力試し
「こちらがワイバーン討伐のクエスト報酬とワイバーン150匹を買い取ったお金になります。均等に配分という形でよろしいでしょうか?」
「それでお願いします」
冒険者協会に戻ってきて早速クエストの報告とワイバーンの買取をお願いした。本来であればギルドで出来るのだが、ギルドハウスがまだ出来ていないグレン達は冒険者協会で行うしかない。他にもギルドには加入していてもギルドハウスでそれらが出来ないところの冒険者がちらほらと見える。金が無いギルドは全ての設備が揃ってる訳ではないのだ。
「かしこまりました! 総額で10億ゼンとなります。そこから5%をギルドの金庫に入れさせていただきます。残りが9億5000万ゼンを6等分します」
「あ、僕の分はいいよ。今回は戦ってないからね」
「ペイン、これは僕たちの取り決めだろ。貢献度合いに関係無く等分して報酬は受け取るって」
「・・・アレス達はいいのかい?」
「「全然いいよ」」
「みんなお人好しだな」
「その分、今度の時は働いてもらうってだけさ」
「では、こちらが1人当たりの金額となります。お間違えが無いか確認だけお願いします」
Aランククエストをクリアして1人の報酬は約1億6000万ゼン。Bランクのクエストが6人で行うと1人当たり3000万あればいい方なので、いかにAランククエストの報酬が高いのかが分かる。
今回は特にワイバーンを多く討伐したのもあり、かなりの額になった。
そして、グレン達はゲインのところへ報告へと向かった。
「早かったな。さすがはSランク冒険者だ」
「下のランクのクエストなので手こずる訳にはいきませんよ。それよりもゲインさん、ワイバーンのことについていいですか?」
「うむ。150という数の群れがあの場所にいたということか」
「はい。僕たちがかなり接近してやっと気付くレベルで疲弊していたのも気になります」
「警戒心が強いワイバーンがか・・・。150匹もいれば並大抵の魔物は襲うことはまずしない。Aランクの魔物でも数が集まればSランクに匹敵するからな。
それが疲弊するほど逃げてきたということか」
「今すぐにでも探索するべきだと思います。何も無ければいいですが、何かあってからでは遅いので」
「そうだな。探索チームを選定して向かわせようと思う。・・・それとは別になるんだが、一つクエストを受けてくれないか?」
「まだまだ資金不足ですしギルドハウスも完成していないので構いませんが、どういった内容なんですか?」
「うーん・・・それがだなー・・・」
ゲインは歯切れ悪そうに言葉を詰まらせている。そうしていると、部屋の扉が開いて鎧を着た騎士が数名入ってきた。
「アレス」
「あぁ、騎士団長と副騎士団長だな。後ろにいるのは2人が一目置いてる騎士候補生のやつだ」
髭を生やしたダンディなおじ様といった感じの人がこの国の騎士団を任されている騎士団長のクレイヴ。一歩引いた場所にいる美人な女性が副騎士団長のエレナ。最後に自信たっぷりな雰囲気で2人の後を付いて歩いているのが騎士候補生のブレイブ。グレン達を見て鼻で笑って通り過ぎる。
「ゲインすまないな。急なことで説明に困ると思って直接出向いた」
「いや、クレイヴさんに直接来て貰うまでも無かったんですが」
「ははは! 俺にさん付けや敬語なんて止めろ。お前と俺の仲じゃないか」
「まぁ、お前がそう言うならいいんだが」
「ゲインさん、これは?」
「あぁ、クレイヴが俺たち冒険者協会にクエストを依頼してきたんだ。騎士団と冒険者の仲は知ってるだろ? だから俺は騎士団で何とかしろって言ったんだがな」
王国を守る騎士団と冒険者の仲はあまり良くない。正確には騎士団の中の一部の人間が冒険者を毛嫌いしているため、冒険者の方から接触しないというだけなのだが。
なので、騎士団の方からクエストが冒険者に出されるなんてことは絶対に無かったことである。
「騎士団で解決出来るのなら俺たちも何とかするんだがな。どうしても騎士団では対処出来ないことが起きてしまっているんだ」
「騎士団で対処出来ないことですか?」
「うむ。本来であれば俺たちが動ければいいんだが―――」
「騎士団長。俺はこいつらが本当に信用に値する奴らなのか疑問です」
クレイヴの話を遮ってブレイブが会話に入る。どうやら、ブレイブは冒険者のことを嫌っているようであり、冒険者に依頼を出すというのが納得いっていなかった騎士の一人のようだ。
「よさないかブレイブ」
「今回の任務は超重要任務です。それをたかだか冒険者ごときに任せるなどありえません」
「だが、俺たちでは動けぬ事態だということを忘れるな。騎士団である以上は感情で動くな。思うところがあったとしても、それが最善の判断であればそうするのが騎士団だ」
「・・・分かりました。ですが、こいつらの実力を試させて下さい。それぐらいはいいですよね?」
「はぁ・・・ゲインとグレン達、本当にすまないがブレイブに付き合ってくれないだろうか。俺であればアレスとは見知った間柄だから実力は知っているのだが、ブレイブは納得していないようなのでな」
