心も体も痛め付けられる
過激な発言、暴力行為、性暴力を示唆の描写があり、オーレリアが大変痛ましい状況になります。
ご注意ください。
授業中の廊下には誰もおらず、いたとしても見なかったかのように顔を背ける生徒ばかりで、オーレリアは血の気が引いていた。誰も助けてくれない。絶望から震える彼女が引き摺るように連れてこられたのは、運動場の脇にある用具室。
「きゃあっ!!」
すえた匂いのするマットの上に投げられたオーレリアは、右半身を叩き付けられた。床よりも弾力はあるとはいえ、固いマットは彼女の柔い体を痛め付ける。
「きゃあっ、なんてバッカみたい!弱々しいアピールしているわけ!?小賢しい女がさ!!」
バーバラから罵声を浴びせられる。痛みから片目だけをうっすら開いて見上げた彼女に、上靴を履いた足が迫っていた。
「ひっ、あぐっ!?」
「第三講堂に来いってお手紙は王子様に見せた?あんたがいないと気付いたら、そっちに行くでしょうね・・・はっ!もう助からないわよ!」
頬に靴底が押し付けられた。そのままマットに頭を押し付けられる。その足を両手で掴んで押し返そうとしても、力では敵わなかった。
他より短いスカートを穿いているバーバラは、オーレリアに下着が見えてしまっていると分かっても気にする素振りすらない。彼女の頭をマットに押し付けることで、楽しそうに笑っていた。
「あはははっ!!ぶっざまぁ!!高貴な公爵令嬢様とは思えない姿ね!!汚い所に這いつくばっていて笑えるわ!!」
「うっ、ぐ・・・ぅ・・・う」
渾身の力が込められているのか、頬骨が軋み、圧力で痛みを発していた。靴底の凹凸も皮膚や筋肉を潰すようで、痛みを与えている。
なぜ、このようなことに。
オーレリアとしては、バーバラの怒りを買うようなことはしていないはずだった。いつかフレデリックと結ばれると分かっているから身を引いていた。二人の間に割ることなく、邪魔者になるような真似はしなかった。
何より、サウスレイク学園に入学して一ヶ月すら経っていない。踏み付けられるほどの激怒される接触は勿論、視界にも入らないように配慮をしていた。
「ぅ、う・・・ぅ・・・」
歯を折られることを恐れて口を閉ざす。そのせいで、涙を零す彼女は喉を震わせて嗚咽を漏らすだけ。
くぐもった声を、顔を赤くして涙を流す顔を、バーバラは嘲笑う。
「汚い泣き顔!!どこが絶世の美女だっていうのよ!場末の娼婦と変わらないじゃない!!」
「ふ、副会長。流石にやり過ぎでは?」
「相手は公爵令嬢ですよ?」
二人の女子生徒は顔を強張らせて訴える。バーバラは彼女達を鋭く睨み付けた。
「誰に口答えしていると思ってんの!あたしはバーバラ・バルザドールよ!!この学園の生徒で二番目に偉いんだから!!あんたも、あんたも、バルザドール家から金を借りているんだから下手なことは言うんじゃないわよ!!借金のカタに娼館に売り飛ばされたくなかったら黙ってなさい!!」
それぞれの女子生徒を指で差して、張り上げた声で言葉を投げかける。悍ましい言葉に、女子生徒達は青褪めてたじろいだ。
踏み付けられているオーレリアから視線を外し、二人寄り合って震える。
「酷い目に合いたくないなら見張りくらいしなさいよ!!このバカ女の護衛や王子様が来たら知らせて!!」
凄まじい剣幕で捲し立てる。言われた女子生徒達は、青白い顔で何度も頷くと、そのまま用具室から出て行った。
鼻を鳴らしたバーバラは、次に控えている男子生徒二人へと顎をしゃくりあげる。
「ほら、犯していいわよ」
「・・・っ」
マットに縫い止められていることで、身動きできないオーレリアは息を飲むことしかできない。恐怖で喉が引き攣る。濡れた頬にまた涙が流れ落ちた。
カルロと似た体格の男子生徒二人に、バーバラは何と言ったのか。理解はできている。分かっている。それでも、頭が言葉を受け取ることを拒否していた。
「な、に」
「しゃべるなバカ女!!耳障りなのよ!!」
「うっ、くっ!」
頬を踏み付ける足に更に力が加わった。頬骨が折れてしまうのでは、と思わせる。
「顔の腫れた女をヤる趣味はないんだけど」
「あんたの趣味は聞いてないわ。いいから犯して。こいつはまだ純潔のはずだから派手に犯してやって!ボロボロにしてやれば、王子様も嫌悪するはずよ」
どうしてフレデリックが引くと思うのか。
オーレリアは震えで歯を鳴らしながらバーバラを見上げれば、突き刺すような鋭い眼差しで見下されている。
