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緊張の謁見

王族に拝謁した時の文言や所作は、想像なのでふんわりとしてます。不敬な言動に当たるとしたら申し訳ありません。ふんわりと読んでいただけたら幸いです。

先に馬車で待っていた祖父と合流をしたオーレリアは、母親と祖母に見送られて王城へと向かう。

カルロが原因で敬遠していたが、王家の祖先に関する発掘調査とあっては、現場監督者として必ず報告をしなければならない。国王陛下の許可があってこそ成し得たことでもある。

気をしっかりと持たなければ、と膝に乗せた手が握り拳となる。震えるほど握り込むが、その緊張した様子に祖父は笑みを向けた。


「そう力まなくとも大丈夫だよ。君は自身の成し得たことを言えばいいんだ。君の努力や気持ちに結果が付いてきたんだから」


優しい声と言葉に勇気付けられる。彼女はホッと息を吐いて体の力を抜くと、祖父へと笑みを浮かべた。

白亜の王城は、貴族達の邸宅のある区画から近く、すぐに城門が姿を見せた。高台に建てられた王城を奥に据えて、馬車は飲み込まれるように城門を潜る。

車止めに停められてると、御者によって扉が開かれた。先に祖父が降り、続いたオーレリアへと手を差し出してくれる。支えにしてステップを降りると、祖父にエスコートをされながら王城の正面扉へと歩き進む。

国王陛下との謁見は一の宮で行われるため、緩やかな傾斜の階段を、ドレスの裾を揺らめかせながら上っていく。


「あちらは」


「ルヴァン前公爵とオーレリア嬢だ」


「ご令嬢がいらっしゃったということは、件の王弟の遺跡に関することか?」


「ルヴァンの姫は自ら発掘現場に降り立ち、土を掘り起こして遺跡を発見されたと聞いた。あの麗しい方が土に塗れたというのか・・・」


官僚である貴族達は密やかに会話をすると、すれ違いざまに頭を垂れた。そっと会釈をしながら、彼女は祖父の導きで謁見の間に辿り着く。


「やっぱり君は人目を引くね」


「・・・もはや慣れたものです」


喉の震えを祖父に気付かれはしないかと思いつつ、オーレリアは前を見据える。扉の左右に控えていた警備の騎士達が、同時に取っ手を引き開いた。

真紅の絨毯が奥に続き、段差の上にある二つの玉座、そこに座る国王陛下と王妃殿下の姿が見えた。王妃殿下の脇には男性と少年が控えている。


「頼もしいね。さあ、行こうか、オーレリア」


祖父が歩き進むことで、腕に手を乗せている彼女も、躊躇いなど許されずに進むしかなかった。

近付けば、真顔の国王陛下の顔と微笑みを浮かべている王妃殿下の顔が見え、その脇にいるのがフレデリックと分かった。カルロ以外の王家がいることで、見知らぬ愛らしい少年が第三王子エイダンだとも理解できた。

祖父はそのまま段差を三段上がって国王陛下の前に立つ。オーレリアは触れていた腕から手を離すと、一歩後ろに下がろうとした。


「オーレリア、君が前だよ」


祖父は、彼女に近寄って軽く背中を押した。国王陛下の威圧するかのような眼光を正面で受けるが、息を飲み、ゆっくりと淑女の礼を取る。


「オーレリア・エドナ・ルヴァン、ラスロー国王陛下に拝謁いたしたく、只今参じました。国王陛下におかれましては、ご健勝でいらっしゃると存じます。本日はお時間をくださり、誠にありがとうございます」


一度息を吸い込み、ゆっくりと気付かれないように吐く。


「王妃殿下におかれましても、ご健勝でいらっしゃると存じます。お会いできたことは私の喜びです」


オーレリアは頭を上げた。礼をする前と変わらない真顔と微笑みが向けられているが、フレデリックの顔を視界に捉えたことで、彼女は安心感を得ていた。見守ってくれる恋人は何よりの支えとなっている。


「カルネアスの偉大なる国王陛下の御前で、一介の歴史家として古代期の王弟ブラス・カルネアス殿下の遺跡発掘、ご本人の遺骸の発見のご報告をいたしたく存じます」


国王陛下へと真っ直ぐに視線を向けながら言えば、引き締めていた口元が緩んだ。一息付いた陛下は、左の肘掛けに腕を乗せ、寄りかかるように座り直す。

フレデリックを思わせる所作に、オーレリアの気も緩みそうになったが、背筋を伸ばして耐えた。


「この生真面目さと聡明さに加え、目を見張るほどの絶世の美貌だ。これは確かに男を惑わせる」


「・・・」


突然言われたことに困惑するが、戸惑う情けない声を上げることなく、取り敢えず微笑みを浮かべた。

国王陛下は肘を付いた手で口元を覆いながら、オーレリアの姿を頭の天辺から足先まで視線を向ける。


「最後に顔を合わせて四年近く経つが、そなたは非常に美しくなった。ジルベールとアマリアの子ならば二人の美貌を引き継ぐだろうとは思っていたが、そなたは別格だな。世が世なら戦利品として争奪されていただろう」


