表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/99

結ばれるのは必定なのだから

「お祖父様にお話をするわ。サウスレイク学園ならば、フレデリック様と楽しく学べるはずだもの」


フレデリックの引き攣っていた顔は和らぐ。いつもの微笑みを浮かべると、オーレリアに椅子ごと身を寄せた。

唇に触れていた彼の手が彼女の肩に回り、その身を引き寄せられた。胸に顔が触れたことで、心地良い心音が聞こえる。


「うん・・・何もかもやり直すんだ。君と幸せな思い出だったと語るために、何もかもやり直してやる。誰にも邪魔はさせない」


小声で呟く声。聞き取れないオーレリアはフレデリックの顔を見上げた。

彼は、ただ微笑みを浮かべたまま彼女を眺めているだけ。愛しいと熱のある眼差しと綻んだ口元で、ただ見守っているだけだった。

決意固く呟いた言葉などなかったと穏やかに取り繕っている。


「ケーキはもういいかな?お菓子も、お腹が一杯になってしまった?」


何事もなかったと言葉が贈られた。確かに何か言っていたと訝しむオーレリアだったが、フレデリックの指が頬をなぞり、その顔が近付いてきたことで、顔に熱が集まった。キスをするつもりだと、恥じらいから顔を背ければ、目尻に唇を受ける。

柔らかな温もりに肌を吸い付かれて、体温が上昇したと自覚した。


「フ、フレデリック様!そのように、あまりキスをされては・・・恥ずかしいわ」


「君への愛しさで我慢ができなかったんだ。キスは愛情の証、君に触れたいという気持ちがあるから贈ってしまう。オーレリア、僕は心から君を愛しているんだ」


「知っているわ、あなたに触れ合うたびに感じるもの」


「僕の愛はずっと昔から、僕達に記憶がないときから始まっている。君を一目見たときから、愛してしまったから。きっと、僕達は前世で恋人同士だったんだ。そうでなければ、一目惚れから今にまで君をこれほど愛する理由がない」


「前世・・・そう、かしら」


いつからか、ブラスの居城の発掘調査を始めたときか。それとも、過去を見せたような夢を見た日からか。

彼女の心の奥にあるものが目覚めたことで、フレデリックの言葉が真実だと思ってしまう。これほど愛情を感じるのは、前世での関係が関わっているのだと。


(そんなこと・・・)


『想い合う恋人は、再び巡り合うと言われておりますから』


北西部山間の神殿で、神官が紡いだ言葉が脳裏に浮かぶ。

その言葉は、浮かび上がった瞬間に意識に浸透した。前世からの愛は真実なのだと理解させられる。


「いえ、そうね。そうだわ」


うっとりとした目でフレデリックを見つめるオーレリア。

胸の内から溢れそうなほどの愛。常に心の中心にいる人を、思わない時はない。

それが偽りの愛だとしても、前世である「彼女」がいることで、オーレリアには拒絶などできない。「彼」は「フレデリック」。「彼女」は「オーレリア」なのだから。

きっと薬の効果が切れたとしても、心に灯る想いは在り続ける。






誕生日のケーキとお菓子を満喫したオーレリアは、フレデリックのエスコートで別宅の図書室に案内された。

以前のように国宝である机に気になる歴史書を運び、広げて読み耽る。彼が淹れてくれた紅茶を飲みつつ、穏やかな読書の時間を過ごしていた。


「この別宅で暮らせば図書室の本は読み放題だよ?」


囁かれた甘言に首を横に振る。あまりにも強い誘惑だったが、オーレリア達は婚約すらしていない。ほぼ確定だとしても、婚約者でもない異性と同居など体裁が悪い。

ただでさえ、王子と公爵令嬢の交流は人目を引き、噂を立てられてしまうのだから。


「まあ、いいか・・・婚約したら同棲を視野に入れているからね」


吐息と共に耳元に囁かれた言葉に、彼女が恥じらいから悲鳴を上げたのは言うまでもない。

フレデリックにからかわれることはあれど、それでも穏やかな時が流れた。読み耽る王家関連の歴史書は興味深く、事件や催事の記録に関心を寄せてしまった。


「六十代国王スチュアート陛下は内乱にて命を落とし、東の渓谷にそのご遺体が滑落した・・・引き上げることはできず、スチュアート国王陛下の遺骨はカルネアスの宝剣と共に眠っている」