「構いませんよ。時間は掛からないでしょうし。それで、誰が相手をすればいいんですか?」
「パーティのリーダーと戦いたい」
「だそうだが、リーダーはグレンでいいのだろうか?」
「「そうです」」
「確かにリーダーと言われてるが、君たちは面倒ごとを俺に押し付けたいだけだな」
グレンはリーダーではあるが、戦闘大好きなレイアやアレスですらもグレンに押し付けている。なんか関わると面倒そうだなーと直感で感じてグレンへと押し付けたのだ。
その様子を見てブレイブはワナワナと震えている。ブレイブのことなど眼中になく、好き勝手している全ての脅威達が許せないのだ。
ゲインは冒険者協会の地下にある訓練場へと案内し、木刀をブレイブとグレンに渡す。
「おいアレス。グレンとあの坊ちゃんは何をしようとしてるんだ? グレンによる稽古か?」
「ちげぇよ。グレンとアイツが戦うんだよ」
「はぁ!? 身の程知らずにもほどがあるだろ!」
周りにいたギャラリー達は無謀な挑戦とブレイブに対して大笑いしている。その様子すらもブレイブにとっては怒りでしかない。あまりにも舐められている。冒険者ごときが騎士である自分を舐めていることを許せないでいた。
冒険者たちのグレンに対する圧倒的な信頼を感じ取ってクレイヴはブレイブへとアドバイスをする。
「ブレイブ。油断はするなよ」
「分かってますよ!!」
「頭に血が上り過ぎてますね」
「アレスか。お前が全幅の信頼を置いている人物がどれほどのものか俺も気にはなっているから楽しみな戦いだ」
「まぁ、グレンは片手剣で実力通りの力は出せないかもですが、期待以上の強さを見せてくれますよ」
「そういえば腰に2本の刀を携えているな。二刀流が本来の戦い方なのか?」
「ええ。けど、あのブレイブ相手だったら大丈夫だと思いますよ。グレン! 一撃でも受けたら今日の晩御飯は最高級のレストラン奢りだぞ!」
「あー! アレスくんズルイ! だったら、私はグレンくんとデートかなー」
「お姉ちゃんも卑怯ですよ。私だってグレンさんとデートしたいのに」
「うーん・・・だったら私は最新の魔導書で」
「僕は、未知の魔物の討伐を受けるようにお願いするよ」
「おいおい。みんな好き勝手言い過ぎだろ」
グレンの仲間たちは、グレンが一撃すらも受けないことが当たり前というような口ぶりであり、クレイヴはそこまでの強さなのかと改めてグレンに対する認識を変えた。
ブレイブはあまりにも自身に対する評価の低さに怒りが頂点に達して、手合わせ開始の合図も聞かずにグレンへと斬りかかった。その一撃を軽く避けてグレンは片手で軽い攻撃をブレイブへと打ち込んだ。
その攻撃を木刀で受け止めたブレイブであったが、あまりにも重い一撃に地面が凹んでブレイブは受け切るのがやっとだ。
「バカな。ブレイブは騎士候補生ではあるが、実力はかなりのものだ。怒りに身を任せた一撃とはいえ、簡単に避けての一撃をブレイブが受けるだけで精一杯とは」
「グレンのやつかなり手を抜いてるな」
「何? あれでまだまだ本気じゃないというのか・・・」
「スキルも使ってませんしね」
「ほぉ? さすがはSランク冒険者ということか」
何度も何度もブレイブはグレンへと攻撃を続けるが、攻撃が当たる気配は全くない。汗だくになりながら必死にグレンを追い続けているブレイブとは対照的にグレンは涼しい顔で何事もなく攻撃をよけ続けている。
「おかしい・・・どうして、何で攻撃が当たらないんだ」
「力任せに攻撃をし続けてるから軌道が読みやすい。怒る気持ちもよく分かるけど、怒りに支配されるんじゃなく、怒りを支配して攻撃をするんだ」
「冒険者ごときが俺に意見をするんじゃない!」
「そういう傲慢さは自信にも繋がるから悪い事じゃないけど、相手との実力はしっかりと推し量るべきだよ。戦いの中で相手の弱点を見つけて相手を倒すための最善の手を考えるんだ」
「うるさいうるさいうるさい! お前みたいな腑抜けたやつが言ったことなんて騎士である俺が聞く必要なんてない! お前だけじゃない。後ろにいるやつらもお前と同じで腑抜けで落ちこぼれなんだろ?」
「何?」
「怒ったか? お前自身の戦いを見てればよく分かる。リーダーのお前がそんな戦いなら他の仲間も変わらず落ちこぼれなんだろ」
ブレイブの仲間をバカにした挑発はアウトだった。グレンにとって仲間は苦しい時も一緒に歩んできた大切でかけがえのない存在だ。それをバカにされてグレンはスキルを発動する。
「あーあ、グレンにそれは言っちゃダメだったのに。もうこの試合は終わりですね」
「どういうことだ?」
「前にもグレンに俺たちの悪口を言ったバカがいたんですが、全治半年の大怪我を負わせるほど怒ったんですよね。それにスキルを発動してるから俺たちで止められるかどうか」
「グレンくんの本気って私たち5人がかりでも難しいんだよねー」
「限界突破改」
そして、グレンはスキルを発動してブレイブへと一気に迫る。