をまるで握りしめるように捕まえ、ゆっくりと地面へと着地させた。


「あれ?」


 どうしたんや? と、しりもちをついたような体制で首をかしげるシシン。そんな彼に、


「まったく……。命が要らないんですかあなたは?」


 怒りに満ち溢れた絶対零度の、老成した声がぶつけられた。


 誰なのかはわかっていたが、一応一縷の望みをかけて振り向いたシシンは、


「あ、あははははは。俺の命は結構安値やねん……」


「くだらないですね。命に値段をつけてはいけないという基礎的教育も受けていないんですか、あなたは?」


 そこに立っていた人物が、自分の予想通りの人物だと気付き絶望した。


 そこに立っていたのは、先ほどシシンが全力で戦闘を回避するために、体得していない体術を使うという、荒業まで使って接触を避けたかった教師(てき)……。


「さて……教育的指導を始めようか?」


 額に青筋を浮かべた、山邑小籏だった。




…†…†…………†…†…




「え……えっと~」


 背後に阿修羅を幻視してしまうほど、強烈な怒りがにじみ出ている山邑女史の様子にシシンは顔をひきつった笑みを浮かべながら、しりもちをついた体制でじりじりと後ろに下がる。


 や、やばい。逆鱗に触れてもうた!? ひきつったシシンの顔は、もうそれ一色に染まっていた。


 まぁ、彼女の気持ちもわかると言えば分る。何せ、自分の生徒が、自分の目の前で飛び降り自殺じみた行為を行い降ってきたのだ。彼女が受けた衝撃はひとしおだろう。下手をすれば目の前で生徒が一人死んでいたかもしれないのだから……。


 俺は別に死んでもええねんけどな……。と、内心でうそぶきながらも、そんなことを思っているとばれるのは死亡フラグ、と本能的に察知したシシンは、ひきつった笑みを何とか維持しつつも、全力でこの場からの逃走方法を模索していく。


「さて……指導を始める前に、あなたに一度だけ弁解のチャンスを与えてあげます」


「え? ええの!?」


 しかし、意外なことに山邑女史は寛大だった。


 どうやら、すぐに粛清される可能性はないらしい。いや、運がよかったら見逃してもらえる可能性も……。


「まぁ、どんな理由であれ、あなたを指導することには変わりありませんが……」


 ……訂正。どうやら、弁解という名の、末期の言葉を言わされるみたいだった。


 ならばシシンの言うことは一つ!


「ついむしゃくしゃしてやった……。反省も後悔もしない」


「いまどき珍しい、ほれぼれするほどの……ムカつくクソガキですね。よろしい、指導を開始します」


 キリッとした顔で、とんでもない言葉を言い放ったシシンに山邑女史の額に浮き出た血管の数が瞬く間に増大する。そして、山邑女史は最終通告を告げると同時に、無造作にコブシを突き出した。




…†…†…………†…†…




 なんや一体? それが、シシンが真っ先に抱いた山邑の行動に関する感想だった。


 人もいなければ、障害物すらない、完全な虚空に打ち据えられたコブシ。どうやら普通の年寄り以上に鍛えているようで、パンッと小気味がいい空気が破裂する音共に打ちすえられたそれは、まさしく芸術と言っていいほどきれいなフォームで決まっていた。


 おそらく、シシンの師匠が言っていた「学園国家謹製……物理学的に効率的な非常につまらない格闘術」でも収めているのだろう。名前は……覚える必要すらない屑格闘術だといわれて教えてもらえなかった。


 だが、そんな御大層な格闘術も対象にあたらなければ意味がない。シシンと山邑女史の距離は約5メートル弱。少なくとも、常人のコブシが届くような距離ではないはずだった。


 だが、


「っ!?」


 シシンはまるで背中にツララでも突っ込まれたかのような悪寒を感じ、本能的に、反射的に、地面に座り込んだ自分の体へと指令を叩き込んだ。


 両手に力を籠め、後方にバク転しながら体を回転させ飛び起きた後、瞬時に足に力を籠め神行。2メートルほどの距離を一足飛びに移動し、山邑との距離をさらに開ける。


 その瞬間だった。シシンの目の前で、今まで彼が座っていたアスファルトに舗装されていた地面が勢いよく陥没。衝撃と無数の破片を辺り一帯にまき散らしながら爆散した!!


「……おいおい。聞いてへんで」


 なんやねん今の攻撃!?


