高難易度クエスト
「ギルド結成して2日目でいきなり頼られるとは思わなかったぞ」
「いやー、思った以上にお金が無くて」
「だろうな。あんな立地がいい土地を買えばそうなる。いくら稼いでいても厳しいだろうよ」
「はい。おっしゃる通りです」
「ゲインさん、あまりグレンくんをイジメないで。私にぶっ飛ばされたいの?」
「こらこらレイア、ゲインさんに何てこと言うんだよ」
「はぁー・・・俺がお前らと戦ったら負けるに決まってるだろ。悪かったよ。だが、ギルドマスターになってギルドを背負うってのは金とかそういった事も考えなきゃならないからな」
「心に留めておきます。それで、お金が必要なので高難易度クエストを紹介して欲しいんです」
「ほぉ? お前たちが高難易度クエストをやってくれるのか! それはいい」
「どういうことです?」
「知っての通り高ランクの冒険者は数少ない。それもあって高難易度クエストが滞ってるんだ。しかも厄介なことに高ランク冒険者ほど自由気ままでクエストを受けたがらずにダンジョンばかりに行きやがる。
少しはクエストを消化してくれよな。そう思うだろ?」
「え~私は面倒だな~。ダンジョンの方が楽だもん」
「私もクエストって達成条件があってどうも苦手です。お姉ちゃんは何でもいいやって感じのガサツな性格なので良さそうですが」
「ちょっとミリア。私だってクエストなんて面倒よ。けど、グレンくんがクエストやるようにって言うから仕方なくやってるのよ」
「すいません、ゲインさん」
「まぁ、冒険者なんてそんなもんさ。いずれギルドが結成した時にはクエスト消化件数がギルド自体にノルマとして課せられるから気を付けるんだぞ」
「分かっています。それで、クエストの内容を教えて貰ってもいいですか?」
「ああ、そうだったな。面倒なお前たちにはピッタリのクエストだぞ。Aランクの魔物であるワイバーンの討伐だ」
「ワイバーンの討伐ですか」
「オルティス王国の東にある大きな山のガーマイン山脈は知ってるよな? そこにワイバーンが居座るようになったんだ。本来のワイバーンであれば、そんなところに生息はしないんだが何故か群れごと居座ってやがる。
商人の通り道となってるんだが、流石に商人の護衛でもワイバーン相手には無理だろうということになってクエストが依頼されたんだ。他の高難易度クエストに比べて緊急性が高いから早急に頼む」
「分かりました。それでは、早速行ってきますね」
グレン達6人はワイバーン討伐に向けてガーマイン山脈へと旅立った。普通の人であれば1週間ほど掛かる距離なのだが、グレン達は宝物の一つである飛空石を持っているため、移動は空を飛んでになる。飛空石はAランクであり、かなり貴重な宝物である。
「いやー、Bランクのダンジョンで見つけたこの宝物便利ですよねー。移動が楽になって最高です」
「ミリア気を付けなさいよ。前にそうやって油断して落ちたんでしょ?」
「大丈夫だよ、お姉ちゃん。1回失敗すれば2回目は流石にないからあああぁぁぁーーー!!」
「ほら言わんこっちゃない。オーレリア、風魔法でミリアを捕まえてあげて」
「了解~。ミリアはいつもおっちょこちょい。だけど、そこが可愛いところ」
「あははは・・・オーレリアさんありがとうございます」
Aランクの魔物を相手にしようというのに呑気な雰囲気の6人だが、それは裏付けされた実力があるからである。レベルとステータスと場数の経験値。全てが5年の間に蓄積されてきたため、ある程度の魔物相手に遅れを取ることは無い。
今回も初のAランクの魔物が相手ではあるが、全員が落ち着いている。
「Sランク冒険者でありながらBランクのクエストばかりしかやってこなかったのに、ゲインさんもいきなりAランクのクエストを振るんだもんな」
