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そして捕まる

オーレリアが投函された手紙をフレデリックに見せれば、ウージェニーと同じく彼にも止められた。


「絶対に危ないから行っては駄目だよ。手紙も、誰に送られたか調べるから渡してほしい」


言われたままフレデリックに手渡して、彼女は次の日を迎えた。

フレデリックかウージェニーがいる授業を受け、彼らと共に行動する。校内の移動では、守られているオーレリアに何名かの生徒が厳しい眼差しを向けていたが、護衛のような二人を手前に何かしらの言動をすることはなかった。


(よかった、けれど・・・いいのかしら?)


身の危険を感じていることで、守られることには安堵はしている。しかし、国の王子と騎士科の優秀な女子生徒が側仕えのようにいるのは、非常に「よろしくない」と彼女は感じる。

二時限目を終えて、生徒の関心は強まっていた。オーレリアに対して非難、呆れ、怒り。そのような感情が自身に向けられているとひしひしと感じる。すれ違う生徒、同じクラスの生徒や担当の教師も、オーレリアの様子を窺うかのように遠巻きにいる生徒達からも、視線や態度から負の感情が向けられていた。


「ねぇ、見て」


「何様なんだ」


彼女とすれ違った瞬間、小さく囁く声が耳に届いた。

非常に注目を受ける中、明確な悪意の感情をぶつけられる。居心地の悪さから息苦しく感じ、オーレリアの視線は力なく歩く自身の足に落ちた。


(状況が悪化している)


まるで時が戻る前のときのような状況だった。もし、フレデリックとウージェニーがいなければ、恐れから人目に付かない場所に身を隠していただろう。


「おい、ルスタリオ!」


「お前、防具の貸出証をどこにやった?」


「え?」


前方から声が聞こえた。立ち止まったオーレリアの目の前で、ウージェニーと二人の男子生徒が話している。


「貸出証は担任に提出したよ」


「本当か?先生がお前の貸出証だけ見つからないって言ってたぞ」


「出したつもりになってるだけじゃないか?」


「えー!確かに提出したけど・・・うーん、確認してみる」


「今すぐ確認しろよ!先生に怒られるぞ!」


一人の生徒に肩を掴まれたウージェニーは、その手を払い除けてオーレリアに振り返った。


「ごめん、ちょっと行ってくる。殿下、オーレリアのことお願いします」


「こちらには僕の護衛のロイもいるから大丈夫だ」


「その、迷惑ばかりかけているわ。ごめんなさい、ウージェニー」


「何で謝られるのか分からないわ!気にしないで!じゃあ、行ってくるね」


男子生徒達に先導されながらウージェニーは走り去っていく。その後ろ姿をオーレリアは眺めた。そっと、隣にいるフレデリックの制服の袖口を指で摘む。

その動きに、彼は優しい微笑みの浮かぶ顔を向けてくれた。


「三時限目は考古学だったね。あの学科の生徒達なら君を色眼鏡で見ない。さあ、行こうか」


摘んでいた手は取られて、指を絡ませるように握られる。周りの視線を更に強く感じたが、フレデリック自身がいることで心強かった。

手を引かれて廊下を進み、辿り着いた考古学科の講堂に入室する。すでにいた生徒達と挨拶を交わし、隣り合う席にオーレリアとフレデリックは座った。彼の護衛ロイは後方の様子が見える席に座っている。

考古学科の生徒達、歴史家を目指す同志は、二人の様子を見ても嫌な反応をしない。むしろ好意的に接してくれていた。


「おはようございます、フレデリック殿下、オーレリアお嬢様」


前の席にいた男子生徒が振り返る。彼はウージェニーの婚約者ナイジェル・スキアロ。焦げ茶色の髪に、黒縁の眼鏡の奥から覗く紫色の瞳を持つ青年に、オーレリアはホッと安堵の息を漏らす。


「おはようございます、ナイジェル先輩」


フレデリックは頷いて返事をしていた。ナイジェルは二人の顔を、眼鏡の奥の瞳を動かして交互に見ている。


「あいつはどうしました?もしや、サボりではないでしょうね?」


怪訝と細まった目。疑いのある眼差しに、オーレリアは首を横に振って答える。


「ウージェニーは騎士科の教師から呼び出しを受けました。提出物の確認があるそうです」


「ああ、なるほど・・・どうせ提出したと思い込んでいたんでしょう。あいつは抜けてることが多々あります。今から探すことを手伝ってほしいと言われる覚悟をされるべきですよ」


