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狙いを定める

アルバ視点。

「王家とルヴァン公爵家から、商家に抗議・・・商家は、クライン侯爵領を拠点とするバルザドール家」


行政の書類を、カルロが一枚引き抜いて書面を読んでいる。王城の二の宮にて、政務に必要な書類を自ら探しに来た彼は、その書類をまじまじと見て動かなくなった。

周りにいる政務官達が慌てた様子で、癇癪持ちの王太子から書類を取り返そうと窺っていた。

アルバも、勝手に処理済みの書類を引き抜いたことに制止の声を上げようとした。だが、バルザドールという名字に、彼も鋭い眼差しで書面を眺めるだけ。


「何をもってして抗議をする?」


側にいる男性政務官に、カルロは上体を乗り出して書類の書面を見せた。標的にされた政務官は言い淀み、視線を彷徨わせる。

しかし、凝視と睨み付けられたことで、彼は唇を震わせながら答えた。


「サウスレイク学園内でバルザドール家の息女が・・・フレデリック第二王子殿下の婚約者オーレリア嬢を、その、排除しようと虐げたそうです。事態を重く見た王家とルヴァン公爵家は連名で抗議をしました。今後、バルザドール家は厳罰を科せられます」


「バルザドールの娘がオーレリアを・・・」


唸るような低音の声で呟いたカルロは、再び書面を眺めると、青い顔になった男性政務官の机に書類をヒラリと落とした。


「そうか・・・」


感情を感じない平坦な声で答えると、カルロは扉に向かい、行政局から出て行った。壁際で静観していたアルバも、続こうと扉を開く。


「何やってるんだ、お前は!」


「王太子殿下にオーレリア嬢が受けた被害を話すな。また荒ぶられたらどうする」


「仕方ないだろう。言わなければ、きっと教えるまで締められていた。王太子殿下の暴力性は君らだって知っているじゃないか」


「アルバ殿も止めずに見ていた。王太子殿下を刺激しないようにしていたんだ」


背後から聞こえる政務官達の声。行政局から退室したアルバは、反応することなく扉を閉じた。彼は、先行くカルロの背を追うため足早に近付いた。


「アルバ、バーバラ・バルザドールだ」


「はい、間違いないでしょう」


「あの女、サウスレイク学園に居たようだな。そして、新入生のオーレリアを害していたそうだ。あのクズが!!私のオーレリアを!!」


人気がなくなったことで、カルロは振り返りながらもボードの上にあった花瓶を拳で薙ぎ払った。大きくて固い拳に触れた瞬間、花瓶は割れて黄色い花と陶器の破片、水をカーペットに散らす。


「よくもまた私のオーレリアを虐げたな!!あの女のせいで私はオーレリアを失ったのだ!!時を戻したことで彼女を取り戻したのに、それでも再びオーレリアを害するなど許せるわけがない!!」


「勿論です」


吠えるような声は廊下に響き渡るほど。近くにいれば、轟音だと耳が痛んだことだろう。

だが、間近にいるアルバは表情を変えない。眉間に皺を寄せた険しい顔で、姿勢正しく佇み、荒ぶるカルロを見ていた。


「殺す・・・サウスレイク学園は全寮制だ。長期休暇以外では園内の学寮で生活している。あの女を殺すには」


突如、カルロは口を噤んだ。彼の目はアルバを、その肩の向こうを睨んでいるようで、彼も続いて後ろに振り返った。

歩き近付いてくる人物が二人。一人はカルネアス王国のガーディナー宰相。もう一人は子息のチェスター・ガーディナーだった。彼らは、カルロ達の先にある宰相の執務室に向かっているのだろう。


