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定まらない思考

オーレリアちゃんは誰もが目を奪われるほどの超絶美少女です。

オーレリアは、拠点として建てられた天幕から、徐々に土を除去されて姿を現す神殿遺跡を眺めていた。

先日、祖父はイルルラルバ神の神殿だと断定し、内部の調査を自ら行っている。ルスタリオ男爵や調査員達が止めようとしても聞かなかった。

未知の遺跡に好奇心が抑えられないのだろう。オーレリアも祖父と気持ちを同じくしているからよく理解できた。


「私も同行したかったわ」


「まあ、そのようなことを仰って。折角のドレスが砂に塗れてしまいますよ」


ドレスは作業に相応しくあるべきと若草色のエプロンドレスを着ている。

着替えを手伝ってくれたメラニーは、オーレリアの発言を嗜めるとテキパキとテーブルの上を整えていた。もう少しで昼食の時刻。祖父も調査の手を止めて戻って来るからだ。

近郊のパン屋からメラニーが購入したサンドイッチやマフィンが入っているバスケットが置かれ、紅茶のために鉄製のポットが石で組まれた焚き火に掛けられている。


原始的な用意に、キャンプなどしたことがないオーレリアは胸を高鳴らせていた。

こういった食事も情緒がある。いつか自分で、何よりパンから自作できるようになれば一人暮らしも不可能ではないと考えていた。


(そのような暮らしをしてみるのも楽しいでしょうね)


祖父だって自身でキャンプや食事の用意ができるように学んだと聞いた。遺跡が埋没している位置は不明瞭ゆえ、探し出しから発掘までに至るのは期間がかかる。

自身のことは自身でできなければ、調査隊の仲間に迷惑がかかると教えられた。側にいたルスタリオ男爵から「実地捜索は閣下の仕事ではないです」と言われていたが。


「暫くはお祖父様の補佐となるのだもの。発掘も捜索も、私自らの手で熟したいわ」


「まあ、お酷い。お嬢様のお世話を第一と考える私を不要だと仰るのですか?私の天職ですのに」


「えっと・・・メラニーのことは勿論連れて行くわ!でも、一人前の歴史家は自身のことは自分でするの。だから、メラニーは私を見守っていて」


「自身で何もかもしようとされるのはお祖父様だけですよ。普通の立場ある歴史家の方はお一人で何でもされません」


茶器がテーブルに置かれる。

にこやかながら圧があるのは、オーレリアを叱っているからだろう。言い訳もできない彼女は、ただメラニーを上目遣いで見つめた。


「可愛さで押し切ろうとされても私は負けませんよ」


「そ、そんなつもりはないわ!」


折れてくれないかと願って見つめただけだった。

オーレリアは自身の容姿が優れているなどと思っていない。祖父母や周りにいる従者と使用人、男爵を含めた祖父の発掘調査隊の隊員達は、愛らしいや可憐だと褒めてくれるが、それは欲目に過ぎないと分かっている。

以前の、時が戻る前は醜女と言われていた。貴族子女からは、学園に上る前より不細工や貧相など言葉を投げかけられていた。最上の美を持つバーバラとは比べるのも烏滸がましいと蔑まれていたのだ。


(今だけ。成長したら見られない顔になる。どのように美容や服装に気を使って整えても、皆は私を悍ましいものを見たと顔を顰めたもの)


受けた中傷がオーレリアの自己肯定感を損なわせていた。


「これは」


メラニーの焦りを感じる声。次いで礼を取ったと分かる衣擦れの音。

以前のことを思い出して気持ちと顔を沈ませていたオーレリアは、すぐさま顔を上げて辺りを見渡した。


天幕の手前にはフレデリックがいた。神殿遺跡調査に参加した折に警護についてくれた女性騎士を連れて、オーレリアの元にやって来た。

連日、フレデリックも神殿遺跡に足を運んでいる。オーレリアと違い、何度か祖父と一緒に内部に足を踏み入れている彼は、既に調査員達から受け入れられている。近付くと止められるオーレリアと違って、声をかけられることもなく内部に潜行してしまう。


(羨ましい・・・)


見えた姿に小さな嫉妬を覚えたが、敬愛すべき王子殿下だと思い出したオーレリアは座っていた折畳式ベンチから腰を上げた。

綺麗に淑女の礼を取ろうとして、なぜかフレデリックに手で制される。


「堅苦しい挨拶は止めようよ。君と僕は友達なんだから」


いつから友人関係になったのか。

手を繋いだあの日からだろうが、オーレリアは認めたくないがために首を横に振る。


「フレデリック王子殿下は我が国の」


「いいから。僕は君ともっと仲良しになりたいんだよ」


フレデリックが歩み寄ってくる。王子殿下の意志を阻むわけには行かないと、オーレリアは耐えた。

近付く顔は穏やかな微笑みを浮かべている。


「昼食を一緒に取りたくてね」


「私は祖父と食事の約束をしております」


「君のお祖父様は三層の通路を塞いでいた崩落を除去できたとかで現在も鋭意調査中だ。君との昼食には間に合わないと言付かっているよ」


どうして祖父からの伝言を受けるのか。それに関しても嫉妬の気持ちが強くなる。


「信頼する侍女がいるとはいえ、身分差から共に食事も取れないだろう?ルヴァン公爵家の使用人達の教育はしっかりしていると聞いている」


「そう、ですね」


「だから、僕と一緒に昼食をしてくれないかな?僕も従者達と食事が取れないから、少し居た堪れなくてね」


察したメラニーが、オーレリアと向い合せになるように折畳式ベンチを広げる。フレデリックは躊躇いなく腰を下ろした。

向かい合う彼の顔は美しい。そよ風で靡く黒髪は艷やかで、温かさのある夕日色の瞳は笑みで細まっている。


(居心地が悪いわ)


