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時を超えて開かれる

翌日。

オーレリアの姿は、襟がフリルで飾られた白いブラウスと、レモンイエローのロングスカートという鮮やかで動きやすい装いだった。いつも身に付けている夕日色のリボンで留められた編み込みが、そよ風が起こるたびに揺れている。

待つこと十数分。昨日先触れとしてやって来た従者を先頭に、護衛騎士達を引き連れたフレデリックが木々の合間の小道から姿を現した。瞬間、彼女はスカートの裾を翻して駆け寄る。


「フレデリック様、ようこそ!」


「オーレリア」


手を広げて近付いてきたオーレリアを、彼は躊躇うことなく抱き留めた。しっかりと腰に腕が回される。身を包む温もりを心地よく思えば、額や頬に軽いキスを受けた。彼女も頬へとキスを返す。

一ヶ月振りの再会。二人の心は舞い上がり、周りを気にせずに触れ合ってしまった。


「オーレリアお嬢様、皆様が見ていらっしゃいます。緑深き森の中とはいえ、今は公共の場でございますよ」


軽く咳払いをしたメラニーに苦言を呈される。

途端に恥じらいを覚えたオーレリアは、フレデリックと密着していた上体を離した。しかし、腰にある腕のせいで体を離すことはできない。


「フ、フレデリック様・・・」


「一ヶ月ぶりの君に気持ちが高揚してしまった。でも、仕方ないよね。僕は常に君の温もりを恋しく思っているんだから」


頬にキスが落とされて、吸い付かれることで音が立つ。

彼女は、感触と人目があることに顔を真っ赤にした。彼の肩口に顔を押し当てて隠す。


「・・・良かった。まだ君は僕のことを」


小さな呟きが聞こえたことで、オーレリアはおずおずと顔を上げる。上目遣いで見たフレデリックの顔は優しい笑みを浮かべていた。

美麗かつ優美と言われる美貌のまま、穏やかな眼差しを向けられている。


「お会いすることを心待ちにしていたわ」


「僕もだよ。コルツ町に戻らずに発掘作業をしていると聞いたけれど、君の様子を見るに楽しく暮らせているようだ」


「ええ!だって、ブラス王弟殿下の居城の跡を見つけたの!夢・・・夢で見た通りの場所にあったわ」


夢のことは伏せているため、小声で囁くように伝えた。彼は声を漏らして笑う。


「ああ、そうだったね。僕は信じていた。君の夢を信じていたよ。君はカルネアス王国から消え失せたブラスを見つけるんだ」


「遺跡を見せてほしい」と続けて言ったフレデリックと寄り添いながら、発掘現場へと案内をする。

まだ少年少女である二人の歩みのあとに、鎧を身に着けた重い足音が続く。


「ミオ様も含めた騎士達が重装している・・・我が国の王子であるあなたを、防衛なんて無きに等しい森に招待したのは迂闊だったかしら?」


「気にしなくていいよ。念の為の武装だ。君のいる場所だから戦闘なんて起こさないよ」


妙な言い回しと感じたオーレリアは首を傾げるが、彼はただ微笑むだけ。オーレリアに従って歩き進み、発掘現場まで辿り着くと、その目を少し見張っただけだった。


「壁の一部と、道かな?それが見つかったの?」


姿を現したブラスの居城の跡。発掘調査員達が懸命に掘り起こす様子を、フレデリックは凝視していた。


「城壁の一部と、遺構として水道の跡が見つかったの。本館である城は破片程度が見つかったわ。住居跡は殆どない。今は出土した破片の位置と、同時期に建築された別の遺跡とも照らし合わせて、正確な城の位置と城内の間取りを調べているの」


「そうなんだ・・・あれは?」


夕日色の瞳の目を忙しなく動かして現場の様子を見ていたフレデリックは、奥に佇む巨木を目に映したらしい。

指で差し示された巨木は、すっかり枝が切り落とされていて、あとは太ましい幹を除去するだけだった。祖父が見守る中、何人もの木こりが取り囲んで斧を振るっている。


「城壁があの木の周辺まで続いているの。全体図を明らかにするために伐採している最中よ」


「そうなんだ」


「同時期の遺跡の建築様式を参考にして、憶測で立てた王弟殿下の居城の存在理由と照らし合わせたの。おそらく、武器庫と兵士の詰め所がある別館が建っていたと思うのだけれど」


「倒れるぞー!!」


オーレリアの説明に被さる形で木こりの一人が大声を発する。彼の声に反応して、祖父と木こり達が後退れば、巨木はバキバキと乾いた音を立てながら横倒しになった。枝を切られたことで幹に凹凸のある巨木は転がらない。何人かの木こりが、建材にしようと斧を振るい始める。