「本当にいいのか?内政官にならなければ、私の後継候補にもなれないのだぞ」


「もう決めたことです。外交からカルネアス王国を支えたいと思っているので・・・そちらにいらっしゃるのは、王太子殿下。それに、ルヴァン公爵令息」


立ち尽くしているカルロ達に気付いたことで、二人は足を止めた。ガーディナー宰相は怪訝と顔を顰めていたが、カルロの足元に散らばる花瓶の残骸に目を丸くする。


「王太子殿下、一体何が」


「肘がぶつかった、許せ・・・それよりも子息のチェスターはサウスレイク学園在学だったな?私が在学する中央学園とは些か違いがあると聞いている」


「え、ええ、はい。中央学園よりもサウスレイク学園の方が階級幅広く、国の縮図が見えると言いましてね」


「個人的にですが、良い学びとなりました」


親子は揃って礼をすると、続けざまにカルロへと言葉を送った。アルバは、その様子を眺めているだけ。

チェスター・ガーディナーは、時が戻る前には死亡した父親に代わって宰相としてカルロに仕えていた。バーバラに操られていたときこそ、国を乱す尖兵として悲惨な政策を打ち出していたが、正気に戻った際は忠義の臣下として在った。その心中に何かしらの思惑があると、身近にいたアルバは勘付いていたが、「時の砂」が発動する瞬間まで忠誠心のある態度を崩さずにいた。

現在も信頼の置ける人物だと、アルバも思っている。


「それは僥倖だな・・・平民階級でもカルネアスの礎となる有能な者はいたか?私の記憶では、クライン侯爵領を拠点とする大商人バルザドール家の息女が通学していたとある。あの商家によって物流が盛んになると想定しているのだが」


カルロの言葉にガーディナー宰相は窺うように目を細め、チェスターは明確に顔を引き攣らせた。そのまま伏せた様子から、アルバはチェスターを注視する。


「何事か懸念でもありましたか、チェスター殿」


「いえ・・・」


アルバは冷静に努めて、対外にはいつも通りの無感情で言えば、チェスターは躊躇しつつも口を開いた。


「バルザドール家の息女ですが、問題児でして・・・アルバ殿の妹君であるオーレリア嬢を虐げました。フレデリック殿下の訴えで事態は収束しましたが、息女自身が反省したとは分かりません。彼女は、学園長から休学処分を受けてすぐに焼身自殺を図りましたから」


「・・・ほう?」


低音の相槌はカルロによるもの。アルバが視界の端に捉えた姿は腕を組み、厳しい眼差しでチェスターを睨み付けていた。フレデリックの名前を耳にして苛立ちを感じたようだが、彼のおかげでオーレリアから危険が去ったと分かり、荒ぶるまでには至らない。そうアルバは感じ取った。何より今はバーバラのこと。カルロの中では殺意が渦巻いていると分かる。

そんな険しい彼の顔は、並の男でも怯えるほどのものだが、チェスターは怯みもせずに対面で見据えている。多少、睨み付けるような眼差しではあるが、主が気に留めていないことで、アルバは咎めることはしない。


「バルザドール家自体は王家とルヴァン公爵家の当主連名で抗議をし、厳罰に処されるそうです。貴方の妹君を害したのですから、相応の処罰になるでしょう。ただ、バーバラ・・・バルザドール家の息女は大火傷から南方の病院で治療中となっています。私が人伝に聞いたことですが、顔面が炭化し、視力も失ったことで日常生活は勿論、復学も難しいそうです」


「そうか・・・カルネアスの隆盛に関わる商家と思っていたが、息女の躾ができていなかったようだな。国王陛下とルヴァン公爵を敵に回したことで、今後の発展も危ぶまれるというもの・・・一個人のせいで積み重ねたものが一瞬で消え失せるのは、悲しいものだな」


カルロは片手を上げると、踵を返して二人に背を見せた。立ち去ろうとする主にアルバも続く。


「南方の病院というと高速で馬車を走らせれば二時間で着く」


「今から向かわれますか?」


アルバは向かうつもりだった。すぐにでもバーバラに制裁を下し、現在でもオーレリアを害したことを後悔させたかった。

カルロは喉を鳴らして笑う。


「当然だ、オーレリアが感じた苦しみを与えて、無残に殺してくれる」


割れた花瓶をそのままに、王太子を見送るため立ち尽くしているガーディナー親子に、カルロの邪悪な笑みは見えない。アルバの僅かにある理性が安堵をするが、すぐさま殺意にその心は塗り替えられた。

確実にガーディナーさん達は「王太子怖い」と思っている。

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