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彼女を奪い合うことで殺し合う

人体を損傷させる描写があります。ご注意ください。

本日まで書いて不意に思いましたが、あまりにも王太子が脳筋。あまりにもパワフル。

瞬きに涙は流れて、少しだけ鮮明になった視界には小剣を振り降ろすフレデリックが見えた。

右半分を血の滲む包帯やガーゼで覆った痛々しい顔に、凄まじい形相を浮かべている。


「は・・・」


オーレリアは息を漏らす。瞬間、彼女の胸に顔を埋めているカルロへと小剣の刃先がめり込む・・・はずだったが。

金属が擦れ合う不快な音が響き渡る。瞬きのたびに涙を零すオーレリアの目には、激しい音の原因が映っていた。

カルロは床に伏すオーレリアに体を向けたまま、いつの間にか手にしていた短剣で、背中に振り下ろされた小剣を受け止めていた。

唇を舐めながら、背中を上げた彼は、横顔を向けてフレデリックを睨み付ける。


「不意打ちなぞ暗殺者になったつもりか?ああ、正面からでは私に勝てないから隙を突くような真似をしたのか。流石、悪知恵の働く卑怯者のすることだな」


「カ、ルロォ!!お前、よくもオーレリアを!!」


怒りの滲んだ声を発して、フレデリックは小剣を押し込んでいた。オーレリアにも、黒い礼服の下からも分かる筋肉の張りと腕の震えから、力を込めていると理解できたが、僅かも短剣は動かない。

フレデリックの力ではカルロに敵わない。両手での押し込みを物ともせず、片手に持った短剣で制御した彼は、膝を上げると、その勢いのまま立ち上がった。逆に押されたフレデリックが、ふらつきながら後退する。


「夫婦の閨事の邪魔をするとは無粋な輩だ・・・すぐに始末しよう。そのまま待っていてくれ」


「っ、いや!リボンを外して!!」


オーレリアの声は届かない。カルロは余裕だと口元を緩めて振り返った。

血の滲む顔を苦痛と歪ませるフレデリックに、短剣を手に歩み寄っていく。


「死んでいなかったのは驚いた。しぶとい男だな・・・あのときも、この場で胴を切り刻んでやったのに最後まで生きていた。だから、記憶を持っている。真っ先に殺しておけばよかった。その忌々しい顔を完全に破壊して、二度と生意気な口が聞けぬように喉を抉ってやればよかった!!そうすれば貴様にオーレリアを奪われなかったのに!!」


「僕も、すぐにお前を殺していればよかったと後悔している。時が戻るあのときの話じゃない。お前を目にした瞬間、お前だと認識した瞬間、すぐに殺していればよかった!!」


フレデリックが詰めたことでカルロが立ち向かい、小剣と短剣を交えながら、オーレリアの視界から消える。

仰向けに拘束された彼女には、二人の怒号と剣戟音しか聞こえない。潤んでいる紫色の瞳には、白い石の天井が映るだけ。


「どうにか、止めないと・・・」


どうやって。

腕を縛られただけで何もできない非力なオーレリア。布製のリボンすら外すことができない。圧倒的に力事が向いていないと自覚する。あまりにも弱い自分自身を嘆きつつ、ただそれでも、声だけでも出そうと体を横に向けた。

彼女の視界に戦っているフレデリックとカルロが映る。満身創痍だと肩で息をするフレデリックを、力で勝るカルロが押していた。短剣を振るうだけで、小剣を弾き、いなして、合間にフレデリックの体を蹴り込んでいた。


「ぐっ、ぅ・・・!」


「どうした、私を殺すのではなかったのか?威勢が良かったのは最初だけか・・・あまりにも弱いな」


カルロが短剣を振り上げれば、フレデリックの小剣は弾かれて、握っていた手からも零れ落ちた。鋼鉄製と思しき小剣は床に当たり、転がり、壁際で止まる。

目線だけで追っていたフレデリックだったが、素早く距離を詰めたカルロへの対応が遅れた。伸ばされた手に首を掴まれてしまう。皮膚に食い込む様から、強い力で絞められているのだと分かる。

フレデリックは歯を食いしばり、カルロを険しい表情で睨み付け、自身の首を絞める手の腕を掴んだ。剥がそうと指を食い込ませて抵抗しているが、カルロには余裕綽々と涼しい顔が向けられている。


このままではフレデリックが本当に殺されてしまう。


「や、止めてください!カルロ殿下、フレデリック様を離してください!!お願いします、殺さないで!!」


「・・・可愛い声で囀るな、オーレリア。君の声は聞き心地がいいが、フレデリックのために鳴くというのなら、この手にも思わず力が入るというもの」


「っ、ぁ・・・く・・・」


「はははっ、苦しいか?苦しいだろう・・・私もオーレリアと出会えぬ日々を苦しんでいた。貴様の思うように事が進んでいるのを歯噛みし、悪辣さに怒りを覚えたものだ・・・今、貴様が感じている悔しさも怒りも、私が感じたものと同じだ。私と同じく腸が煮えくり返る怒りと、まともに呼吸すらできない苦しみを感じながら死ぬがいい」