「王子様の妃って処女が求められるんでしょ?王子様の子供を産むためにいるんだから、他の種が入ったら大問題なのよね?だから、こいつらにあんたを犯してもらうの!婚約者の王子様がいるのに、人目に付かない場所で男と乱交していたって事実を作ってあげる!そうすれば、嫁ぐ以前に王子様に近付けなくなるわ!!別の男の子供を妊娠したあんたなんて淫乱で汚らわしいもの!!」
何て悍ましくも恐ろしい考えをするのだろうか。
絶望でオーレリアは血の気が引くのを感じた。踏み付けられている痛みに加えて頭痛もして、涙が溢れることで視界がぼやけていく。
「や、め、やめて、くださ」
「うるさい!!しゃべるなって言ってるだろ!!」
弱々しい声であっても訴えようとしたが、室内に響き渡る怒号に掻き消された。
バーバラは、オーレリアの頬に靴の底を擦り付けると、足を退かす。圧迫する痛みは消えたが、頬はズキズキとした痛みを残す。更に、バーバラに前髪を掴まれて引っ張られることで、頭皮も痛み、何本か髪の毛が抜ける感覚を得た。
「何の力もないバカがあたしに口答えをするな!!お前なんか公爵家生まれじゃなければ何もできない、何も成せないクズなのに!!」
至近距離で唾が飛ぶほどの罵声を浴びせらることで、耳から脳に響き渡る。
オーレリアが流す涙は止めどなかった。
「何が歴史家だよ!お前なんざ親の地位と資産で成り立っているだけの無能じゃない!!恵まれた環境にいたから子供でも発掘なんて道楽ができただけ!!地位のある大人達に守られたから楽に見つけられただけ!!それなのに優秀ヅラして、持て囃されていい気になるなんてバカそのもの!!」
「う、ぁ・・・ぁ」
言い返せないことで喉から息を漏らすだけ。
本当のことだと、恵まれてるだけだとオーレリアは自覚していた。家業の一つに発掘部門があり、祖父が注力していたから参入できた。祖父の経験と人脈にをそのまま受け取ることで、成果にすることができた。
ブラスとイレーヌのことを見た夢が、偶然にも事実と合致しただけに過ぎない。家格が上だったことで王子のフレデリックと関わることができ、彼の助言で失われていた遺跡とブラスの遺骸を発見できた。オーレリア一人では気付くこともできなかった。
無能など、自分が一番分かっている。
「メソメソ泣くことしかできない弱い女があたしが狙っていた王子の一人と婚約するなんざ許せるわけがない!!お前の家がね!!」
怒りが灯って爛々と輝く緑色の瞳だけが、オーレリアの視界に映っていた。
「イルルラルバの遺跡を奪わなければ、あれはあたしのものだったんだ!そうすれば王子達も上の貴族の男達も言いなりにできた!!お前もルヴァン家も許せない!!あたしの役目を奪いやがって!!」
何を言っているのか分からなかった。
心を打ち壊すような事実のあとで、不可解な発言はオーレリアの耳には届かない。
「おい、バーバラ。あまりデケェ声出すなよ」
「いくら人気がないとはいえ、辺りに響いちゃうだろ」
「うるさい!!あんた達もボサッと立ってないでこいつをブチ犯せよ!!ボロボロにして破滅させろ!!」
更に声量を上げて怒鳴ったバーバラは、掴んでいたオーレリアの前髪を放した。はらはらと指から金の髪が落ちて、彼女もマットに頭を落とす。
泣き腫らした顔で、体を守るように両手で肩を抱き締める。震える彼女は涙に濡れる紫色の瞳を男子生徒達に向けた。
凝視しながら喉を上下させた二人は、ゆっくりと近付いてくる。
「・・・精々楽しんでね、お姫様」
凄まじい形相から一変して嫌らしく笑うバーバラは、男子生徒達とすれ違うと、扉のノブに手を掛けた。彼女が立ち去ろうとする後ろ姿を、オーレリアは瞳に映し、これから迎える悍ましい行為の恐怖から目を閉じる。
そうすれば、扉の向こうから女性の悲鳴が聞こえ、慌ただしい足音も聞こえた。扉に何かが衝突したのか、振動するほどの轟音が響く。
「な、なに!?」
驚いたバーバラが目を開いて扉から後退した。オーレリアに触れようとした男子生徒達も止まり、背後に顔を向ける。目を閉じていたオーレリアも、ゆっくりと開いて一筋涙を流した。
歪む視界に揺れる扉が映る。留め具が弾けて扉が前に倒れ落ちる。
開け放たれた出入り口に立っているのはフレデリックだった。枠に手を当てて肩で息をする彼は、流れている汗を手の甲で拭いながら、憤怒と顔を歪めている。