「なんだぁ? もしかしてグレン、ビビってるのか?」
「いや、全然。この6人ならどんな魔物が相手でも負ける気がしないからね」
「だよなぁ! ブラッディハウンドのギルドマスターがBランクってのもあって、Bランクのクエストしか無かったのは正直退屈だった。やっと自分たちの実力に見合った相手とか格上の相手と戦えると思うとワクワクするぜ!」
「アレスくんは相変わらずだね。僕は初の魔物が繰り出す攻撃を受けることに今から興奮が止まらないよ」
「ペインも大概だぞ」
「結構進んだし今日はここら辺で野宿としようか」
王都ミッドランから東へかなり進んで休息を取れる場所があったため、そこで一夜を過ごす。宝物の一つであるアイテム袋から宿を取り出す。見た目は小さな袋なのだが、中には様々な物が無限に入るアイテム袋となっている。
2つの宿が取り出されて、それぞれ男女に別れて宿に入る。別れる時にレイアとミリアがグレンと同じ宿がいいと駄々をこねたが、オーレリアの魔法によって無理やり宿へと連れてかれた。
「にしても、宝物ってのは便利だなー。こんな大きな宿ですら入るんだもんな」
「確かにね。厨房に風呂まで付いてて、それぞれの個室まで完備されてる大きさの宿が持ち運べるなんて思わなかったよ」
宿の外で料理を作り、それを6人で囲んで食事をする。グレンが作った料理をレイアとミリアが称賛し、オーレリアは黙々と食べる。アレスとペインはグレンへ好き嫌いなどの食事の要望を言い続けている。
そうして、食事を終えるとそれぞれの宿へと戻って行く。
「僕はもう寝るよ。アレスとペインもあんまり夜更かししないようにね。明日には目的地に着くだろうし」
「分かってるよ。日課の素振り5000回が終わったら寝るよ」
「僕も鎧の手入れだけしておくよ」
夜が明けて早朝に出発する。宝物は使用するとマナが消費されていき、空っぽになると使用できなくなる。そのため、定期的にマナを補充しなくてはいけない。現在使用している飛空石もずっと使用し続けて飛んでいるためマナがあまり残っていないのだが、マナを補充するとワイバーン討伐の時に支障が出るかもしれないとギリギリまでマナの補充を行わずに飛んでいる。
マナの補充は魔法使いが基本的に行うのだが、オーレリアほどの魔法使いでも高ランクの宝物をいくつも補充すればマナが枯渇してしまう。
マナが枯渇すると、体が動かなくなりしばらくは何も出来ない状態になる。そのため、一気にワイバーンのところまで飛んで行き、討伐しようとしている。
「見えたな。かなりの数のワイバーンがいるけど、本当にAランクのクエストなのか?」
「まぁ、いいじゃないグレンくん。私は数が多ければ暴れれるから大好きだよ」
「私もお姉ちゃんと同じ意見です。久々の高ランクの魔物でドキドキしてます」
「んじゃ、いっちょやりますかー!」
アレスの合図と同時に全員が一気にワイバーンのところまで一気に飛んで行く。急な来襲に驚くワイバーン達であったが、そんな隙を見せたのが間違いである。敵は二つ名持ちのSランク冒険者。一瞬の隙が死を招く。
「この前行った剣術道場で教わった剣術を試す時だ! 絶技 不知火」
アレスは鞘から高速で抜刀を行う。魔力を流した剣からは炎が発生し、ワイバーンの硬い皮膚を容易に斬る。炎を剣に纏わせたまま次々とワイバーンを倒していき、炎が収まると鞘へと剣を戻す。
「うーん・・・この技は継続して使い続けれないのが難点だな。どんどん行くぜ!」
「アレスばっかワイバーンを倒させないよ~」
無詠唱で魔法を発動させると、オーレリアの周囲の空中にいくつもの幾何学模様の魔法陣が現れる。そして、魔法陣から様々な属性の槍が発射されてワイバーンを倒す。機関銃のように発射され続ける魔法だが、こんなことが出来るのはオーレリアぐらいであり、他の魔法使いではまずもって不可能とされている。
