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発掘は続く

オーレリアの持つスコップが土を退ける。埋まっている城壁を掘り起こすために、傷を付けないために丁寧に、丁寧に被っている土を退かした。

白いブラウスも紺のスカートも土で汚れている。肉体労働に汗が滲むが、彼女は首に掛けたタオルで流れてくる汗を拭くだけ。

公爵令嬢らしからぬ作業に、現場の脇で見守っているメラニーはハラハラとしているが、オーレリアは気にしない。気付かない。自ら発掘するということに喜び、夢中になっているからだ。


小城を囲っていたとされる城壁の跡や欠片。最初に見つかった一部を始点にして、予測から土を掘り起こせば次々に城壁は姿を現した。あと少しで全貌が明らかとなる。

ただ、進行方向のためにもう一本、巨木を伐採しなければならないことになった。

屈んでいた背中を伸ばし、先に見える青々と葉の茂る巨木を見上げる。その前には、協力者の木こりと祖父が話している。木こりが首を傾げて唸る様子から、伐採には時間がかかると感じた。


オーレリアは再び、地面に視線を落とす。土から覗く人工的な石組み。組み方や材質からブラスの軍事拠点跡と同時期の建築だと確定した。全体を露出させようと、移植ごてに持ち直してそっと土を退かし始めた。


「お、お嬢様」


汚れるから離れていてほしいと頼んだメラニーから、声がかけられる。発掘調査などしたことがない彼女が怪我をしたり、土を被らないために離れた場所へいることを願った。

ただ、メラニーからすれば、オーレリアこそ怪我をすべきではない、汚れ仕事などすべきではない貴き身分である。


「そろそろ休まれましょう!お顔や手の土汚れが酷いですわ!」


「メラニー、発掘は汚れること前提なのよ」


「お嬢様がすべきことではありませんー!」


抗議から胸の前で腕を震わせていると視界に捉えるが、オーレリアは振り向いて笑顔を見せた。


「楽しいわ、メラニー!」


「それはようございました!ですが、やはり一度お休みにいたしましょう!汗と土でお顔が!お嬢様のお顔が汚れてしまっています!」


ふるふると体すらの震わせたメラニー。オーレリアは必死な様子がおかしくて吹き出しそうになるが、性根が悪いと思い直し、口元を引き締めた。

涙すら浮かべるメラニーへと歩み寄り、木組みで作られた段差を上る。


「ごめんなさい、夢中になってしまったわ」


「他にも発掘されている方がいらっしゃるのです。お嬢様が率先してすべきことではありません」


オーレリアは後ろへと振り返る。今しがた参加をしていた発掘現場。彼女と同じく発掘作業をする調査員達は二十人いる。城壁の発掘担当もいれば、小城があったと思われる地点、小城の壁や遺構の発見を担当する人もいた。

沢山の調査員が、オーレリアの夢を叶えるべく協力してくれている。彼らは彼女の視線に気付くと、笑みを浮かべた顔を向けたり、発掘道具を持ったまま手を振ってくれた。


「皆様も適度に休憩してくださいませ!」


彼女は微笑みと言葉を送ると、その後ろ姿をうっとりと眺める調査員達に気付くことなく、メラニーの待つ天幕に向かった。

メラニーは、鉄のポットで温めていた湯を銀の桶に注いで、タオルを浸けている。余分な水分を絞って落とし、天幕に辿り着いたオーレリアに手渡した。

土で汚れた手を拭い、汗と土の付いた顔も優しく拭った。その動きのまま、彼女はメラニーが運んだ木製の椅子に腰を下ろした。


「ありがとう」


「紅茶は飲まれますか?すぐにご用意できます」


「そうね・・・今は暑いから冷ましてくださる?」


メラニーは一礼をすると、紅茶の準備を始めた。素早く、それでいて丁寧に紅茶を淹れる。少しポットで蒸らされて、陶器のカップに注がれた。

カップは日陰となる木製のカウンターに置かれた。冷めるまで時間はかかるだろう。


「湖の水が飲めればいいのに」


「見た目だけでは判断できませんわ。お嬢様がお腹を壊されたら、私は辛くて泣いてしまいます」


オーレリアが手にしていたタオルをメラニーは受け取ると、再び桶の湯に浸した。ゆすいだあとで、絞って水気を取る。また手渡されたタオルで汗の滲む肌を拭った。


「お風呂の用意をいたしますか?」


「あら、それほど酷い様相かしら?」


「いえ、お嬢様の美しさは汗や土汚れ程度で陰ることはありません。ですが、この気温の中で体を動かされたのです。全身に汗が吹き出されたでしょう。不衛生ですし、身を清められたほうがよいかと思いました」


