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月夜で行われる会話

カルロとアルバのやり取り。

闇夜に浮かぶ三日月の下、カルロが身に付けていたコートを無造作に脱いだ。血と細かな肉片の滴るコートは、立ち尽くしてたアルバに投げ渡される。

噎せ返る血の匂いに彼は眉を顰めるが、こみ上げてきたものを吐き出すことは耐えられた。


「処理をしておけ」


黒い上着とズボン姿になったカルロは、血のついたブーツを履いたまま馬車に乗り込む。コートを抱えたことで、アルバの軍服に血が染み付いていった。


「何か袋はないか?焼くにもここでは目立ってしまう」


カルロの従者に言えば、戦慄と顔を強張らせていた彼は肩を跳ね上げて、皮の袋を差し出してくれた。大きく開いた口にコートを放り込み、自身の血が滲みてしまった軍服も入れる。


「王都に戻る」


従者に告げると、カルロのいる馬車に乗り込んだ。

中では、カルロが二人掛けの座席の真ん中に座り、背もたれに腕を乗せていた。王太子とは思えない横柄な態度に、アルバは窘めようとして、止めた。

彼の主はすこぶる機嫌が悪い。涼し気な目元は吊り上がり、赤い瞳の目には怒りの炎が宿っている。

アルバは対面した座席に座った。忌々しいと睨み付けてくるカルロと、目線が合わないように伏せる。


「まずは一人、厄介者を始末できた」


一人。カルロにとっては他に、複数人いるということ。

足元を見ていた紫色の瞳を上に向ける。鋭さのある赤。視線が刃ならば、アルバの顔を引き裂いていただろう眼差しが向けられていた。


「このようにカルロ殿下が手を下す必要はないはずです。何より、惨たらしく殺すなど」


「ロノヴァ・クラインはクライン家配下の兵や領民から、素行の悪さで恨みを買っていた。暴徒となった彼らに殺されたとすれば、あの惨殺死体も納得されるだろう。もっとも、いつ見つかるのか分からんがな。奴は更生施設行きとなり、道中で脱走したことになっている。ここは人里離れた国道の南端だ。発見されたときは、より酷い有様になっているだろう」


カルロの口元が歪む。楽しそうに吊り上げて、喉を鳴らして笑い始めた。


「清々する。奴はクライン侯爵家を虐殺したあとで、『あの女』の指示の元、王都とクライン侯爵領を荒らすだろう?治安を守る者が治安を乱し、国内を荒廃させる。国軍の将軍などただの肩書に成り下がる。奴は悪漢の総大将に過ぎなかった・・・最初に正気に戻ったことで、真っ先に私に刃を向けた『反逆者』でもある。死んで当然だ。王に歯向かうなど、来世を迎えても許されざること」


(あなたのいう国内の荒廃は、あなたも、そして俺も加担したことだ)


あの女、バーバラに操られていたせいで。

どのような力を用いて二人を、カルネアス王国の国王カルロを含めた高位の王侯貴族達を操っていたのか、アルバには分からない。カルロも分かっていないだろう。

彼らは夢見心地のようになり、バーバラに愛を囁いて、快楽を貪り、バーバラの言うように国を動かした。他の、フレデリックや今殺害したロノヴァも、今は出会っていない宰相子息も高官の子息達も全て。

バーバラという一人の女に皆で群がり、共有した。王妃となっていたオーレリアを蔑ろにして、品位も常識もない我欲だけの女の言いなりになっていた。


(怪しいのは、対面時にいつも出されていた紅茶だが・・・)


バーバラの淹れた紅茶を飲むたびに、熱を上げていたと感じ取っている。卑しい女が望むようにキスをして、体を繋げて、愛を得ようと従った。

オーレリアに暴言と暴力を向けるようにと願ったのもバーバラだった。自分が虐げられたと被害者ぶって、二歳も年下で悪など知らない純粋な少女を、複数人の男達に虐め抜かせた。

最終的に、囚人達に暴力の限りを尽くされた後で火炙りにするという処刑までさせて。


(何が目的なのか分からないが・・・『あれ』はオーレリアの敵だ。俺達から大切なオーレリアを失わせた存在だ)


巡り巡ってバーバラに対する怒りが沸き上がり、膝の上に乗せていた手が、握り拳となって震える。

怒るアルバに、冷めた眼差しを向けていたカルロが鼻を鳴らして笑う。


「何を思い出したか分からんが、『あの女』も私の前に姿を現せば即刻捕らえている。簡単には殺さない」


「・・・殺し前提で話されても困ります」


「お前だって殺したいのだろう?顔に出ているぞ。バルザドールが南方の遺跡、イルルラルバの神殿遺跡だったか?今回は手にすることができなかったから、『あの女』の状況も変わったのだろう。超古代の遺跡は、歴史を重んじる我が国にとって人の関心を得ていた。高い拝観料を取っていたから懐が潤い、貴族との橋渡しにもなっていたのだ。金が巡ったことで娘の『あの女』が中央学園に入学できた。でなければ、商家の娘が貴族と国内の貢献者の子女が通う学園に入れるわけがない」