 まるで巨人のこぶしで殴りつけられたかのような形で陥没する地面を見て、恐れおののくシシン。そんな彼をしり目に、山邑女史はひらひらと手を振りながらまるで虫けらでも見るような瞳でシシンを睥睨する。


「私の能力名は《射程延長(リーチプラス)》。意味は……自分で考えなさい」


 その言葉と同時に振るわれた今度の攻撃は、横なぎの平手打ち。


 先ほどの攻撃から、今度は横一線の衝撃波でも飛んでくるのではと思ったシシンは正面に、鞘つきの刀を構え衝撃に備える。


 だが、シシンの予想は大きく外れ、さらに彼の度肝を抜いた。


 攻撃はシシンの真横から……。まるで巨人の平手打ちのような轟音を伴いやってきたその攻撃は、あっさりとシシンを地面から刈り取り、先ほどから轟音が響き渡る前庭へと吹き飛ばした!!




…†…†…………†…†…




 グラウンドにゴールの設置を終えた信玄は、放送部のスキルによって映し出されたその光景思わず天を仰いだ。


「何やっているんだな、シシン……」


 よりにもよって山邑女史につかまるとは……。運が悪いとは聞いていたが、ここまで来るともう笑うしかないランクだった。


「リーチプラス? 聞いたことがない名前ですね」


 彼がそんな風にあきらめムードに陥っているとき、彼の横から端末を覗き込んでいた黒江からそんな声が上がった。


「ああ……。それはそうなんだな。その能力名は識別のためにつけられているだけであって、山邑女史の本当の能力は《念動力(テレキネシス)》なんだな」


「……識別名ということは、あの破壊力で下位互換なのですか!?」


 念動力(テレキネシス)。要するに念じることによって物体を動かす、最もポピュラーな超能力の一つだ。


 だが、あまりに多すぎるそのテレキネシスの中には「テレキネシスと言えなくもないけど……なんか、違う」と研究者たちが首をかしげて分別に困ってしまうものもある。そいうったものは《下位互換》という称号と共に《識別名》として違う名前が与えられ、分別されることが多々あった。わかりやすくたとえるなら《魚類・~目・~科》という分類みたいなものだ。


「山邑女史の能力はまさしくそれなんだな。女史の場合は《念じることによって、自分の腕や足と同じ比率の念力場を生み出し、殴るけるといったことができる》といったところなんだな」


「なるほど……。先ほどシシンさんの落下を受け止めたのもそれですか」


 黒江の言葉に、信玄は先ほど起こった光景を思い出し、おそらくはという意味を込めて首を縦に振った。


 先ほどシシンが落下して地面にたたきつけられそうになった時は、おそらく山邑女史が自分の能力を使い巨大な見えない手を形成。それによって空から落ちてくるシシンを受け止めたのだろう。


 僕としては両手でお姫様ダッコのように受け止めてくれた方が「オヤカタ~。空からオン……もとい男の子が~」ネタがやれたのでうれしかったんだな……。いやいや、まて。ムサイ男 と年寄りのばばぁがそんならシーンやってどこに需要があるんだな? やっぱり落下型は女の子だけの特権なんだな、うん。


 そんなくだらないことを信玄が考えているとはつゆ知らず、黒江は首をかしげながら再び質問を重ねる。


「ところで、彼女の能力は本当にそれだけなのですか?」


「うん?」


 それだけって……十分じゃないか? 黒江の質問に信玄は無言でそう返すが、黒江は納得した様子は見せずさらに口を動かした。


「ですが、所詮は下位互換なのでしょう? 能力の自体も、伸ばした腕の動きを実際の体でトレースしないといけないようですし正直言ってかなり能力の階級は低いのでは?」


「……よく見ているんだな」


 黒江の観察眼に舌を巻きながら、信玄は端末をたたく。


 そして、こんな時のために学校のネットをハッキングしてかすめ取っておいた山邑女史の能力情報のファイルを開きながら、信玄は少しだけ笑みを浮かべた。


「確かに山邑女史の能力クラスはそれほど高くはないんだな。《操作性に難あり》《念動力というには形状が限定的すぎ》《射程範囲が十メートル前後と狭い》といろいろとケチもついてることで、能力クラスはたったの3。一流と呼ぶにはやや劣る内容となっているんだな」


 でも。と、信玄はそこで言葉を区切り参考の欄に書かれた、ある一文をトントンとたたく。


「能力クラスは……必ずしも強さの指標ではないんだな」


 そこにはこう書いてあった。


『元第一学園都市《法律(ルール)》総代。異名は『巨人の四肢(ギガント)』』。凶悪犯検挙率100%』


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