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悍ましい行為

オーレリアが襲われています。ご注意ください。

怒らせた。怒るカルロがどのような行動を取るのか、その身に受けたからよく分かる。

強い力で殴られて、歯が欠けたことがある。鼻が曲がり、顔は青痣だらけになっていた。骨も、頭や体を問わず折られたことは数しれず。

彼が、怒ったカルロからの暴力の被害者であるオーレリアには、あの激痛を与えられると体を強張らせた。


「君は心を操られているのだ。今フレデリックに抱いている感情は本意ではない。『愛の妙薬』の効力が失せたら、その感情も失う。君はフレデリックなぞ愛していないのだから、嫌悪しているはずだ。君自身を否定する暴言を吐き出し、蔑んでいたのを覚えている。君とて覚えているだろう?奴の暴言に深く傷付いていた顔を見たことがある」


「そ、それは、バーバラ様に操られて行ったことでしょう。今しがた、カルロ殿下自らが教えてくださったではありませんか。あのときの、私が十四歳から処刑されるまでのフレデリック様の言動は、ご本人の意思ではなかったと」


「だが、君は奴を恐れたはずだ。関わろうとせずに距離を開けていた。時が戻る前と今で奴に違いはない。君に優しく取り繕っているのは、美しい君が惜しくなったからだ。下卑た欲望から君を好きに扱えて喜んでいるだけ。内心では嘲っているのだ」


弟に対する言動とは思えない。オーレリアは、カルロの後ろに控えているアルバへと視線を向けた。苦々しい表情を浮かべていた兄は、彼女の視線に気が付くと、心配そうな表情に変わる。

だが、兄妹が視線を向け合っていることに気付いたカルロの体によって、アルバの顔は隠された。


「なぜ、カルロ殿下は弟であるフレデリック様のことを悪く仰るのですか?私とアルバお兄様のように、血を分けた兄弟ではありませんか」


「あの愚弟が君を奪ったからだ!!!」


耳をつんざくほどの怒号が響き渡る。頭に痛みすら感じたオーレリアは、怒りと苛立ちで凄まじい形相のカルロから更に距離を取ろうとした。

しかし、金の台座を回り込む前に、彼女の細い腕は彼の大きな手に掴まれる。


「いっ!?離してください、カルロ殿下!」


「私は君をフレデリックにくれてやるために時戻しをしたわけではない!!再び君と出会いからやり直したかったからだ!!政略の婚約ではなく想い合った恋人として愛を深めたかった!!それなのに君を奪われるなど許せるわけがないだろう!!」


「いたぁ、い!はな、離してください!」


掴まれた腕に万力と締められて、オーレリアの顔は苦痛で歪む。このままでは、カルロならば、彼女の細腕を握り潰してしまうだろう。


「はなしてぇ!いたい!」


「私から逃げるなオーレリア!君は私のものだ!!私だけが君を愛し、君は私だけを愛するのだ!!それなのに他の、フレデリックなぞに渡すものか!!」


「止めてください!!」


静観していたアルバが、彼女を助けようと二人の間に入り込む。細い腕を絞るほど握り締めていた彼の手を、外そうとする。


「もう止めましょう!これではただオーレリアを苦しめるだけです!殿下はオーレリアの幸せを願って時を戻されたはず!このようにご自身の気持ちを押し付けてオーレリアを害するなら、俺は」


「邪魔をするな!!」


「ぐっ・・・!」


カルロのもう一方の手が、アルバの首を掴んだ。決して細くない男の首を、片手で絞め上げていく。


「やめ、きゃあっ」


アルバを助けようと手を伸ばしたオーレリアだったが、強い力で腕を引かれたことで、床に倒された。石材の床に当たった足が痛み、それでも耐えて顔を上げれば、カルロはアルバの首を掴んだ手だけで持ち上げていた。