将来は美青年だと約束されている美しい人と食事を共にするなど、不相応だとオーレリアは感じてしまう。


「ミオ」


「はい、殿下」


女性騎士の名前をフレデリックは呼ぶ。彼女はテーブルの脇に立つと、氷の詰まっているガラスボトルを置いた。その底には濃桃色の液体がある。


「果物をすり潰したペーストなんだけど、氷出しで飲むと美味しいんだ。君にも飲んでもらおうと用意させたんだけど、苦手ではない?」


「果物は好きです」


あのように濃い色の果物などあるのだろうか。

色味は苺に近いが、ペーストにして桃色にはならない。正体不明で不審感を得る。


「色に反して仄かに甘いだけだから変な後味はないよ」


「そうなのですね・・・その、果物はどちらを使用されているのしょうか?」


「・・・ベリー系だったかな。色んなベリーがすり混ぜられているんだ」


フレデリックは、脇にいる女性騎士とオーレリアの背後にいたメラニーを見る。


「君達も食事にするといい。この天幕の周囲は僕の従者が控えているから、危険なものは近付けない」


メラニーは渋っていたが、女性騎士に呼ばれると共に場を辞してしまった。

これからのことを考えると、恐怖すら感じるフレデリックと二人っきりにされてオーレリアは息苦しく思う。


「いい感じに氷が溶けたな・・・はい、どうぞ」


「フレデリック王子殿下から注いでいただくなんて!」


「いいんだ、僕達は友達だろう?」


そんなことは認めていない。

口には出してはいけない不満。フレデリックの反感を買えば、虐げられると知っている。以前がそうだった。バーバラを害したと彼はオーレリアに怒っていたのだから。

綺麗に磨かれたグラスに注がれた氷出しの果実水。うっすらとした桃色の液体。仕方なしとグラスに唇を付けた彼女は、一口飲んだ。


「・・・どう?美味しい?」


フレデリックの声に、オーレリアは顔ごと向ける。変わらない優しい微笑み。何て美しいのだろうと見惚れてしまった。


「オーレリア」


彼の手が伸びてきて、朱に染まる滑らかな頬に触れる。


「美味しい?」


「ええ、とても」


触れられて心地良さを得る。

与えられる温もりに胸の鼓動が早まっていく。


「僕のこと、嫌い?」


どうしてそんなことを聞くのだろうか。

優美な微笑みを浮かべる美しい人を嫌うはずもないのに。


「僕を好きになって、オーレリア」


「好きですよ、フレデリック王子殿下。私はあなたのことが」


いつ好きになったのだろう。

一瞬浮かんだ疑問は、フレデリックに果実水の入っているグラスを唇に運ばれたことで霧散した。


「さあ、飲んで。そして僕だけを見て」


一口、二口飲んでオーレリアは肩を抱くフレデリックを見上げた。

夕日色の瞳。日が傾いて発する温かな色。決して目をそらさずに見つめ続けた。


「僕のことが好き?」


「ええ、大好きよ」


笑みを深めたフレデリックの唇がオーレリアの額に落とされる。


「フレデリック殿下、オーレリアに何をされているのですか?」


だが、温もりを感じる抱擁は祖父の声で解かれた。

愛しい温もりが去って、額に与えられた熱も離れてしまってオーレリアは気を落とす。


「オーレリアもあなたもまだ子供です。過剰な触れ合いはされぬようにお願いします。この子はまだ婚約者のいない身ですのでね」


「僕と婚約すればいいでしょう?公爵家令嬢ならば、僕の婚約者に相応しい」


「オーレリアは私の後継として預かっています。まだ婚約など考えておりません」


ぼんやりとしていたオーレリアの耳に祖父の声が届き、その言葉が脳内に浸透する。


(婚約?ええ、そうだわ。私は婚約なんてしない。自分の地盤を確かにするまで、誰とも・・・何より王子殿下とは絶対に婚約しない)


うっとりしていた眼差しは、何度かの瞬きでしっかりしたものに変わる。

オーレリアは祖父と、そして顔を顰めて祖父を睨み付けていたフレデリックへと視線を向ける。


「心地良い気温から夢見心地になっていました。だらしのない姿を見せて申し訳ございません。眠らないように気を引き締めます」


「オーレリア、嬢・・・さっきの言葉は覚えている?」


「妙なことを口走りましたか?失礼いたしました。白昼夢を見ているような状態だったのです。以降は気を付けます」


何故か言ってしまった「大好き」という言葉。覚えていないと切り捨てて、オーレリアはフレデリックに淑女らしい微笑みを向けた。


「・・・」


彼の眉間の皺が深くなった。それは一瞬のことで、フレデリックは息を漏らすといつもの微笑を浮かべる。


(ぼんやりしていたし、気が緩んでいたのだわ。しっかりしないと)


自分に言い聞かせると、腕を組んでフレデリックを睨み付けている祖父を見上げた。

不敬な態度ではあるが、祖父は王家にも進言できる風格と立場がある。

前国王から現国王の相談役も高官も勤めた経歴は、子である王子にも効果があるのだろう。

フレデリックは諌めることもせず、不貞腐れたように視線を落としていた。


「昼食に間に合いましたね」


ホッとしてオーレリアは言葉を紡いだが、祖父の険しさは和らぐことはなかった。

何事かと彼女は小首を傾げる。


「三層で悍ましいものが見つかってね・・・食事中に聞かせるべきではないと思うが、こういったことは発掘調査では稀にある」


「だから」と続けた祖父は、一旦息を吸い込むと、そのまま吐き出すように声を発した。


「枷で拘束された何十体もの人骨が見つかったんだ」


衝撃を受けたオーレリアは絶句してしまう。

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