第7話 最後の夜
(………ここに来てからもう半年経ってるのかぁ……)
最初は勢いで始めたのに、このままだと一番長く続いたバイト先を更新してしまうかもしれない
(…いつもすぐに、この軽口のせいで浮くっすからね)
店長のグラスを拭く音が店内に響いている
今日は珍しくお客が来てたけど、終電も過ぎてみんな帰ったっす。
でも、まあそろそろ店じまいの準備してもいいっすよね?
「店長ぉ~!そろそろ看板しまっていいっすよねぇ?」
「……………」
店長も同意したので、俺は看板をしまうために店のドアを開けた
「あら?ごめんなさい、もう閉店なのかな」
なんか、俺の好みの美人がいた。
(子どもの頃はこういう綺麗なお姉さんに甘えてみたかったっす)
「全然!ぜぇんぜんっす!!どうぞ、どうぞBar Chez toiへ」
美人はありがとうと軽く微笑み、店内に入り、そして店長を見つめた
「…………朝子」
まるでこぼれ落ちるような声が店長から聞こえた
「…………な、まえよび?」
「昔ね、付き合いがあってね」
まさかBarをやってるなんて思わなかったと微笑みながら朝子さんはカウンター席に座った
「……テーブル席を拭いてろ」
いつもなら俺に接客をさせるのに、なぜか遠ざけられて
俺はなんかよく分からなくて大人しくテーブル席の片づけを始めた
「………変わってないね」
「……………」
「でも変わったのかな。意外っ!お酒を嫌いな様に見えたから、職業柄飲めないのもあったと思うけど」
「……………」
「…それだけ時間が経ったって事だよね」
「……………」
朝子さんは目を伏せながら話を続けた
「あの時、離れたのは怖かったからなの…」
「あなたが壊れていくのが耐えられなかった。同じくらい壊れそうな私も怖かった……」
「……………」
「結婚するの」
店長はハッキリと捨てられたような傷ついた顔をした
「私のこと本当に愛してくれている人なの。だから、私も彼を愛そうと思う」
「ちゃんと、お別れしてなかったから……」
「…そうか」「幸せに」
店長はポツリとそう言った
「……ありがとう」
朝子さんは本当に嬉しそうにキレイに微笑んだ
「せっかくBarに来たんだから、背伸びしたいなぁ。注文いい?憧れてたカクテルがあるの」
「ホワイトレディ」
似合わないかな?そう言って朝子さんは照れたように微笑んだ
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「私みたいな子もう作っちゃいやよ?」
そう言って、朝子さんは去っていった
朝子さんは強い女だと思った
(……俺はずっと無関心でも受け入れられてると思ってた)
でも違かった
俺は店長の隣に居れてたわけじゃなかった
ホワイトレディのカクテル言葉:純心