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彼女は真実を知る

セリフ長過ぎてごめんなさい問題。

あと、これほど最後が長引くとは思いませんでした。ごめんなさい。

「なぜ、時を戻されたのですか?」


茫然とするオーレリアは、無意識的にカルロを見上げて呟いた。その声はか細い。彼は笑みを零すと、彼女の額にキスをした。

想われていることが不可解で、感触が不快で、オーレリアは体を跳ね上げる。そのままカルロの胸を両手で押し、抱擁から逃げようとした。


「そう暴れないでくれ。君の温もりは感じていたいのだ」


「もう、いや!嫌です!降ろしてください!!」


背を仰け反らせ、腕が真っ直ぐになるほど力を込めて胸を押す。外聞など気にせずに必死に押した。


「カルロ殿下、一度降ろしてあげてください。このまま困惑したオーレリアに話をされても、理解できないでしょう」


「・・・」


カルロはアルバを睨み付けると、王太子らしからぬ舌打ちをした。忌々しいと体現していたが、抱き上げている彼女に視線を落とす。すぐに柔和な表情を作って、そっと降ろしてくれた。

オーレリアは彼を見ながら後退する。動向に注意を払い、視線をそらさないように、ゆっくりと下がって「時の砂」の台座の前に立つ。


「再び、お伺いします。なぜ時を戻されたのですか?」


「失った君を取り戻すためだ」


即答と答えたカルロは、オーレリアへと手を差し出した。愛を乞うような所作に、彼女は首をゆるゆると横に振る。


「そのような理由はおかしいのです。わ、私は・・・あなたの最愛のバーバラ様を毒殺を画策したとして、火刑に処されました。あなたが処刑を言い渡したのです。問答無用で牢獄に入れられた私は、複数の囚人達に嬲られながら、あなたの死刑宣告を受けました。あの激痛と苦しみの中、宣告を受けて絶望したことを、私は・・・忘れません。苦し、かった・・・私はそのようなことをしていないのに、体中を傷付けられて、あなたには私の言葉が届かなくて。どうして、このような処遇を受けるのか、分からなくて・・・皆様に蔑まれて、悪だと罵られて、弁解もできずに痛め付けられて・・・そのまま、死にたくはなかった・・・」


感情が高ぶったことで嗚咽を漏らすが、浮かんだ涙は手の甲で強引に拭った。メラニーに施された化粧が落ちると分かっているが、涙を見せたくはない。

バーバラの言う「弱い女」そのものだからだ。


「ああ、私は君を処刑した。囚人共に嬲り殺せとも通達し、瀕死に近い君を火炙りにして、遺体すら徹底的に破壊した。尊厳などないと川に流して廃棄までした・・・そのようにしろと『あの女』に命じられたからだ。『あの女』、バーバラが、私を『愛の妙薬』で操って君を苦しめるように命じたからだ!!」


「バーバラ様が、操って?『愛の妙薬』?」


「それが君に話すべきことだ、オーレリア。いいかな?私は・・・私を含めたアルバとフレデリック、それにロノヴァとチェスターは、後に王城の高官となる貴族令息達と共に、イルルラルバの神器『愛の妙薬』を飲まされていた。中央学園で『あの女』に出会い、招かれた茶会で振る舞われた紅茶に混ぜられていたからだ」


「イルルラルバ神の神器?・・・いえ、違います。イルルラルバ神の神器は『人の心を操る美女達』です。私の祖父が解明し、実際にイルルラルバ神の神殿遺跡の最下層には、神器である女性達の人骨が何体も見つかっています」


祖父の見解に間違いなどない。古くからある伝承や童話と照らし合わせて解明した。人を惑わす美女という生きた神器を発見した、はずだった。


「女が神器ではなく、神器を女に使わせていたのだ。アルスター殿が目に付けた昔話のように、屈強な戦士や王侯貴族に近付き、油断をしているところで『愛の妙薬』を飲ませて操る。イルルラルバは愛欲の神だったな?その名の通り、性欲を刺激して、その欲を満たすために飲ませた相手に従ってしまう。分かるかな?名前を呼ばれて目を合わせれば、相手の虜になり、性交したいがために従う。それがイルルラルバの悍ましい神器『愛の妙薬』だ。時が戻る前は、バルザドール家がイルルラルバの神殿遺跡を得たことで、中に隠されていた神器を手に入れていた」