溜め息を漏らしたあと、下がった眼鏡を指で押し上げるナイジェル。

オーレリアはとりあえず苦笑するが、フレデリックが耳元に囁く。


「ウージェニー嬢が気になって仕方がないみたいだね」


長年の婚約者なのだから当たり前だろう。言葉でもじゃれ合うように拳を交わす様子からも、ウージェニーとナイジェルが仲が良いと分かる。

彼女は微笑ましさから口元を緩めた。そして、講堂内の居心地の良さに息を付く。


(こうして悪意のない人ばかりなら、気兼ねなく学業に専念できるのに)


げんなりと思いながら、担当の教師が入室したことで姿勢を正した。ナイジェルも前を向き、フレデリックはノートを開いていた、が。


「すまない、本日は諸事情で休講となる。生徒諸君は自習をするように」


そう告げた教師はフレデリックへと顔を向けた。


「フレデリック殿下、学園長がお呼びです。今期の選択科目について話があるそうで」


「今すべきことなのか?」


教師は答えずに曖昧に微笑んでいる。フレデリックは顔を顰めたが、席から腰を上げると教師の元に向かう。


「ナイジェル、オーレリアのことは頼んだよ。僕が戻るまで講堂で一緒にいるんだ」


「分かりました」


すれ違いざまに言葉を交わすと、彼は教師の前に立った。低姿勢で退室を促す教師と共に、講堂から出ていく。控えていた護衛のロイも後に続いた。

自習となったことで、生徒達は各々のことをする。近くの者同士で話し始めたり、教科書を開いたり、講堂の本棚から取った専門書を読んでいた。


「すぐに戻って来るはずです。ウージェニーから特定の生徒達の標的になっていると聞いています。俺はあいつより非力ですが、壁にはなれますので」


「ありがとうございます、先輩。でも、それほど心配に思っていないので大丈夫ですよ。この場所にいれば安全ですもの」


「ナイジェル!」


講堂内の生徒の一人がナイジェルを呼んだ。離れた席にいる彼は手が千切れんばかりに手招いている。必死な様子だった。

オーレリアは視線を彼に向ければ、怪訝とその目を細めていた。


「行って差し上げて」


「あまり話したことのない相手ですし、お嬢様の側を離れるわけにはいきません」


「大丈夫、講堂内ですもの。とても必死なご様子だから重要なお話なのかもしれませんよ?」


「・・・・」


無言でナイジェルは立ち上がると、手招く生徒のもとに歩き寄った。話し込む二人の姿をオーレリアは一人眺める。彼女の周りの席には誰もいない。本来いるべき人々は、徐々にいなくなってしまったから。


「ルヴァン公爵令嬢」


誰かに呼ばれた。顔を回して見れば、講堂の扉の手前に女子生徒が立っている。手を振る彼女へと、オーレリアは席を立って近寄った。


「あなたの著書について質問がある方がいらっしゃったの。お話を伺いたいそうですわ」


「まあ、どなたかしら?」


講堂の生徒だろうか、と辺りを見渡しつつ、女子生徒の前に立てば、彼女は扉を開いた。

見えた姿にオーレリアは戦慄する。五名ほどの生徒を引き連れたバーバラ。彼女は顔を顰めつつ、オーレリアへと手を伸ばした。逃げようとしても女子生徒に阻まれて叶わない。


「ご、ごめんなさい!私の家はバルザドール家に借金をしていて、協力すれば帳消しにしてくれるって言われたから」


「帳消しにするわけないでしょ!バーカ!さて、あんたはこっちよ!」


手首を掴まれたオーレリアは、強い力で引かれると講堂から出された。部下のような大柄な男子生徒に拘束される。


「はなっ、ぐ・・・っ」


大きな手に口を塞がれたことで何も言えない。強い力で拘束されたことで逃げられない。


「守ってくれる奴らはいなくなったわね、お姫様。これで気兼ねなく、じっくりお話しできるわ」


口を吊り上げた嫌らしい笑みを浮かべたバーバラの顔は、邪悪な悪魔のようだった。


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