「陛下」


言葉が返せずに困っていれば、王妃殿下が窘めるように言葉を贈る。背後にいる祖父も、謁見の最中に盛大な溜め息をついた。


「陛下、私の孫娘を困らせて愉悦を感じていらっしゃるので?」


「爺、嫌味の一つくらい言わせてくれ。オーレリアは天性の魔性だ。俺の二人の息子の心を容易く奪ったのだぞ」


「臣下に対して爺呼ばわりする礼節の欠けた国王陛下ですから、公的な謁見だろうとも嫌味を言うのでしょうなぁ。まだ社交界にも出ていない、無垢な少女に対して嫌味などと・・・あなたの父親の顔が見てみたいものです」


「何を言う。指導官として、俺の父の顔など気が滅入るほど目にしただろう」


「そうでしたね。では、父上のようにその歳で叱られたくなければ、国の頂点らしく振る舞っていただきたい」


オーレリアの背後から妙な威圧感が発せられる。祖父が国王陛下に怒りを向けているのだと分かった。だが、彼女自身は初めてのことで背中に冷や汗が流れていく。

オーレリアを挟んで向けられた怒気に、国王陛下はたじろぎ、咳払いをして紛らわすと、その目を彼女に向けた。


「オーレリア・エドナ・ルヴァン。報告を聞こう。貴殿が発掘調査を願い出たカルネアス王家の祖の一人であるブラス・カルネアスとその居城の遺跡についてだ。発見の初期段階から簡易な報告は受けていたが、この場で説明してもらいたい。古代の王弟ブラスはこの国の歴史にも、我がカルネアス王家にも重要な存在だからな」


国王陛下の言葉を受けて、オーレリアは話し始める。二千年以上も前に地上から消されたブラスの居城。その城主で、愛する女性イレーヌから引き離された悲恋の王弟の話。戦いに敗れて落ち延びたブラスが、イレーヌへの愛を抱きながら自害したことを話した。

オーレリアの話を国王陛下も王妃殿下も聞き入り、小さなエイダン王子は、彼女を目を瞬かせながら見つめている。

迫力のある顔からの真剣な眼差しと無邪気な視線。身に受けることで緊張していまうが、フレデリックと祖父の存在が後押しとなっていた。説明を途切れさせることなく続けていく。


「──・・・そして、ブラス王弟殿下の遺骸の周辺調査の結果から、王弟殿下は引き離された婚約者を深く愛していたと思われます。王弟殿下が時の国王陛下であるロブロス陛下に戦を仕掛けたのも、側妃にされてしまったイレーヌ様の奪還が目的です。以前から有力とされていた説ですが、こちらこそが正確なものだと私は提示します。ブラス王弟殿下は王権と神器『時の砂』の簒奪を目的とした反逆者ではありません。ただ愛する方を取り戻そうとした英雄です」


言い終えて、静かに一呼吸。

オーレリアは向かい合う国王陛下を仰ぎ見る。変わらず口元を手で覆って聞き入っていた陛下は、小さく唸り声を上げると、彼女を見つめる目を細めた。

カルロに似た体格と顔立ちの国王陛下に睨まれるように見られることで、体が震えそうになる。


「先ずは、貴殿の発見は素晴らしい功績だ。長い歴史の中に消え失せた王弟ブラス、その居城を発掘したこと。歴史家達が探し続けた幻の存在が、貴殿の働きにより現代に姿を現し、新たな事実も発覚した。貴殿の貢献により、最初の反逆者という不名誉な記録は塗り替わる。グリオス平原では英雄とされたブラスだったが、カルネアス全土の英雄となろう。悪辣な兄王から婚約者を救おうとした豪傑である」


言い終えた国王陛下は表情を緩めた。隣に座る王妃殿下も「悲恋だわ・・・」と、オーレリアの母親のようなことを言いながら、目を潤ませていた。

緊張で強張っていた体から力が抜けそうになる。安堵から息を漏らしそうになる。彼女は耐えて、淑女の礼を取った。


「国王陛下よりお言葉を賜われたことを嬉しく思います。私の働きでカルネアスの歴史の真実を解き明かせたことは、喜びに他なりません」


功績だと認められたことの喜びは、今は内に潜めて言葉を紡ぐ。後に喜びを分かち合う人が彼女を見守ってくれているからだ。

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