語っていたカルロは、深く溜め息を付くと、手で自身の額を掴むと身を屈めた。


「『あの女』は!!私達に『愛の妙薬』を飲ませて操った!!自分にとって邪魔な存在である君を虐げるように!苦しめるように!殺すように命じてきた!!無垢で清らかな君が悪女だと風潮させて!!醜いと笑えと言った!!何をしても嘲笑えと!!蔑めと!!殴って顔を破壊しろとも命じてきた!!骨を折れと!!二度と癒えぬ傷を付けろと言った!!私はそのようなことをしたくなかったのに!!気が付いたら、正気に戻ったら君を殺していて絶望して、君がいないことが苦しかった!!君が好きだった!!愛していた!!君と結ばれることを喜びにして生きていたのに!!王子として、王太子として頑張っていたのに!!あの女に言われたから愛する君を殺していた!!操られて、なぜ、君を殺し、ああ、あ、オーレリアァ!!」


頭を抱えて叫ぶカルロ。その声は塔の中に響き渡り、反響している。

振動すら感じたオーレリアは、彼に対する恐ろしさから更に下がる。だが、すぐに彼女の体は「時の砂」がある金の台座に当たった。

カルロは顔を手で覆いながら、もう一方の手を伸ばしてくる。


「・・・その後は、このカルネアス王国も荒廃していった。王妃として財源や法律を制御していた君がいなくなったからだ。『あの女』が湯水の如く国庫の税を使い尽くし、従う私達も好きなようにさせていた。『あの女』のための法律も出来た。『あの女』をカルネアス王国の国民全てが崇めるようにもした。ロルカの公子が引き取るまで、ずっと続けられた」


「ロルカ公国の公子様が、バーバラ様を?」


「見初めたなどと言っていたが、『愛の妙薬』を飲まされただけだろう。実際、正気に戻ってすぐに送還を通達したが、すでに処刑されていた。鼠か、肉食の魚に生きたまま食わせたと聞いている」


オーレリアの死後に行われたバーバラの悍ましい処刑方法に、彼女はゾッとして両手で肩を抱いた。顔色も悪いだろうと、思考が眩むことで理解する。

そんなオーレリアに、カルロは顔を上げて歪んだ笑みを見せた。両手を彼女へと伸ばす。


「何もかもに絶望した。茫然と殺してしまった君のことだけを考えていた。そうして過ごしていれば、ロノヴァが反旗を翻して王城に攻め入り、フレデリックはルヴァン公爵と徒党を組んで私の殺害を目論んだ。臣下のアルバとチェスターは、私と共にいて・・・君を取り戻そうと考えた。『時の砂』を使って、君が生きている時間に、君と出会う日に戻って、君と結ばれるはずだった・・・それ、なのに!!」


語りが終わるとカルロは咆哮を上げた。獣のような唸り声は、また塔の内部に響き渡り、オーレリアは怯えで身を震わせる。

怖い。真実を話すカルロの様子は異常で怖い。内に秘めていた想いを噴き出すように荒ぶる姿。大柄の体躯を震わせる迫力は凄まじくて、小柄なオーレリアには抱えきれない。声を掛けることも、身を寄せるなど以ての外だった。

ただ怖いと思うだけ。本意ではなかったと知れても、彼から受けた凄まじい暴力の思い出が恐怖を助長させる。


「オーレリアァ・・・」


「ひっ・・・」


ギラギラとした赤い瞳の眼差しが向けられる。射殺すような眼光、唸るように発した声に彼女は悲鳴を漏らした。


「君は、今までの話を聞いて気付いたか?君自身が操られていると、『愛の妙薬』を飲まされていると、気が付かなかったか?」


「い、いえ、そのようなことは、有り得ません。私が口を付ける飲み物は、毒見がされますし、『愛の妙薬』を飲ませられる理由が、わ、私にはありません」


震えた声で答えれば、カルロは口の端を吊り上げて笑う。


「今の世界では『あの女』、バーバラは『愛の妙薬』を所持していない。所持者はフレデリックだった。奴は、バルザドール家が神殿を得られなかったことで、他の者には漏らさず秘密裏に『愛の妙薬』を手に入れていた。君に飲ませることで、偽りの愛を抱かせて婚約者に納まった。君を得るために数年に渡って飲ませていた」


