表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/99

何もかもが手遅れだった

アルバ視点。

剣を振り上げるカルロ。アルバがその腕を掴むことで、軌道は僅かにそれたが、結局フレデリックの顔に剣先が突き立てられた。右顔面から勢い良く鮮血が噴き出す。


「フレデリック殿下!」


「アルバァ!!貴様は誰の部下だ!!」


力任せに振り払われる手。再び、カルロはフレデリックに剣を振り下ろす。首を狙っていると分かり、アルバは強靭な腕にしがみついた。また剣の軌道はそれたが、血の気の引いたフレデリックの頬を裂く。

斬り裂かれた顔面は、鮮血に染まっている。ピクリとも動かない彼に息があるのか。怒るカルロが、その胴を蹴り上げたことで確認できなった。壁際に飛ばされた体はぐったりと横たわり、赤い血を流し続ける。


「離せ!!」


「ぐぅっ!?」


カルロの自由になっていた左手が拳となってアルバの顔にめり込んだ。鼻から激痛が走り、血管が脈打つ感覚を強く得る。痛みから手を離した彼は、手と肘をカーペットに付いて四つん這いとなる。痛みの凄まじさから鼻柱が折れたのかもしれない、と朦朧としながら思った。


「ぁ、ぐ・・・はぁ、あぁ」


「貴様、私はフレデリックを殺すと言ったはずだ!なぜ止める!!なぜ邪魔をする!!貴様の主は誰だ!!?」


「カルロ、でん、か・・・他なり、ません・・・はぁっ、あ・・・ただ」


顔を上げれば、霞む視界の中に正面から見下ろしてくるカルロの姿がある。輪郭すらぼやけているのに、怒りの炎の灯る赤い瞳だけは鮮明に見えた。

言葉を間違えれば、力なく倒れ伏すフレデリック同様に、強靭な足で顔面を蹴り上げられるだろう。


「カルロでん、かは王太子、です・・・はぁっ、兄弟殺しを知られれば、その地位は危ぶまれ、ます。現国王、へい、かは、お許しにならない・・・」


「フレデリックの殺害が明るみにならなければよい!!配下も含めてこの屋敷ごと焼き払ってくれる!!」


「非常に、危険な考え、方です。殿下・・・夜間の襲撃、とはいえ、目撃者の皆殺しなど、暴君そのものの発想。事は、封殺も難しい、状況でもあります・・・殿下の行いではない、と隠蔽をされなければ、明日には全てが明るみになります。残虐極まる行いに、王位継承権は、剥奪となり・・・大量殺人犯として、処刑されてしまう」


カルロは何も答えない。歯軋りの音だけが聞こえた。怒りか、悔しさか、後悔なのかは分からない。だが、強い力で歯を食いしばりつつ、アルバの言葉を聞いている。


「第二王子襲撃犯は・・・俺が代わりの者を仕立てます。カルロ殿下の地位を盤石とし、以前の、ように王位継承となれば・・・その権限を持って、何もかもを支配できる」


「・・・例えオーレリアが侯爵となっても、王命によって召し上げることができるということか」


「っ・・・その、通りです」


顔中に伝わる激痛に、アルバはその顔を伏せて、カーペットに額を付けた。

殴られた部分の痛みは凄まじいが、心に感じた鋭い痛みに一瞬息が止まった。

カルロが国王となれば、オーレリアの将来は潰される。狂った王の寵愛を受けることで、王城の奥に閉じ込められて一生を過ごすだろう。


(オーレリアを悲しませたくはない・・・だが)


今はカルロを納得させて、この場を引かせなければならない。どれほど凶暴であろうとも彼は主君。オーレリアが絡まなければ、優秀な為政者たる素養がある。国王として風格も備わっているはず。そんなカルロに忠誠を誓った者として、仕える者として、破滅から遠ざけることが最優先だった。


(フレデリック殿下は・・・無事だろうか)


顔に受けた斬撃は致命傷に至らないはず。少し顔を上げて窺うも、カルロの足があることと、フレデリックの顔が赤に染まっていることで容体は分からない。


(生きてくださっていれば、きっとオーレリアを救ってくれる)


立場からアルバは何もできない。それを悔いに思いつつ、顔を上げて、屈めていた背中も真っすぐ伸ばした。


「フレデリック殿下の護衛達からは、女騎士以外にカルロ殿下の姿は見られていません。彼女が始末されたのなら、あなたの御身は保証されます」


「母上の同級だった騎士か。まだ仕留められないのか?」


「精鋭の傭兵を差し向けています。相手が有能な騎士とはいえ、年齢から全盛期は過ぎています。戦闘が長引けば、確実に仕留められるはずです。傭兵達には兵士と騎士職の全滅も命じています。事を成すまで手を緩めないでしょう」


部屋の扉が開き、刺客として連れてきた傭兵が入ってくる。正体を隠すための黒装束を纏った彼は、至る所から出血しているようだった。そのまま床に膝を付く。


「聞いて、いた話と違う・・・ガキ相手に、オレ以外」


彼はそのままうつ伏せに倒れた。扉を防ぐようにいるため、外からは僅かな隙間が開くのみ。


「くそっ、開かない!」


「男の死体が邪魔だ。扉を破壊しよう」


「・・・護衛が戻ってきました。すぐに脱出しましょう。それなりに名のあった傭兵達を全滅させた相手です。我々では分が悪い・・・あなたが王太子だろうとも、彼らの主はフレデリック殿下だ。きっと手加減はされないでしょう」