「そうでしたか・・・『あれ』のことは、オーレリアに関わらないのならどうでもいいです。ただ、オーレリアに危害を加えたら・・・」


(どんな理由があろうとも、殺す)


「オーレリア」


アルバが名前を出したことで、カルロは背中を丸めて、両手で顔を覆った。ただ、指の間から赤い瞳は覗いていて、ギョロギョロと不気味に動いている。


「オーレリアに会いたい。声を聞きたい、触れたい・・・私のオーレリアなのに、一度も、一瞬も触れることがなかった。あの女のせいで、あの女さえいなければ、私はオーレリアと一緒にいれた。恋人としても、夫婦としてもずっと側にいて、愛を囁いて、彼女の愛は私だけに向けられていた。私のオーレリア、私だけのオーレリア。オーレリア、会いたい・・・私を愛して、オーレリア・・・」


譫言のように呟き続けて、そしてカルロは笑う。


「は、ははっ、ははははっ!まずはフレデリックだ!奴は確実に殺してやる!!ロノヴァ以上に目障り極まりない!!私のオーレリアに纏わりついて、恋人面など許せるものか!!」


一頻り怒声を上げると、深く息を吐いて、彼は自身の膝に腕を乗せた。前屈みになりながらアルバを睨み付けてくる。


「オーレリアはどうしている?」


フレデリックにオーレリアを奪われてから、ずっと怒りを抱き続けたカルロ。精神も蝕まれているのか、感情の起伏がおかしくなっている。

否、彼は時を戻す前からおかしくなっていた。側近として見ていたアルバは分かっている。

愛するオーレリアに暴力を振るった記憶のせいで、オーレリアを火炙りにした記憶のせいで、一度永遠に失ったせいでカルロの精神は異常をきたしている。


(父上は、オーレリアをカルロ殿下には渡さないと言っていた。俺も、殿下には渡すべきではないと思っている・・・だが)


カルロは仕えるべき主。協力をするという宣誓もしてしまっている。後戻りはできない。カルロと共に、オーレリアを幸せにすると決めたのだから。


「オーレリアは古代期の王弟ブラスの居城を発掘調査するために、グリオス平原のコルツ町にいます。本格的な調査は先遣隊の報告を待ってからだと父、ルヴァン公爵から聞きづてました」


「王弟ブラス・・・ああ、あの兄の妻に手を出したという不心得者か」


「イレーヌ妃のことでしたら、兄の妻ではなくブラス自身の婚約者だったと聞いていますが」


「最終的には兄王の妻だったのだろう?寵愛する妃を奪おうとしたのだ。私の文言は間違いではない。忌々しい男だな、まるでフレデリックのようだ。結局、敗死したんだったか?当然の報いだ」


古代の王弟が着火点となり、再びカルロは怒りを燃え上がらせる。赤い瞳を炎のように爛々とさせながら。


「兄のものを奪うなど決して許してはいけない。万死に値する」


「左様で」


「どうにかしてフレデリックも殺さねばならん。アルバ、お前は私に協力すると言ったな?すぐにでもフレデリックを殺すぞ」


「ご勝手に」と言えたらどんなに楽だろうか。そのようなことは、口が裂けても言えなかった。

アルバは、カルロからは何度か暴力を受けている。顔はオーレリアと似ているため、時を戻す前のことも思い出すようで、殴られはしない。胴体部を痛むように掴まれたり、首が締まるように襟口を絞られたりなどはされる。

従わせようと暴力を振るうのはカルロの本質なのだろう。バーバラに操られたことで、オーレリアに行った暴力は筆舌に尽くしがたいものだった。


「・・・御意のままに」


「お前はよく私に従ってくれる。その生真面目さはルヴァン公爵家の血筋なのだろうな。オーレリアも公爵も真面目だ。良いことだな・・・まあ、粛々と罰を受ける姿に信用をして、謹慎を解いてしまう純粋さは公爵にとってはよろしくない・・・息子が殺人に加担したなど思ってもいないだろう。公爵に知られないといいな?」


(あなたのせいだとは言えないな)


カルロは壊れてしまっているのだから。

オーレリアのことで暴走状態の王太子は、アルバが永遠に忠誠を誓った主君。


「俺のことは父の目も耳にも入りません。今の父の意識はオーレリアに向かっていますから。彼女が幸せに過ごせるように全面的に協力をしています。父は、オーレリアを害そうとする者など絶対に許しませんよ」


そう伝えると、アルバは馬車の窓から外を見た。ゆっくりとした走行で流れていく景色。それでも、夜空に浮かぶ三日月だけは天上にある。美しくも大きな月に星の光は負けてしまい、彼の目も釘付けとなった。


「ルヴァン公爵も厄介者だったな」


カルロの呟いた言葉。語気から殺意はないと分かって、それだけは安心する。



よもや二日続けて男性達側の視点になり、オーレリアちゃんが出ないとは思いませんでした。その時の勢いで書くからこうなる。

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