苦悶の表情を浮かべた兄は、首に食い込んでいる手を、自身の両手の指で引っ掻いているが、カルロはものともしない。


「アルバ、貴様はまた私に歯向かうのか?私に協力すると言ったのは偽りだったのか?主である私と共にオーレリアを幸せにすると言ったではないか!!」


「ぁ、が・・・っ、がはぁっ!?」


藻掻いていたアルバは、カルロが投げ捨てるように放ったことで石材の床に叩き付けられた。


「お兄様!」


彼女は思わず声を張り上げる。半身を打ち付けて僅かに震えている兄を気遣うが、カルロが二人の間に立ち塞がった。彼は、アルバの前に立つと、勢いよくアルバの顔を踏み付ける。


「いやぁっ!止めてぇ!!」


彼女の悲痛な声が響く。反響する。それなのに、カルロが気にせずアルバを何度も踏み付けた。踏まれるたびに呻き声を上げる兄の体は、次第に力が失せていく。


「あ、ぁ・・・お、お兄様」


最後にカルロはアルバの頭を蹴り上げた。


「が、は・・・」


口からか、頭からか分からないが、弧を描きながら血を撒き散らし、アルバは床に倒れ伏す。

一切動かず、ぐったりとした様子から、兄は死んでしまったのかとオーレリアは恐れた。


「王太子を前にして虚言など許すと思ったか。暫し反省していろ・・・いや、意識を失っては反省のしようもないか。は、ははっ、ははははっ」


「お兄様・・・お兄様・・・」


立ち上がって、昏倒したアルバに駆け寄ろうとした。いや、それよりも医務官を呼ぶべきだと考えが浮かび、両腕を支えに上体を起き上がらせた。

扉に視線を向けて、彼女は立ち上がろうとするも。


「さて、オーレリア。君にもよく教えなければな。自身が誰のものなのか、しっかり教えてやろう」


カルロの足は筋肉で逞しくも長く、数歩動いただけでオーレリアの前に移動してしまう。

戦慄く彼女が見上げれば、遥か頭上から見下ろしてくる顔。欲の滲む赤い瞳にじっとりと見つめられていた。


「いや、あっ!やめてぇ!」


ドレスの肩口の布地を掴まれると、その身は引き摺られた。一メートルほどの移動だったが、布と肌が擦れたことでヒリヒリとした痛みを感じる。

険しい顔になったオーレリアに、カルロは床に膝を付いて屈んだ。赤い瞳が間近にある。彼の高い鼻と、オーレリアの鼻が触れ合っていると感じる。


「フレデリックに操られている君は抵抗するだろう。これは致し方ないことだ」


「何、を・・・えっ、いや!駄目!返して!」


カルロは金の髪を留めていたリボンを引き取った。フレデリックからの贈り物を奪った。

咄嗟に、彼女は手を差し向けて取り返そうとするが、その手は掴まれて捕らえられる。


「いっ・・・はなし、いや!」


もう一方の手も捕らえられて、カルロは容易く片手で纏めた。「時の砂」がある金の台座の脚にオーレリアの両手を近付けると、フレデリックの色のリボンで括った。頭の上で両手を拘束される。

もはや逃げることもできず、彼を前にして体は無防備にされてしまった。


「カ、カルロでん、殿下。こ、こう、そく、拘束をといて」


恐れで震えで歯がぶつかり合い音を立てる。感情のせいで涙が浮かび始めて、視界に映る男のいやらしい笑みを歪ませる。

なぜ、腕を縛れたのか。抵抗できないように拘束されたのか。

ここまでされたのなら、性に疎いオーレリアにも分かってしまう。分かったからこそ恐怖で震えていた。


「オーレリア」


「ひっ・・・」


カルロの手の指が、ゆっくりとオーレリアの頬をなぞった。その感触に怖気を走らせる。

先程、彼はオーレリアが「フレデリックに嫌悪していた」と言っていたが、今の彼女はカルロに嫌悪感を抱いている。成そうとする考えと行動が悍ましいと思っていた。


「君はあのときの初夜で言っていた。『妻の役目を果たしたい』と」


「あ、あれ、あれは、それしか私に道がなかったから。王妃とし、て、次代を、生まないと、いけなかった、だけで、今は!」


「役目を果たしてほしい」


頬をなぞっていた手が動き、首筋、胸元と落ちると、左胸の形を確かめるように手のひらで触れた。彼女が体を跳ね上げれば、更に下に向かって、脇腹を手のひらのままで撫で、下腹部で止まる。カルロはゆるゆると「そこ」を撫でる。


