第2話 既読をつけたくない夜
本日も絶賛Bar Chez toiは閑古鳥なり
(…この店はバイトの俺を雇う余裕はあるっすかぁ?)
(まあ、そんなこと俺は「知らん」けど)
カラン、軽い音を立ててドアが静かに開いた
「あのっ!お店やってますか?」
お客さんは…女だ。
俺よりは年上、店長よりは年下。
派手な化粧のわりに足はノンヒール、髪は軽くしか染めたことなさそうな黒髪
「もっちろんす!綺麗なお姉さんは大歓迎っすよぉ~」
今日も俺の口は絶賛調子よく回っていた
「おじゃまします」
ニコニコ楽しそうに女はカウンターの端に座った
「あの!おまかせでお願いします!!
……お酒には弱くって軽いので」
どうやらBarには慣れてないらしい。
俺より年上のわりに中身も見た目も背伸びしてるのな…とそう思った
「あの店長さん、お店長いですか?」
「あの!素敵なお店ですね!」
果敢に店長に話しかけている…適当に流されて会話は即終わっていた
(南無三……っす)
店長の沈黙は、拒絶じゃなくて、ただの無関心
(打ち解けようと話しかけても…無駄っすよ〜)
店長はカクテルをだした
「………バージン・ブリーズです」
心なしか眉が少し下がってるように見えた
「わっ!綺麗な色ですね!…写真撮っていいですか?」
写真を1枚撮った後、女はちびちびと舐めるように飲んだ
「これ好きかも…自由って感じ」
カウンターに画面が上になった状態でスマホが置かれている
画面はついたままだから目に入った
(…はっ?LINEの通知100件??)
通知の意味あるのか、これ
「あぁ…通知はね、既読をつけたら負けなんですよ」
目がすわっている、おい、それノンアルだかんな
「でも、困らないっすかぁ、友達とか…親とか…連絡きてるかもっすよ」
誰からも連絡がこない俺はそう気楽に言った
「でも、読んだら返さなきゃいけないじゃないですか」
「ちょっと…しんどい」
「そっすね!仕事とか忙しいとめんどいっすよね。しょうがね~っす」
「……休職中なんです。えっと、はは。…すみません」
「俺も嫌な事から逃げたっすけど…結構自由っすよ」
「逃げて…いいですよね」
店に来てから異様にニコニコ愛想がよかった女は
そこで初めてほっとしたような泣きそうな顔になった
「また来ますね」
そういって女は店を出た
2回目は来ない客な気がした
「店長ぉ~店長も逃げたことあるっすか?」
「……知らん」
俺は楽なところにいるだけっす。
それって逃げなんすかね?
自分の中で答えは出てるのに問いかけた
バージン・ブリーズのカクテル言葉:
純粋:バージン
そよ風:シー・ブリーズより