「そ、そのようなことを、フレデリック様がするはずありません!」


「では、濃い桃色の液体は知っているか?少々とろみがあり、質感はジャムに近い」


「っ・・・」


よく知っている。フレデリックと会うたびに、いつも紅茶に混ぜられていた。直接口にしたこともある。ジャム、すり潰した果実、砂糖。そのように名前を変えて何度も飲んだ。最近では混ぜられるのが当たり前で、何も思わずに口にしていた。

あの液体。飲むたびに体が熱くなり、月経が始まってからはお腹の、下腹部が疼いて妙な気分になる。愛するフレデリックと一緒のときに口にするため、その体にもたれて耐えていた。キスをして紛らわせていた。結局は高まってしまうことを恥じて、黙っていて。

そして、体を深く繋げたあとは高まりに従って求めあって、快楽に耽っていた。

カルロが説明をする「愛の妙薬」は、性欲を刺激されることで相手を求め、その相手と交わりたいがために命令に従ってしまう。

まるで、確実に、今のオーレリアにその症状が出ている。フレデリックに飲まされていた液体が、「愛の妙薬」だったから。


「わ、私・・・そんな、フレデリック様がそのようなことを・・・」


くらりと頭が眩むのは、衝撃に血の気が引いたから。貧血のような感覚に、彼女は背中を屈めて、強く鼓動を繰り返す心臓を抑えるように、両手で胸を押さえる。


「ああ、やはり悪神の邪悪な神器を飲まされていたのか。かわいそうなオーレリア、私のオーレリア・・・邪悪で獣欲凄まじいフレデリックに操られていた。奴の欲望のままに扱われたことで、恐ろしい思いをしたのだな。苦しかっただろう?愛してもいない相手に身を捧げるなど、苦痛に他ならない。私はそのような君を苦しみから解放して上げたい。私こそ君を心から愛しているのだから・・・」


カルロが近付いてくる。手を伸ばしたまま、ゆっくりと、オーレリアへと近付いてくる。

彼は、彼女を捕らえたのなら再び抱き締めてくる。優しく愛を囁き、慰めるように肩を撫で・・・欲に従って唇を貪るだろう。抱えた体を押し倒して、愛だと囀って、ドレスを剥ぎ取ってくる。

声に反してギラついた瞳が何よりの証左になっていた。カルロに身を任せてはいけないと自覚させられる。

何より、恐怖しか感じない彼に、心も体も許せるわけがなかった。


(フレデリック様・・・)


何度も愛を囁いてくれた人を思う。彼は優しかった。迫力を持って迫ることはなく、嫌がればすぐに身を引いてくれた。その唇から語る愛の言葉は、時折、ひっかかる物言いをしていた。


『覚えていて、オーレリア。僕は本当に君を愛している。だから、拒絶はしないで・・・君と幸せになりたいんだ』


そのうちの一つを思い出して、オーレリアは縮めていた体勢を戻した。体は震えていても、心を奮い立たせてる。近付いてくる男に、手のひらを見せて制止を呼びかける。


「これ以上は、近付かないでいただきたく存じます。わ、はぁっ・・・私は、フレデリック第二王子殿下の婚約者。時を待たずして婚姻を結び、夫婦となります。王太子殿下とはいえ、私達の関係を解消するなどできません・・・何より、私はフレデリック様を信じています。ご本人から受けた愛は真実であり、清らかな想いからだと感じています。例え、私の気持ちが偽りだったとしても、正気となったとしても、フレデリック様から受けた愛は忘れません。信じることができると、私の気持ちを支えてくれるはずです」


今ある愛によって紡いでいる言葉だと理解している。この気持ちを失えば、フレデリックに向ける熱がなくなると分かっている。

だが、彼に対する信頼は残っているはずだ。誠実な人だと共に過ごした時間が教えてくれるはずだ。


立ち止まったカルロは、爛々とした目を見開き、すぐに眉間に深い皺を刻むほど険しい顔となった。愛を語った口は苛立ちからか、食いしばった歯を見せてくる。

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