「そうね・・・もう少し、あちらの巨木の際まで掘り進めたらお風呂に入ろうかしら。あの木を伐採しなければ、作業は進まないもの」


眼前に広がる発掘現場。進行の邪魔になっている巨木。忙しなく動く調査員達と、相談を続ける木こりと祖父の姿がよく見える。


「あの木は取り除かなければならないわ。私の推測では、城壁の中は本館である城と武器庫や詰め所等が配置された別館があるはずなの。家族を守るための武装は必要だから、必ず近場に建てられていた。あの木の辺りにあったと思うのだけれど」


「それで同時期の建築の間取りを調べていらっしゃったのですね」


オーレリアはメラニーから紅茶のカップを受け取ると、一口飲む。温度は温くも口内に香りが広がっていく。


「確実ではないわ。でも、城壁だけでは守りは薄くなってしまう。ブラス王弟殿下にとってイレーヌ様は何よりも大切な存在だったと思うの。愛する人を守るなら、防衛には注力するはずよ」


もう一口、紅茶を飲む。すっきりとする口内と潤う喉。彼女は一旦、側にある机にカップを置いた。

眺めていた風景に動きが起こる。巨木の前にいた祖父が、オーレリアの方へと近付いてきた。彼が話していた木こりは、他の木こりを呼んでいる。斧やノコギリを持った一団が巨木を囲い始めた。


「伐採を始めるみたいね」


「オーレリア」


呟けば、祖父に声をかけられた。彼女は迎えるために椅子から腰を上げる。向かい合う祖父も、シャツのボタンを外し、肩にかけたタオルで浮かぶ汗を拭っていた。


「どうですか?」


「うん、これから木こり達が総動員で伐採を始める。先ずは枝を切り落とすそうだから、近くにいる調査員と顔を出した遺跡の一部を保護しよう」


「分かりました、調査員達に伝えて参ります」


オーレリア自ら動いて調査員達の元へ。木組の段差を降りる。声を上げて作業の中断を知らせると、露出している城壁が傷付かないように、木材と布を組み合わせた簡易な防護壁を作る。

調査員達と協力して城壁を保護をした彼女は、枝を切断され始めた巨木を見つめた。


(あの下にある。きっと何かある。埋まっている城壁が続いているはずだもの。絶対に・・・いらっしゃるわ)


不意に思ったことに「誰が?」と自問自答しようとするが、メラニーの呼び声でオーレリアの意識はそれた。


「お嬢様!先触れが参りました。フレデリック様がいらっしゃるようです!」


驚きで目を見開き、彼女はメラニーへと歩み寄る。いつの間にかいたフレデリックの従者は、肩を上下にするほど呼吸を繰り返している。急いで来たと分かる様子から、メラニーに飲み物を渡すよう指示を出した。


「突然だねぇ」


祖父は呆れた様子だが、その表情は穏やかだった。フレデリックに対する心象は悪くないと思わせる。オーレリアも笑みを浮かべた。


「ブラス王弟殿下の居城が見つかったと手紙を送ったのです。フレデリック様も心待ちにされていたはずですから、気持ちを抑えることができなかったのかもしれません」


「そうかな・・・うーん、そうか。夢中になっている相手が夢中になっていることだ。気になってしまうのは仕方ないことだね」


祖父の言い回しが不思議で、彼女は小首を傾げる。


「・・・失礼しました、ルヴァン公爵令嬢。お伝えいたします。フレデリック王子殿下は、明日の朝にはこちらにいらっしゃいます。今はコルツ町に着いた頃でしょう」


紅茶を飲んで一息付いたフレデリックの従者。伝えてくれたことに、オーレリアは微笑みを向けて頷いた。

彼女の後ろ、発掘現場の方から音が響く。枝を切り取るノコギリの音が耳に届いた。

好きなことを楽しむ女の子も可愛いです。

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