「それについて話すけど、五十五年前にある歴史家が有志と人員を募って引き上げに成功している。ただ、宝剣は見つかってないんだ。東の渓谷は、地の底に続くなんて言われるほど深い。引き上げ当時より滑車や梯子等の設備が発達していても、いまだに底までは行けないんだ」


「まあ、壮大な場所なのね」


オーレリアにとってカルネアス王国の東部は、古代期の神殿と史跡を巡ったことがある程度。この地方都市と同規模の都市が幾つかあるとも知っている。

ただ、東の渓谷に関しては、祖父が危険地域だと言って近寄ることもできなかった。



「一応、下に川が流れていると調査結果は出ているけど、その川だって地面の亀裂の中ではないかって言われてる」


「宝剣はそちらに落ちてしまったのかしら」


「もしくは川に流されて海に辿り着いてしまっているかもね。宝剣といっても、僕の手のひらくらいの長さしかない短剣なんだ。細やかな装飾と様々な宝石が取り付けられていたことで、価値はあるらしいけど・・・まあ、入手困難な失せ物だ。よほどの幸運がなければ手に入らない」


意地悪そうに口をつり上げたフレデリックが、また耳元で囁く。


「だから、探しに行こうなんて考えては駄目だよ。羽のように軽い君では、渓谷に吹く風に攫われてしまうからね」


耳輪を唇で挟まれたことで顔を真っ赤にした彼女は、素早く身を離し、抗議の眼差しを向ける。


「もう!」


感情のままにフレデリックの肩を手のひらで軽く叩く。机に肘を付いて眺めてくる彼は、喉を鳴らして笑った。


「あぁ、可愛いな・・・早く君と」


「なあに?」


何かしら呟かれたが、後半は全く聞こえなかった。耳をそばだてても、クスクスと喉を震わせる声しか聞こえない。


(今日のフレデリック様は少しおかしいわ)


何かしら考えがあっての言動と思うが、意味を掴めないことで不思議に思ってしまう。

手にしていた歴史書を閉じて机に置いたオーレリアは、フレデリックをまじまじと見た。どこかに変化があるはずだと、様子を窺うのだが。


「そんなに見つめられるとキスがしたくなる」


あけすけな言葉に、顔を赤くすることしかできなかった。じっと見つめてくる熱い眼差しから逃げるように顔を伏せて、机の歴史書に目線を向ける。

たった数十秒ほど経過して、彼は彼女へと手を向けた。指先で目元にかかる金の髪を無で上げられる。


「オーレリア、そろそろ夕食だ」


その言葉に、オーレリアは窓へと目を向けた。良く磨かれた窓ガラスの向こう、沈みゆく夕日が空を橙に染め上げている。


「さあ、行こうか」


入り込む夕日の光に、図書室の壁も染まっていた。その色も橙色、燃えるような夕日色。

フレデリックの色を思わせる黄昏時に、彼女は不安を感じる。


このような時間まで外出などしたことはない。ましてや家族以外と過ごしたことなどない。

このままフレデリックと一緒に過ごして大丈夫だろうか。知った誰かに咎められないだろうか。帰宅を待つ祖父母を心配にさせていないだろうか。

果たして、フレデリックは安全な男性か。


(今更、何を考えているの。今日はご一緒すると決めていたのに・・・)


妙な胸騒ぎのせいで不安を感じたのだろう。気にするべきではないと、小さく息を吐いて気持ちを切り替える。

オーレリアは、立ち上がったフレデリックが差し出している手を取った。

早く君と深く繋がりたい。その体に触れて快楽を貪りたい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