「・・・窓から出る」


カルロは動かないフレデリックに近付き、歩行のついでのように頭を蹴り上げると、部屋の窓に近付いた。腕を組んで眺めているカルロの元に向かうため、アルバはふらつきながらも立ち上がった。


「その前に」


二人掛けのソファの後ろまで移動すれば、なぜか彼が振り返る。カルロは辺りを見渡し、目を細めることで厳しい眼差しになった。ある一点にその視線を送りながら、大股で歩き始めて、壁際の棚の前に立つ。

すぐさま置かれていたガラスボトルを掴み取ると、立ち尽くしていたアルバに掲げて見せてきた。


「お前もこの色に見覚えがあるはずだ。これこそ『愛の妙薬』に間違いないだろう」


見知った濃桃色の液体。時が戻る前に、バーバラが淹れた紅茶によく混ぜられていたもの。最初こそ警戒から口にするのは躊躇ったが、一口飲んだあとはそのまま、どれほど怪しく思っても「飲め」と言われるたびに口にしていた。

アルバもカルロも、倒れているフレデリックも狂わせた原因。オーレリアを失った原因であり、カルネアス王国が混沌に落とされた原因でもある。真の悪女バーバラによって引き起こされた災難の元凶。

ボトルに並々と入れられた液体を、「愛の妙薬」をアルバは睨み付ける。


「それさえ、なければ!」


誰も狂わず、オーレリアを失うことなく、カルロとオーレリアの治世の元、カルネアス王国は平穏な日々を送ることになっていた。次代として二人の子供も生まれ、皆から祝福を受けていたのに。

何もかもが壊された。「時の砂」を用いてやり直したとしても、過去は消えない。カルロの精神は壊れてしまっている。平穏とは程遠い。思い描いた未来は訪れないと、分からせられている。


「殿下、それを」


「これは神器ではない、人を惑わす悍ましい呪具だ!こんなものさえなければオーレリアは私と永遠に一緒にいられた!!こんなものさえなければ!!」


カルロが振り被ってガラスボトルを床に叩き付けた。割れた音が響き、ガラス片となったボトルの残骸から「愛の妙薬」が流れ出して水溜りを作っている。


「・・・よろしいので?」


カルロの勢いに目を丸くしながらも、平静に努めて言葉を送った。

心が怒りで乱れている彼には、「愛の妙薬」でオーレリアを操るという思考には至らなかったのだろうか。そのように考えが過るが。


「呪具でオーレリアの心を得たとしてどうする?これの効果は永遠ではないとお前も知っているはずだ。飲ませたところで無意味に近い・・・私は心からオーレリアに愛されたい。真摯に気持ちを伝えて、私を愛させるつもりだ」


水溜りを踏み付けて、カルロは近付いてくる。床には彼の足跡がくっきりと残っていく。

真っ当なことを言っているように思えるが、アルバは異常だと分かっている。カルロはオーレリアの気持ちなど考えてない。自身が愛しているのだから愛し返せと、独善的に思っている。


「・・・外壁を伝えば、怪我することなく降りられます」


アルバが真に伝えたい言葉は、壊れている主に届かない。何もかもが手遅れだった。

ただ、今の打開策を述べて、受け入れてくれることを望むだけ。幼い時から共にいる幼馴染を、見捨てることはできないのだから。



二人は窓から出ると、外壁を伝って地上に降り立ち、正面口の破壊した鉄門からではなく、裏口へと向かった。

用意していた馬車に乗り込むと、御者であるカルロの従者に命じて走り去る。遠くなっていく別宅を、窓から眺めていたアルバは小さく息を吐いた。

対面に座るカルロは、両手で顔を覆い、背中を屈めている。何故か喉を引き攣らせて笑っているが、触れることなどしない。


(オーレリア・・・)


日が昇れば、婚姻前の会食が催される。しかし、主役の一人であるフレデリックは、カルロによって瀕死の重傷を負った。カルロ自身も深夜の襲撃を敢行したことで、立場が危ぶまれている。共犯であるアルバも、事が明るみになれば無事では済まない。彼は忠義からカルロと共に厳罰を受けるつもりでいる。例え死罪を言い渡されても、受け入れる決心は付いている。


ただ、オーレリアは、一人状況から置いていかれているオーレリアが、これからどうなるか分からない。


(俺達の犯行が上手く隠蔽できたのなら・・・)


夢を幸せそうに語っていた妹は、きっと望みを失う。カルロによって、分家の長となり歴史家として進む道も閉ざされる。彼の寵妃として生き続ける未来を迎える羽目になる。


(隠蔽など、しなければ・・・)


不意に過ったことに唇を噛んだ。考えてはいけないことだと必死に耐えて、窓から流れていく景色を紫色の瞳に映すだけ。

書いているとキャラクターが勝手に動くとなりますが、プロット段階から大分アルバの性格や行動が変わりました。カルロの忠臣としてオーレリアを従わせようとする非道な兄にするつもりが、オーレリアとカルロの間で苦悩して、そのせいで優柔不断になってしまいました。


妹が可愛いからしかないとして、多分フレデリックがいなければ、アルバがオーレリアを守る人物になっていたんだろうなと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