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サウスレイク学園へ

庁舎で再会したカルロの言動。以前と違って落ち着き払った様子が、オーレリアの頭から離れなかった。

彼には、彼女に対する執着心も怒りも見えず、王太子として対応をしていた。


(何か心境に変化があったのかしら)


フレデリックからは注意を促されている。「カルロに騙されるては駄目だ、未だに執着心を抱いて君を狙っているよ」と。

しかし、彼女にはそんな様子など微塵にも感じなかった。カルロは臣下の拝謁を受けたという態度に徹していた。感情の無さは異様ではあったが、オーレリア個人には何も思うことはないと表していた。


(もしかして、バーバラ様とお会いしたのかしら)


最愛の人となるバーバラと出会ったのならば、カルロの変化にも説明がつく。

二人の熱愛は学園中の貴族子女に祝福されていた。他の男性とも愛を交わしていたバーバラの気持ちは知らないが、カルロは彼女以外見えないと夢中になっていた。


(バーバラ様に恋をしたのなら、カルロ様は私に対する関心なんて失う。バーバラ様だけに気持ちを寄せるもの・・・)


であれば、もうカルロは犯罪に手を染めてまでオーレリアを求めることはないだろう。唯一という人に出会えたのだから。


(でも、そうであるならば、フレデリック様とバーバラ様がお会いすることになる)


オーレリアという障害が無くなったことで、二人は恋人となり、正妃として迎えられるはずだ。時が戻る前のことを思えば、身分差など問題ではない。妃教育も、バーバラは非常に優秀な女性と言われていた。オーレリア以上に王妃となる器があるとも皆が言っていた。

カルロの婚約者になれば、フレデリックとの顔合わせは必然だろう。彼もバーバラを目にしたら、必ず恋に落ちる。以前がそうだった。一目惚れだと目の当たりにしたことでオーレリアには分かる。


(・・・そのときは、身を引くべきだわ)


気持ちに従って縋り付いたら、きっとフレデリックに嫌悪感を抱かれるだろう。恋の邪魔者だと彼女を嫌い、あの凄まじい暴言を受けるはずだ。


(二度と、それも愛しているフレデリック様から、あの暴言を受けたら・・・)


『醜い女がバーバラに並び立とうとするつもりか?見苦しいことこの上ないな。無価値なお前にその資格はない。僕とバーバラの目の前から失せろ。二度と見窄らしい姿を見せるな』


「・・・っ」


思い出したことに喉が震えた。

ただ学園の廊下ですれ違っただけなのに、フレデリックはオーレリアの肩を掴んで突然言い放った。

数ある暴言の中の一つではあるが、鋭利な刃のように深く心に突き刺さっている。


「嫌・・・今、あの言葉の数々を受けたら」


きっと心が壊れてしまう。二度とフレデリックに顔を合わせられない以前に、自室から出ることもできなくなるだろう。


「如何しました、お嬢様?」


「あ・・・ご、ごめんなさい。少し考え事をしていたの。大事でもないから気にしないでちょうだい」


「そうでしたか」


メラニーの言葉が、彼女を現実に引き戻した。足元に落ちていた視線を上げれば、姿見に映る自身の姿。

金の髪は緩く編み込んだ一つ縛りで、フレデリックから贈られた夕日色のリボンで留められている。

腰の部分が少し引き締まったスマートな紺のブレザーで、インナーの白いシャツの襟首には、絹の赤いリボンが飾られている。膝下まであるプリーツスカートは、灰色と白のオーバーストライプ柄。黒いタイツを穿くことで、全体的に引き締まって見えた。新品の茶色の革靴は光沢で輝いている。

サウスレイク学園の学生服を身に付けたオーレリア。その彼女の後ろに控えているメラニーも姿見に映っていて、満足だと微笑んでいた。


「よくお似合いですわ、お嬢様。学生服すらお嬢様の美しさを引き立ててしまいますね」


「褒めないでちょうだい、頬が緩んでしまうわ。これから気を引き締めないといけないのよ」


後ろを振り返って答えれば、メラニーのうっとりとした顔があった。感慨深いと涙すら浮かべている。


「あの小さかったお嬢様が、立派な女学生となられるなんて・・・お仕えして、これほど喜ばしいことはございません」


「・・・メラニーに喜んでもらえて、私も嬉しいわ」


大袈裟、などと口を挟むことは止めた。姉のようなメラニーが純粋に喜んでくれていることを、素直に受け入れる。


「唯一の不満は学寮についていけないことです。お嬢様のお世話は私の天命ですのに」


「天命なんて大袈裟よ」


オーレリアは口元を緩める。ゆっくりとソファチェアに歩み寄ると、その上に置いていた革製の学生鞄を抱えた。


「仕方ないのよ、メラニー。サウスレイク学園の学寮には、従者を連れていけないの。貴族であっても一人で過ごせるほど生活能力を高めるために、自分のことは自分でするそうよ」