オーレリアの目には、カルロの筋肉逞しい腕が緊張するのが映る。フレデリックを絞め殺すために、万力を込めているのだと分かった。


「カルロ殿下お願いします!フレデリック様を殺さないで!お願いですから殺さないで!私・・・な、何でもいたします!あなたの望むことなら何でもしますから、だから、殺さないで!」


「非常に魅力的な提案だな、オーレリア。ただ、それはフレデリックを殺しても成せること・・・この外道を殺したら、私の望む通りに君を愛してやろう」


流し目が向けられる。ゾッとする視線を受けるが、フレデリックの首の締め付けは緩まない。カルロは殺意を失わない。

このままでは愛する人が殺されてしまう。いつか失う気持ちだとしても、今の彼女にはフレデリックは最愛の人。

非力でも体をよじり、リボンの拘束から逃れるために、精一杯腕を引く。外れることを願って、外れたならばカルロに飛びかかって、体を張ってでも止めなければいけない。

引き抜こうとする力に、縛られた手首が痛みを発する。苦痛に両目を閉じたオーレリアは、引き抜きを再開するために、両目を開いた。


「なっ!?」


次に視界に映ったのは、頭から血を流しているアルバが、カルロの太い腕を掴んでいる姿。フレデリックよりも筋肉があると分かる体格で、力を込めて、首から手を引き剥がす。


「貴様ぁ!!ぁ、あ?ぐ、ぅっ!!」


彼はアルバを振り解く。だが、そのまま怒鳴り声を上げようとした声は、気の抜けたものに変わり、最後には苦痛の声となった。

首の締め付けがなくなったフレデリックが、腰のベルトから短剣を引き抜き、カルロの手に突き刺していた。

痛みで固まる隙を突いて、突き刺した短剣をそのまま上にスライドさせて前腕まで裂く。


「あぁぁっ、ぐぅうぅっ!」


唸り声が上がり、鮮血が噴き出した。カルロは裂かれた左腕を庇うように身を屈めたが、その体勢のままフレデリックに突進をする。右手に持つ短剣を突き刺そうとしたのだろう。

彼は素早く避けると、身を屈めて、カルロの太腿に短剣を突き刺した。


「ぐあっ、ぁが、ぐっ!」


動作が止まった一瞬、フレデリックが体当たりをすることでカルロを倒した。横向けに倒れた彼に跨ると、血に濡れた短剣を振り上げる。


「フレデリック、殿下。殺害は、やめていただきたく・・・」


荒く息を吐きながらアルバが訴える。


「フレデリック様!王太子であるカルロ殿下を殺害されたら、どのような理由があろうとも処刑になってしまうわ!止めて!お願いだから止めて!」


「死ねカルロ!!」


「このっ、不敬極まりない、愚弟が!!」


止めようとする二つ声は、二つの怒声にかき消される。カルロの首に目掛けて、フレデリックは短剣を振り下ろした。


「何をしている!!」


別の怒声が響く。愛憎渦巻いていた塔の内部に、いるはずもない人物の声が響いた。

フレデリックの短剣は首に刺さる手前で止まり、憎しみ合う兄弟の視線がその人物に向かう。膝を付いていたアルバは頭を向け、すぐに額が床に接触しそうなほど、その頭を下げた。

手の拘束がいまだに解けないオーレリアは身を捩り、声が聞こえた方角に体を向ける。


「まあ!なんてこと!」


悲鳴を上げたのは母親。オーレリアの母の声がして、駆け寄る足音が近付いてきたと感じれば、すぐに彼女の体は抱き締められた。


「何て酷い!私のオーレリアになんてことを!!早く、誰か外套を!オーレリアの肌を隠すものをお願いします!」


母親が、露わになった肌を隠すように抱き締めている。そう気付いた彼女は、次に拘束も解かれたと分かった。母親が一生懸命にリボンの結び目を解き、オーレリアの両手を解放していた。

抱き締められたまま上体を起こされた彼女に、フレデリックの護衛騎士ミオが外套を差し出す。受け取った母親が素早く体に包み、晒されていた肌を隠してくれた。

その最中、オーレリアの紫色の瞳には、国王夫妻と父親のルヴァン公爵、そして祖父の姿が映っていた。

塔の内部にやって来た彼らは、それぞれの表情を浮かべていたが、その視線はフレデリックとカルロに向かっている。

今しがた殺し合っていた二人を、感情は違えど強い眼差しで見つめていた。

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