「切り株の除去もしてくれないか」


祖父の言葉に、木こり達が斧で切り株を割り砕いていく。


「邪魔な木がなくなったね」


フレデリックに腰を押されたオーレリアは、並び歩いて巨木が失せた土の地面に向かう。


「あん?ルヴァン様、何か・・・鉄製のものが下にあります」


「鉄?」


今、切り株に一振りと斧を叩き付けた木こりの声。その声に引き寄せられた祖父が、斧が食い込む場所を身を乗り出して眺めている。

ゆっくりと歩いていたオーレリアの歩みが速くなる。下に埋まっているもの。数百年は聳え立っていた巨木の下にあったもの。つまりは、鉄と判断された人工物がそれ以前に剥き出しで存在していた。

はやる気持ちが抑えられない彼女は、フレデリックを置き去りに進もうとする。しかし、彼の手がしっかりと腕を掴んだことで、歩みすら止められた。


「落ち着いて、オーレリア。この辺りは整地されていない。地面の穴や石に足を取られて転んでしまうよ。だから、落ち着こう。大丈夫だよ、君の探しているものは逃げるなんてできないんだから」


振り返れば穏やかな表情の顔。声変わりをしたことで心安らぐ低音の優しい声。

それは自分の鼓動の音以外聞こえないオーレリアの耳に届き、高鳴っている胸を落ち着かせる。一息付いた彼女は、切り株の方へと振り返り、また呼吸を繰り返して、歩き始めた。

腕を掴んでいたフレデリックの手が、オーレリアの手を掴むと、お互いの指が絡むように握り込む。


「ああ、オーレリア」


土の地面を踏みしめる足音に祖父は気付いて振り返ってきた。

オーレリアと同じ紫色の瞳が煌めいていて、興奮していると目に見えて分かる。


「お祖父様、発見物があると聞こえました」


「うん・・・いいかな?」


祖父の声を合図にして木こりが斧を振り下ろす。接触に金属音が響く。


「木の下に何かあります。根っこに絡んでいるとは思いますが、あんまり時間はかからず除去できますよ」


「そうですか、今日中に終わりますか?」


「勿論です!」


日に焼けた木こりは、歯を見せて笑う。肌の黒さに反した白い歯は輝いて見えた。


「では、お願いします。よろしくお願いします・・・発見物は傷付けないように、お願いします」


同じことを呟くだけのオーレリア。その意識は切り株の下、金属というものの正体だけに向かっていた。


(金属・・・木の下に、根に絡んだようにある金属・・・ブラス様は重装の騎士だった。巡回のときも、鎧姿で)


脳裏に仄かに浮かぶ人影。ぼんやりとした男性の姿。

それは、フレデリックの手に頭を撫でらたことで霧散する。


「フレデ、リック様・・・」


「少し離れよう・・・メラニーだったね?オーレリアを座らせたい。椅子を持ってきてくれないかな?」


彼は付き従っていたメラニーに話しかける。主人であるオーレリアを想う彼女はすぐさま動き、天幕内で使っている木製の椅子を持ってきた。

フレデリックが座るように催促すれば、オーレリアは腰を下ろした。その紫色の瞳は、切り株を解体する木こり達を見つめるだけ。

隣に立つ彼に髪を撫でられながら、ずっと待ち続ける。切り株の下のものが姿を現すのを、彼女は待ち続けた。




一時間ほどだろう。

割れてバラバラになった切り株に鋤を差し込み、テコの原理で持ち上げられる。またバキバキと音を立てて木の根が地面から浮いた。木こり達は残った根を取り除くために濡れた土へと顔を向けて、掴み取った根を放る。

その姿を、オーレリアは両脇に立つ祖父とフレデリックと共に眺めていた。瞬きを忘れるほど注視しているため、その瞳は渇いている。乾燥に気が付いて瞬きをすること二回。


「ルヴァン様、お嬢様。扉です。木の下に鉄製の扉がありました」


木こりの発した言葉に彼女は椅子から立ち上がった。


(扉・・・ブラス様ではなく、扉・・・地下室への扉だわ)


ぼんやりと浮かぶ言葉。オーレリアはそのまま張り詰めた顔の祖父を見上げ、次に表情のないフレデリックと見つめ合い、最後に後ろへと振り返る。

いつの間にか集っていた発掘調査員へと言葉をかけた。


「この下に部屋があります。遺跡の床に傷を付けないように掘り起こしてください。全貌が明らかになったら中を改めます」


彼女の呼びかけに調査員達は動き出し、丁寧な手付きで土を掘り起こした。濡れた黒土が取り除かれて石組みの床が姿を現す。鉄製の扉を中央にした長方形の床が現れた。

囲う城塞も掘り起こされて、石組みの床は内部にある建築物だと分かる。


「城塞の内部にある地下室・・・別館の地下にあったもの」


今にも飛び付きたい気持ちを抑えて、オーレリアは鉄製の扉へと近づく。すっかり錆びている朽ちた扉。茶色で変形した扉の曲がっている取っ手を見た。


「あ、開けます」


止める者はいなかった。

彼女は扉の取っ手を掴み、軋む音を建てながらゆっくりと開いた。

遅れましたが、誤字脱字報告ありがとうございます。非常に助かっています。

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