「ご入浴やスキンケアなどはお嬢様お一人でも熟せると分かっていますが、朝のお支度には不安があります」


「・・・大丈夫よ、きっとできるわ」


「不安ですわ・・・」


気落ちした声を聞きながら、オーレリアは自室をあとにした。エントランスに向かう途中、使用人達が彼女に声をかける。「いってらっしゃいませ」、「お気を付けて」、「何かありましたらすぐにお帰りになってください」等。暫く屋敷に戻らないオーレリアに、心を寄せて言葉を送ってくれる。

笑顔で答えた彼女は、エントランスに辿り着くと、祖父母の見送りを受けた。

寂しそうに顔を曇らせる祖父。祖母は優しく微笑み、身を寄せて抱き締めてくれた。


「あなた自身のことは信じています。良い学びを得られるように祈っていますよ」


「学園では君の助けになる者がいる。何かあれば、彼女に頼るように。善良で信頼が置ける子だよ」


そうして見送られたオーレリアは、共に学園に向かうフレデリックの馬車に乗った。

紺のブレザーに、赤いネクタイで襟首を絞めた白いシャツ。灰色と白のオーバーストライプ柄のスラックスを穿いたフレデリックにが、彼女を出迎えられた。


「おはようございます、フレデリック様」


座席に座ったまま両手を広げた彼に抱き着く。オーレリアは膝の上に乗せられて、抱擁を受けた。


「おはよう、オーレリア。思っていた通り制服がよく似合ってるよ」


「フレデリック様も、とてもお似合いよ」


額を合わせて見つめ合い、一分もかからずに唇を重ねた。

三年間の学園生活。一人だけでは不安だったが、フレデリックがいれば安心できる。勉学に励み、楽しく過ごせると思っていた。






入学式で目にしたことに、オーレリアは絶望すら感じた。

生徒会からの挨拶で壇上に上がった男子生徒と女子生徒の姿は、希望に胸を高鳴らせていた彼女を打ち砕く。

生徒会長の男子生徒は、カルネアス王国の宰相子息チェスター・ガーディナー。時が戻る前に、何度もオーレリアに暴言を放って心を打ち砕こうとしたその人。そして、副会長の女子生徒は。


「バーバラ様・・・」


色を失ったオーレリアが小さく呟いた名前。

誰からも愛されたバーバラ・バルザドールが、サウスレイク学園の生徒会副会長として壇上に佇んでいる。

艷やかな紺色のウェーブがかった髪は背中に流し、女性らしい豊満な体であるためか、胸元は制服に収まらないとボタンが外れて谷間を見せていた。すらりとした長い手足。特に剥き出しの足は、遠くからでも肌が白く美しいと分かる。

何よりも、華やかで妖艶な顔立ちが他者からの視線を奪っていた。緑色の瞳の目は、たっぷりとした睫毛に縁取られていて、色気のある気だるげな眼差しをしている。赤く色付く厚めの唇も人目を惹き付けると、色事に疎いオーレリアですら分かった。


「・・・っ」


動悸から息が乱れそうになる。それでも抑えようと口を閉ざした彼女は、フレデリックへと視線を向けた。

彼は真っ直ぐにバーバラを見ていた。大きく目を見開いて、目が離せないと凝視している。


(・・・ああ)


落胆は内心に留めることができた。感情から蹲ろうとする体を、足に力を入れることで耐える。


(フレデリック様は愛する人に出会ってしまった)


オーレリアはフレデリックの婚約者になってしまった。心の底から愛してしまっている。

だが、最愛の女性を前にした彼の気持ちを止めてはいけない。


(まだ私達の婚約は国民に通達はされていない。周知されていなければ婚約は解消できる。すぐに急いで書状を国王陛下とお父様に送らないといけないわ。私の都合で婚約解消にしましょう。全て私が悪いの。フレデリック様に責はないと話して、お二人から距離を開けるべきだわ。しっかり態度で示さないと、私はまた、妨害者だと虐げられる)


考えが頭の中を駆け巡る。絶望と膨大な思考は痛みとなり、彼女は額を押さえながら床に膝を付けた。

誰かに名前を呼ばれたと気付きながらも意識を手放す。

書きながら、オーレリアちゃんは何事も素直に受け入れてしまうチョロインだと思ってしまいました。

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