表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/99

愛する人を想い、過去の女に殺意を滾らせる

フレデリック視点です。

春の花が彩る庭園を、フレデリックは椅子の肘掛けに頬杖をつきながら眺める。

彼の膝の上には左手と、その手が持つ赤い装丁の書籍。先ほどまで読んでいたオーレリアの著書があった。彼女の行った発掘調査の記録、主体である古代の王弟ブラスに関する伝説と解明した真実。そこまでは歴史書と言えるが、兄に奪われたイレーヌとの記述では、オーレリアの主観が色濃く出ていた。

悲恋に終わった恋物語の小説のようで、彼女自身も憶測から想像したブラスとイレーヌの物語と銘打って書き記している。

この部分は読書を嗜む女性達の評価を得て、想定にはなかった購買層を獲得していると話題に上がっていた。

勿論、発掘の記録や導き出した真実に関しては、きちんとカルネアス王国の歴史学会や歴史家達の評価を得ている。歴史家アルスター・タイタス・ルヴァンの後継者としてオーレリアは相応しいと殆どの者が認めた。

早い話が彼女の発掘調査と著書は様々な層に評価を得て、カルネアス王国中の話題にもなり、歴史家の地位を確実なものにした。


「・・・」


フレデリックが視線を送る庭園の花壇に、マーガレットの花が咲き乱れている。庭師の手入れが行き届いていることで、色とりどりながら纏まっているように感じる配色をしていた。その白とピンクのマーガレットがそよ風に揺れている。

目が離せないと眺めながらも、彼の脳裏に浮かぶのはオーレリアだけ。


手に入れてしまおう。

すっかりと大人の女性と違わない容姿となった彼女を見て、堪えられなかった。その体に触れて・・・取り繕わずに言えば、快楽に耽って貪るように犯したかった。

ほぼ即興の計画では「愛の妙薬」を飲ませて、意識を朦朧とさせたところで宿泊に同意をさせ、時間をかけてオーレリアのことを味わうつもりだった。

あの夜の彼女の姿は忘れることなど出来ない。ベッドにほっそりとした体を預けて眠る美しい寝顔。彼に気付いて慌てる顔は愛らしく、晒した肌の白さと柔らかな胸から目が離せなかった。恥じらいで赤く染まる顔は扇情的で、怖いと言われなければ理性など失っていただろう。

まだフレデリックは子供を作るつもりはないが、オーレリアの純潔を奪ってしまいたかった。公爵令嬢という高位の立場にいることで、体の清らかさは特に求められる。どれほど本人が嫌がったとしても、それが強姦だとしても、性交の事実を突きつければ逃げ道は失う。そのはずだったのに。


(どうしてオーレリアは僕を拒絶できたんだ?「愛の妙薬」は摂取した者を必ず洗脳する。名前を呼び、目を合わせれば必ず従うと聞かされたのに)


「あの女、僕に嘘を付いたのか?」


思い起こすことで、脳裏にいる美しいオーレリアの姿を掻き消すように現れる女。

浮かび上がったバーバラの姿に、憎悪からフレデリックの顔は険しくなる。兄のカルロには負けるが、憤怒の悪魔のごとく恐ろしい形相になっていた。


『あんたは私のお気に入りだし、本当は連れて行きたいけど、あの人が嫉妬するからここでお別れよ。悲しいわ。悲しいから、ずっと私に狂って貰うために教えて上げる。どうしてあんたが、他の男達も私を無条件に愛しているのか知りたいでしょ?それはね、これを使っているからよ』


最後に体を重ねた夜。事が終わったバーバラは、全裸のままでフレデリックに語った。濃桃色の液体が入ったボトルを見せびらかせながら。

液体は残り少なく、ボトルの三分の一程度しかなかった。


『これは私の一族が崇めている神イルルラルバの神器「愛の妙薬」。私達イルルラルバの信徒は、クヴァネスを自国の神と崇めるカルネアス王国を乱すため、この薬を使うの。あんたの家系で婚約破棄をした奴らがいたでしょう?結局は正気に戻って元の婚約者と結婚しちゃうけど、そいつらは私と同じイルルラルバの信徒に「愛の妙薬」を使われて最初の相手を捨てるの。名前を呼んで目を合わせたら、相手は必ず言いなりになる。性欲からくる愛情で必ず従うの。ヤリたい相手に嫌われたくないってね!カルネアス王国を崩壊させるために、私はあんたを含めた王家の連中を操ってやったのよ』