「ミリア、こっちは殺るからそっちをお願いねー」
「お姉ちゃん了解。そうだ。私とどっちが多く倒したか勝負しない?」
「へぇ? ミリアが私に勝負を挑むなんてね。いいわよ。その勝負乗った!」
レイアは一気に駆け出すと、ワイバーンの頭へ蹴りを放つ。その蹴りが当たったと同時にワイバーンの頭は吹き飛び、一撃で倒してしまう。そのまま拳と蹴りで次々とワイバーンの頭を的確に当てることで倒していく。気付けば20匹ほどのワイバーンが倒れていた。
レイアがワイバーンを倒している反対側ではミリアが高速で駆け回りながらワイバーンの心臓へナイフによって正確無比に一撃を与えることで倒していた。レイアが剛の戦い方ならば、ミリアは柔の戦い方で、ワイバーンからの攻撃を華麗に回避しながら攻撃をしている。
「ペインは戦わないのか?」
「うーん・・・僕は防御専門だからねー。どうもこういう殲滅戦は苦手なんだよね。見学してるよ」
「分かった。それじゃあ、新スキルでも試そうかな」
「ん? 新スキルなんて出たのかい?」
「ついこの間ね。んじゃ、やるか。限界突破改」
限界突破改は以前までの限界突破よりも強力なスキルとなっており、ステータス値が4倍になる壊れスキルである。もちろんそれだけ強力なスキルなため、デメリットも大きい。効果時間は1分から30秒に短縮。再使用時間は変わらずだが、マナを全消費することとなってしまう。
だが、グレンにとって30秒も時間があれば多過ぎるぐらいである。
「残影一閃」
2本の刀を構えながらゆらりゆらりとワイバーンの群れへと歩いていく。そして、次第に歩いているグレンが1人2人と増えていき、50人ほどがワイバーンの前に現れると一気に斬る。
一瞬のうちに6連撃がワイバーンに叩き込まれて細切れとなる。それが50匹同時に起こり、ワイバーンの群れは全滅する。
「ふぅ・・・この技は一気に疲れるな」
「グレン! いつの間にそんな技を覚えたんだ? 剣術なんて興味なかっただろ」
「アレスにこの前教えてもらった道場に行って教えてもらったんだ。始めてみたら剣術が面白くなって技を覚えちゃったよ」
「前に言ってたところか。にしても、そんな技見たことが無かったな。あのジジイ隠してやがったな」
「無礼なアレスには教えられんって言ってたよ」
「何だって!」
「ねぇねぇ、グレンくん。私とミリアの勝負見てくれた?」
「レイアの勝ちだったね」
「でしょ!? 褒めて褒めて!」
「むぅ~私の方が1匹だけ少なかっただけなのに。グレンさんが倒さなかったら私が勝ってました」
「あははは・・・それは悪いことをしちゃったね」
グレン達の働きによってワイバーンの群れは片付けられた。戦闘が始まってからわずか数分の間に150匹はいたワイバーンは全滅したのだ。
ワイバーンの群れがいた場所を見ながらペインはじっと考え事をしており、グレンが話しかける。
「やっぱりペインも気になる? ここは食料も無くワイバーンが群れで生活するには適さない。なのにこれだけの数がいた。それが明らかにおかしい」
「うん。ワイバーンは元々警戒心が強い魔物。僕らみたいな高ランクの冒険者が近付けば一瞬で察して逃げると思う。けど、アレスがあれだけ近付くまで気付くことすら無く、疲弊してた。
恐らくはワイバーンよりも強大な魔物が追いやった可能性が高い。それも直近で」
「魔物に詳しいペインが言うことだから信用出来る。冒険者協会に戻ったら報告して探索して貰おう」
ワイバーンの死体をアイテム袋へと入れて、ミッドランへと戻る。Aランクの魔物であるワイバーン150匹を追いやるほどの魔物とは一体何なのか。強大な魔物が王都へと迫ろうとしていた。