「妻の役目として私の子を宿してもらう。すぐに子が出来るように、この胎の中に沢山子種を注いでやろう・・・」


顔が近付けられたことで欲の滲む表情は見えない。爛々とした光の宿る赤い瞳だけが、オーレリアの視界に映った。


「なにより、フレデリックは死んだ。私が殺した。もはや君を汚すことはできない!!」


「な、何を、言って」


「顔をズタズタに裂いて殺してやった!!奴には何もできん!!死んだからな!!私が殺してやった!!ははははっ」


「ぁ・・・あ・・・ぁぁ・・・」


突如の衝撃から涙が流れ落ちる。紫色の瞳から溢れるように頬を伝っていく。水晶のような煌めきの雫は、止めどなく流れていく。

悲しい、苦しい。その思いはオーレリアか、「彼女」か。どちらとも言えた。オーレリアは、まだフレデリックへの愛を失っていないのだから。


「ひっ、ぅ・・・うぅ・・・な、ぜ、どうして、こ、ころ、しっ」


「君を奪ったからだ。当然の報いだ・・・私から『妻』を奪おうなど、万死に値する。死しても許されることではない・・・さて、オーレリア」


下腹部を撫でる手の動きは止まり、その手はドレスの布地を掴んだ。一旦上体を上げたカルロは、力を込めてドレスを引く。


「な、っ、フレ、デ・・・さまぁ」


「君には私がいる。もう死人のことは忘れろ・・・二度と思い出すこともなく忘却するように、私が快楽を与えてやろう」


フレデリックの瞳の色をしたドレスは引き裂かれる。レースも下地も、腰から縦に裂けて、コルセットとパニエが露わにされた。


「いやぁっ!」


「フレデリックの色など不吉だ。事が終わったら赤いドレスを用意しよう。私の色だ。君によく似合う。君にこそ相応しい色だ」


パニエも破かれて、胴から引き抜かれると放り投げられた。下着だけを身に着けた下半身が剥き出しにされる。

拒絶の悲鳴を上げてもカルロは止まらない。彼女の両足の間に自身の体を割り込ませると、背中を屈めて、再び顔を近付けてきた。

凝視と視線を合わせながら、彼の手はコルセットの結び目を解き始めている。


「オーレリア」


「いやぁ、あ、ん・・・んっ!んん」


悲鳴を上げることで開いていた唇に、カルロが齧り付いた。見開いた目には彼の赤のみ。彼の舌が口内に入り込んで、あらゆる所を好き勝手に舐められている。彼女が奥に引いていた舌も絡め取られ、擦り合わされた。


「んんっ!んー!ん、ん・・・ん・・・」


深いキスに息が苦しくなり、思考が眩む。フレデリックに教わった通り鼻で息をすることで窒息はしなかったが、その分、口内を蹂躙する舌の感触を得て不快だった。


「・・・はぁ、あまり気持ち良くないか?」


舌が離れて、合わさっていた唇も離れる。息苦しかったキスに、オーレリアは荒く呼吸を繰り返すだけ。

二人の口を繋ぐ混ざり合った唾液の糸がぷつりと切れれば、カルロは濡れた口元を舌で舐めていた。彼の目はうっとりとしていて、快感を得ていると嫌でも分かってしまう。


「今は許そう。私に慣れれば嫌でも感じるようになる」


コルセットの紐が完全に解けたことで胸に開放感を得た。泣き続けたことから歪む視界であっても彼女には分かる。カルロの視線が、露わになった胸に向かっているのだと。


「・・・ずっと夢に見ていた。君の美しい肢体を。全てを目にして、触れることを」


彼の頭がオーレリアの胸に向かって動く。恐ろしい行為が始まるのだと、彼女は唇を噛んだ。

頭が動いたことで開けた視界。涙に滲んでいる視界。その中に別の、黒髪の男が見えた。表情こそは見えないが、顔の右半分が白で覆われ、赤が滲んでいて、右手で小剣を振り被っている。

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