初めてのダンジョン
「ダンジョンへの挑戦ですか?」
「はい。Fランクのダンジョンへ挑戦をしたいのですが、どこか攻略されていないダンジョンってありますか?」
「現在いるオルティス王国の王都ミッドラン周辺となりますと、かなりの数がありますね。リスト化して地図へ表示させたのを渡しますね。しかし、いいんですか? 所属ギルドのブラックエデンへダンジョンへ挑戦することを報告しなくても」
「えっと、大丈夫です。知られると厄介なことになりそうなので」
「・・・なるほど何となく把握しました。これは冒険者協会の受付ではなく、一個人としての意見ですが、無理はしないように。どこか焦ってるように見えるから必ず生きて帰ってくるのよ」
「ありがとうございます。アリシアさんもお仕事頑張ってください」
グレン達6人は地図を受け取ると、目を輝かせてダンジョンに向かって出発した。その後ろ姿を見送りながらアリシアはため息を漏らす。
「アリシア、冒険者にあまり肩入れをするな。何かあった時に心がやられるぞ」
「協会長のゲインさんですか。縁起でもないことを言わないで下さいよ。私も分かってるんですが、どこか放っておけないんですよね。あの子たちを見てると。
11歳~12歳の少年少女が冒険者になって戦ってるってだけで不安になりますよ」
「おいおい。アリシアってまさか年下が趣味だったのか?」
「ち、違います!」
「ははは! 冗談だよ。まぁ、何にせよあいつらは大丈夫だよ」
「どうしてそう言い切れるんですか?」
「あいつらはブラックギルドに所属してて今一能力を伸ばしきれていないが、才能は間違いなく王国の中でも天才そのものだ。Fランクのダンジョンぐらいだったら何も問題無い」
「元Aランク冒険者でもあったゲインさんがそこまで言うなんて」
「レベルは確かに低いんだが、ステータス値が異常なんだ。恐らく、グレンはそれに気付いてる。だからこそダンジョンに挑戦ってことになったんだろう。
あいつらがどこまで成長するのか楽しみだ」
最初に向かったダンジョンは、首都ミッドランを出て1日ほど東に遠征したところにあるダンジョンである。高ランクのダンジョンであればネーム有りのダンジョンとなるのだが、Fランクダンジョンは数も多いため、ネーム無しが多い。
「階層は3階層。モンスターはウルフ、ゴブリンが主のダンジョンとなってる。いつも通りの陣形で行こう。タンクであるペインを先頭に僕とアレス、中衛にレイアとミリア、後衛はオーレリアの形で」
「俺の足を引っ張るなよ、グレン」
「よく言うよ。君が討ち漏らした魔物を狩ってるのは僕じゃないか」
鎧で身を固めた金髪の少年がタンク役のペイン。大剣を担いでいる赤髪の少年は前衛で剣士をしているアレス。2本の刀を持っている黒髪の少年がグレン。青髪の姉妹で格闘武器の少女がレイアで短刀を持っているのがミリア。最後に銀髪の魔法使いで後衛をしているのがオーレリア。
それぞれがそれぞれの職に合った陣形で戦う最適解の陣形なのだが、いつも上手くはいかない。
「グレンくんにアレスくんも遅すぎぃ! ほらほら! 私が全部倒しちゃうよ!」
「お姉ちゃん! グレンさんとアレスさん、いつもすいません」
「はぁ・・・結局いつも通りか。ペイン、僕とアレスはレイアの支援に回りつつ火力を出す。なるべくレイアへの防御へ回ってくれ」
「分かったよ。全くお転婆姫はこれだから困るね」
レイアはその身のこなしで魔物の攻撃を回避し続けて打撃で魔物を破壊していく。10歳の時点で入門したいくつもの道場から教えることは無いと言われるほどで、道場の人からは武の神に愛された少女と呼ばれていた。
「レイア、あまり最初から飛ばし過ぎるなよ。君の弱点はスタミナ不足だからな」
「分かってるわよグレンくん。あ、ゴメンね。アレスくんの方に何体か行っちゃった」
「はぁ? レイアのやつ討ち漏らしをこっちに流してくるなよ」
アレスは文句を言いつつもゴブリンやウルフを次々と大剣で器用に倒していく。騎士の訓練などに幼いころから混ざっていたアレスにとっては、これぐらいの魔物など相手にならない。10体ほどいた魔物は一気に倒されてしまい、歯ごたえが無かったのか欠伸をしている。
「お姉ちゃん、私もレベル上げたいんだから私にも魔物を回してよ」
「ミリアどうぞ~」
「ありがとう」
レイアは何体かの魔物をミリアのいる方へ向かうように仕向ける。そして、ミリアは魔物へと走り出す。徐々に加速していき、魔物すらも目で追えないほどの速さで魔物たちの間を駆け抜け、一気に倒してしまう。最高速は盗賊職として他のギルドで活躍していた人が速すぎて捉えることが出来ないと言うほどであった。
「ちょっと数多過ぎない? オーレリア、一気にあいつら倒しちゃってよ。どうせマナも余りまくってるんでしょ」
「余ってるけど、面倒だもん」
「早く魔物を倒したらそれだけ早く帰れて楽出来るのにな~・・・ねぇ、オーレリア」
「早く帰れる? だったら少し頑張る」
オーレリアは奥から来ていた魔物に対して魔法で攻撃を始める。魔法は使う際に詠唱が必要となり、熟練の魔法使いでも数秒はかかるのだが、それを無詠唱でオーレリアは使えてしまう。どれだけ上級魔法になったとしてもだ。魔法の才能は天才と呼ばれるそれであり、将来は賢者にすらなれてしまうだろう。そんなオーレリアの放った魔法によって何十体といた魔物は一瞬で倒された。