誇らしそうに豊かな胸を張って言っていた。あのときのフレデリックは興奮していて、豊満で柔らかな胸に触れたいと手を伸ばした思い出がある。

今思うのは、あのとき正気に戻っていれば確実にバーバラを自分の手で殺せたということ。全てを狂わせたバーバラに、オーレリアを失った怒りをぶつけたくて堪らなかった。


『駄目、ふふっ。お触りは厳禁よ。別れ難くなっちゃうでしょ・・・とにかく、私達はあんたら王家を何度も操ってきた。今までの信徒やその末裔達はドジを踏んで失敗したり、途中で操っていた相手が正気に戻ったことで殺されたみたいだけど、私は違うわ!』


ケラケラと笑う全裸の女。今思えば、狂気的で嫌悪感がある様相だった。


『王様も王弟も、将軍も宰相も私の言いなり!官職に就く高位貴族様だって、私が足を舐めろと言えば躊躇わずに舐めてくる!下位の貴族だって上が私に狂っているから口すら出せない!みーんな私の言いなり!このカルネアスだって、政策やら法律を弄らせたから好き勝手にできた!邪魔だった馬鹿な女も惨めに焼け死んで死人に口なし!!あはっ、あはははははぁっ!!』


カーペットに座り込んで、手を付きながらも喉を仰け反り笑い狂う。頭のおかしい女が口に出した「馬鹿な女」とは、オーレリアに他ならない。


『はぁーっ・・・はぁ、芯まで真っ黒に焦げたら美人とかどうでもいいわね!嫉妬して損したわ。どんな奴でも焼け焦げたら同じ。真っ黒な棒切れみたいになっておしまいよ!はは、あははははっ!!』


「っ・・・」


思い起こしたバーバラの言葉に、フレデリックの怒りは頂点に達した。自分の歯が食いしばったことで軋み、頬を支えていた手が震えた。当人が目の前にいないことで解消できない怒りを、側の窓ガラスにぶつけようと拳を向けるが。


「・・・は、はぁっ・・・はぁ」


膝の上にあるオーレリアの書籍が目に入ったことで、彼の心は落ち着きを取り戻していく。

喉を震わせて、短いながらも呼吸を繰り返したフレデリックは、カルロと同じように窓を割ろうとした手で、書籍の表紙をなぞった。


「オーレリアは無事だ。カルロの婚約者にならなかったことで、あの女の目に留まらなかった。あの女自身も姿を見せていない。奴の手段だった『愛の妙薬』は僕の手の内だ」


自分に言い聞かせながら呟き、書籍を愛しそうに撫で続ける。


「オーレリアを、幸せにするんだ」


以前とは状況が変わっている。

フレデリックが『愛の妙薬』を手に入れたことがきっかけになったのか、貴族社会でオーレリアの評判は良く、歴史家として名すら上げている。

否、きっかけは違うかもしれないとうっすらと思っていた。まず、オーレリアの行動が時が戻る前と違っている。彼女にも、以前の記憶があるような素振りが見受けられている。


「カルロに記憶があるのは確実だ。あいつが『時の砂』を発動した。使用者だから何もかもを覚えていて、だから執拗にオーレリアを求めている。でも、そのオーレリア自身に記憶があるのはどうしてだろう?」


「時の砂」が発動したときにはオーレリアの処刑から一年経っていた。神器の発動を目にしていないのに、なぜ記憶があるのか分からない。


「あまりにオーレリアが無惨だとクヴァネス神が慈愛で奇跡をもたらしたのか・・・いや、我らの神はそういった性質じゃないな」


謎に思いながらも、オーレリアの本を開く。発行されて一カ月。初日に購入したものとはいえ、よく読み込んでしまっているブラスとイレーヌの恋物語のページが開いてしまうことに、彼は苦笑する。


「魂は転生する。愛し合っていた二人だからこそ、生まれ変わっても結ばれる可能性が高い・・・」


その一文を指先でなぞって呟けば、部屋のドアがノックされた。フレデリックが許可をすると、護衛のミオが手紙を携えて入室してくる。


「王妃殿下から書状が届いています」


「そう、サウスレイク学園の入学に関することかな?」


父母である国王夫妻には、きちんと理由を述べてサウスレイク学園に入学することを書状で伝えた。すでに入学テストは終えて合格報告も受けている。

父母には止める理由はないはずだと、彼は封書から手紙を取り出し、中の文章を視線でなぞった。


オーレリアを想うことで険しさを失っていた顔が、怪訝と眉を寄せる。


「母上がエイダンを連れて別宅に来訪されるそうだ」


「そうでしたか・・・」


遠くから聞こえる鉄の軋む音。別宅を囲う塀の鉄門が開かれたと、ミオが顔を向けたことでフレデリックにも分かった。

次いで、馬の足音と馬車の車輪の音が近付いてくるのが聞こえる。


「早いな」


「先触れと同時に移動を始められたのでは?」


「もう先触れを出す必要がないじゃないか・・・」


呆れで溜め息を漏らしながら、彼は椅子から立ち上がった。母と弟を出迎えるために、エントランスに向かう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