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英雄の腐敗 2 不浄なるエチケット

英雄ジークフリートを包囲する、熱狂という名の監視網。

王宮への道は、「不浄」を一切許さない世界の仕様ルールによって閉ざされていました。


九条たちは、この完璧すぎる都のロジックに潜む「穴」を探します。

魔法の杖の代わりに、空へ放たれたのは小型の調査用ドローン。

美しさが強制される場所で、もっとも有効な武器となるのは、

人々の視界から廃棄された、ある「不都合な真実」でした。

第6セグメント:不浄なるエチケット


白大理石の大通りを進むほどに、九条の眉間の皺は深くなっていった。  道行く人々は、まるで宝石を散りばめたような華やかな衣装を纏い、すれ違うたびに上品な香水の香りが漂う。だが、その足元を注視すれば、馬の落とし物も、あるいは誰かがこぼした飲み物のシミ一つ落ちていない。


「……九条さん、これ、おかしいです」  あかねが計測器を抱え直し、何度もセンサーをキャリブレーションしながら声を震わせた。 「街中に『管理用の信号』が充満しています。……分かりますか? あの噴水の水しぶき一つ一つに、位置情報を固定するタグが張り付いている。汚れがつく前にオブジェクトが『初期状態』にリセットされているんです」


「ああ、私のスニーカーのソールもそう。さっきから一回も汚れがついてないの」  瑞希が、履き慣れたビブラムソールの底を気味悪そうに見つめる。  九条は無言でリュックのサイドポケットから、掌サイズの黒い物体を取り出した。4つのプロペラが静かに展開される。


「……九条、あいつを飛ばすのか? 前の村じゃノイズに煽られてまともに飛ばなかったが」  門倉の問いに、九条は端末の画面をスワイプしながら頷いた。 「ああ。この都は管理信号が強すぎる。逆に言えば、電波の反射が安定しているんだ。……行け」


 小型の調査用ドローン『スズメバチ』が、羽虫のような羽音を立てて上昇した。九条の端末には、ドローンが照射した赤外線レーダーによる「街の密度マップ」がリアルタイムで構築されていく。 「……やはりな。あかね、見てみろ。王宮へ向かって規則正しく流れる『祝福のパケット』の波影に、不自然な空白地帯がある」


 画面上の3Dマップの一角が、そこだけ黒い穴のように欠落していた。周囲の完璧なシンメトリーを維持するために、処理しきれなかったゴミやノイズを物理的に押し込めている『デッドスポット』だ。 「電波も、視線も、物語の整合性も届かない場所……。ドローンのカメラにも、そこだけ霧が掛かっているように映る」


 奏が耳を澄ませ、少しの間をおいてからドローンの向かった西の方角を指差した。 「……あそこだけ、音楽が聞こえません。……泥が、鳴いています」


 五人が辿り着いたのは、王都の華やかさから切り離された、巨大な「廃棄場」だった。  そこには、都から排除された泥、埃、そして――「英雄の輝き」を維持するために切り捨てられた、人々の醜い感情の残滓が、黒いヘドロとなって溜まっていた。


 九条は、ドローンのサーモグラフィが捉えたヘドロの奥の熱源を指差した。王宮の地下へと直通する「メンテナンス用のパイプ」の入口だ。 「……綺麗すぎる正門が通れないなら、この世界の『排泄口』から逆流する。……それが、不完全な僕らのハックログだ」


 九条がそう言った瞬間、廃棄場の奥から、ズルリと重い音が響いた。  英雄の腐敗した背中から滴り落ちた「何か」が、形を成して立ち上がる。

第6セグメント、お読みいただきありがとうございました。


「美しさ」によって外敵を排除する、黄金の都オーラム。

九条たちは、物理的な探査ドローンを駆使して、

完璧な仕様の裏側にある「ゴミ捨て場」から、英雄の寝所へと潜入するルートを見出しました。


しかし、そこは世界で最も「汚れた感情」が煮詰められた場所。

英雄ジークフリートが捨て去った「本音」が、九条たちの前に立ちはだかります。


次回、第7セグメント。ヘドロの檻で、九条がある『規約』を書き換えます。

検品を、継続します。

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