「アレス危ない!」
「突然の横からの奇襲かよ! ペインがいなかったらヤバかったな」
「どうってことないよ。いやー、本当にリジェネレーションがあって良かったよ」
ペインは不動の守護者のドMとグレンたちから言われており、圧倒的なまでのタンクとしての性能を有しており、どんな攻撃もどんな状態異常などが来たとしても耐え抜いて後ろへ攻撃を行かせない。頑丈さだけではなく、スキルとして所持しているリジェネレーションおかげで自動的に回復していくので、長時間耐えることが出来るのだ。そして、高火力のパーティメンバーによって魔物を一瞬で倒し、回復をまた行う。その繰り返しが出来るので不動の守護者でありドMと呼ばれている。
「ふぅ・・・やっとボス部屋か。流石に消耗が激しいな」
「少しだけ休憩しようか。ボス戦は僕が率先して戦うよ」
「お! グレンが戦うなら俺たちの出番は無いな!」
ダンジョンの最終目的地であるボス部屋の前は基本的に魔物はいないため、ここで休憩するパーティが多い。グレンたちも休憩をしてから挑むこととする。
「さてと、行きますか」
「おう。マナも回復したからな。といっても、グレンが戦うなら俺たちの出番は無いだろ」
「まぁ、単騎相手だったら問題無いけど、一応は戦う準備をしておいてよ」
「分かってるって」
しっかりと休憩をしてマナを回復させてからボス部屋へ入る。中には、人型の狼が待ち構えていた。大きさは2mほどで、手には身長ぐらいの剣を持っている。威圧感からして今までの雑魚敵とは圧倒的な差がある。
「ボスの名前はウェアウルフか」
「グレン、タンクとして僕が前に出ようか?」
「ペインはどうせアイツの攻撃を受けてみたいだけだろ? ドMで興奮するのは分かるけど、さすがにアイツの一撃は死にかねないよ」
「はぁ・・・残念だよ」
「ペイン、グレンが本気を出したらどっちにしろ出番はないだろ」
「限界突破」
グレンがスキルを発動したと同時に体から真紅のオーラが噴き出る。ウェアウルフは異質な圧を感じて構えを取る。ジリジリと間合いを測りながらグレンとウェアウルフは対峙している。
「アレス~グレンとどっちが勝ちそう?」
「グレンだな。オーレリアも知ってる通り、スキル限界突破の性能は壊れてる」
グレンが2本の刀を構えたまま一気にウェアウルフとの距離を詰める。先ほどミリアが見せた最高速とほぼ同程度の速度で一気に近付き、ウェアウルフが武器を持っている腕をそのまま斬る。丈夫そうなウェアウルフの腕を難なく切り落として次の攻撃へと移る。
「限界突破の性能やっぱおかしいよなー」
「私の速度と同じ速度を出せるなんてグレンさんはさすがです!」
「あれで剣術の手ほどきを受けてないなんておかしいわよね。グレンくんがしっかりと剣術の修業をして剣士としての力を付けたらと思うと・・・あぁ、ゾクゾクしちゃうわね」
「レイアも大概だね。あの攻撃はさすがに僕は受けたいとは思えないな」
「何でも攻撃を受けたいと思えるペインが珍しいな」
「そりゃそうだろ。一撃でも攻撃を受けたら死んじゃうもん」
つい先ほどパーティのリーダーとなってしまったグレン。彼の強さはスキル限界突破である。1分間だけステータス値を2倍にすることが出来るスキルで、単純でありながら強力なスキルとなっている。使用時に大量のマナを消費し、再使用まで5分掛かるというのが難点ではあるが、それ以上に強さを感じさせるスキルとなっている。
「これで終わりだ」
「グアアアァァァーーー!」
ウェアウルフの体に一瞬にして無数の傷が出来て、雄叫びをあげて絶命する。
「グレンくん、もっともっと強くなって手合わせしましょうね!」
「グレンさん、さきほどの速度なのですが、私とどちらが速いのか競争をしませんか!?」
「グレン、やっぱりお前は剣術を覚えろって。そうすれば、限界突破をもっと活かせるぞ」
「君の攻撃はいつも受けようとは思えないほど鋭いね。グレンの火力には惚れ惚れするよ」
「へ~い、ハイタッチ~!」
ボス討伐と同時に5人がグレンに駆け寄ってくる。全員が口々にグレンのことを言ってるのに思わずグレンは照れる。その様子を見て更に5人はからかい始める。
そうしたやり取りをしていると、ボス部屋の奥に宝物が出現する。宝箱に入った宝物は開けてみるまで鑑定でも分からない。全員が息を呑んで宝箱を開封する。
「大きめの宝箱に入ってたのは指輪が6個だけ? 何だよそれー! 武具があれば最高だったのによ!」
「まぁ、何か宝物が手に入っただけでも良しとしましょう。ん? グレンくん、凄い汗をかいて震えてるけどどうしたの?」
「み、み、み、みんな・・・この指輪かなりヤバイかも」
「まさか鑑定で真の効果が分かったのか! こ、効果は何だ?」
「手に入る経験値が倍になる!!」
「「経験値が倍!?」」
こうして初挑戦のダンジョンは無事攻略し終えた。蓋を開けてみれば余裕のクリアである。それもそうだろう。後に世界を揺るがすほどの6人なのだから、これぐらいは当然だ。
そして、ダンジョンを攻略して手に入れた経験値入手倍の指輪。これは、宝物としてはAランク相当の宝物であり、Fランクのダンジョンから出てくる確率は0.003%という超低確率なのである。ビギナーズラックとでも言うべきか。
何にしても、この指輪によって6人の成長は加速度的に増すこととなった。
そして、5年の月日が流れる。