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会いたくはなかった

驚きから目を見張るオーレリアだったが、感情を顕にするなどはしたないと顔を伏せた。

彼女は祖父に身を寄せ、現場監督との楽しそうな会話に耳を傾ける。


「そうか、地下二層の確認は取れたんだね」


「はい。一層まで埋めていた土砂は二層には流れておらず、現在内部を・・・閣下、そちらのお嬢様は?」


現場監督はオーレリアに気付いたようで目を瞬かせる。

彼女は身に付けた作法から淑女の礼を取ると、柔らかな笑みを浮かべた。


「ルヴァン公爵家のオーレリア・エドナ・ルヴァンです。本日はアルスターお祖父様のご指導の元、視察に随行させていただきました」


「オーレリアお嬢様でしたか!?これは失礼致しました。私はトーヴァ・ルスタリオと申します。アルスター閣下より遺跡発掘の命をいただいた者です」


「ルスタリオ様・・・ルスタリオ男爵家の方ですね。ルヴァン家の分家と存じております。先祖を同じくする親戚のおじ様にお会いできて光栄です」


元は同じ血筋の男爵家。死に戻る前も、祖父の直属の部下としていたのを覚えている。他者に惑わされずにオーレリアの無実を訴えたことも。


「・・・噂として耳にしていましたが、我らがルヴァンの姫君は本当に愛らしく可憐ですな」


「そうだろう?私の孫娘は非常に可愛い子なんだ。羨ましいかい?」


愉快そうに笑う祖父は、ルスタリオ男爵を肘で小突く。やや大袈裟に痛がった男爵だったが、オーレリアを見る目は穏やかで、どこかうっとりしていた。


「羨ましいですよ、私の孫など鼻を垂れながら木の棒を振り回して遊ぶ暴れん坊ですから。しかし、オーレリアお嬢様が本日いらっしゃったのは橈倖でした。この無垢な瞳にやましい者を映さずに済みましたから」


「何か吉報があるのかな?」


「土地の真の所有者だと横槍を入れてきた商人がいたでしょう?奴を排斥できたのです。王子殿下が王命として立ち退きを通達して下さいました」


オーレリアは心臓を掴まれた感覚を得た。

意識をしないと決めた相手を、親戚の男爵は紹介するように手で示したからだ。

祖父の視線が彼に、フレデリックに向かう。少し目を細めて窺う様子がオーレリアの視界に映った。


「フレデリック第二王子殿下が何故いらっしゃるのかと思ったが、王命を携えてきたのか。国王陛下もやっと歴史の重要性を理解したようだな」


祖父はオーレリアの背中に手を添えて、並び歩くことを促してくる。

躊躇いはあった。近付きたくなどなかった。しかし、か弱く子供の彼女には、力が弱くとも大人には勝てない。拝謁をしないなどという不敬は許されない。

祖父に連れられてフレデリックの正面に立つ。いつの間にかオーレリア達に体を向けていた彼は、美しい顔立ちを際立たせる微笑を浮かべていた。


(たとえ嫌でも、私は臣下なのだから礼節を欠いてはいけない)


祖父が臣下の礼を取れば、オーレリアは淑女の礼を取る。フレデリックに恐怖で歪んだ顔を見せないように。


今浮かべている笑みを向けられたのはバーバラと出会う前まで。

バーバラに恋をしたフレデリックは、常に敵意剥き出しの顔で睨み付け、敵意のある言葉を投げかけていた。


『オーレリアは僕の義姉上になるんだね。君と家族になれて嬉しいよ』


『バーバラを害する邪悪な女が家族になるなんて反吐が出る。自分を恥じて死を選ぶ謙虚さすらないのか』


同じ口から発せられた言葉とは思えなくて、悲しみの涙を流したのは過去のこと。


「お久しぶりですね、アルスター殿。そして、そちらの令嬢はオーレリアですね。急遽でしたが、国王陛下の命により参じました。ルヴァン家が成そうとする発掘は、我がカルネアス王国にとっても重要なもの。貴殿の事業の妨げを排することができてよかった・・・面を上げてください」


祖父が顔を上げたことでオーレリアも続いた。

フレデリックは真っすぐに彼女を見ている。瞬きをせず、笑みを浮かべたまま凝視していた。

視線を向けられていることでオーレリアは顔をそらしたかった。不敬に当たると必死で堪える。


「・・・王城で行われた新年祭で見かけたけど、本当に美しいね。ルヴァン公爵家の花は人目を惹きつける」


「オーレリアはルヴァン家が大事に育てた娘。父兄以外の男子は知らぬので、その様に見つめられたら恥じらってしまいます」


「・・・適切な対応ができずに申し訳ありません」


恐ろしいから見ないでほしい。私を認識しないでほしい。

喉元まで迫り上がってきた言葉を飲み込んで、オーレリアは再び頭を垂れる。


「いや、不躾に見つめた僕に非がある。顔を上げてオーレリア嬢。僕が見たいのは君の旋毛じゃなくて無垢で可憐な顔だ」


「フレデリック殿下」


祖父が諌めるために名前を呼べば、フレデリックは小さく声を漏らして笑った。

オーレリアには何が楽しいのか分からないが、恐ろしさを感じる第二王子の機嫌を損なうべきではない。顔を上げて、それでも正面から見ないように目線をそらした。


「・・・監督者のルスタリオ男爵から聞いている。神話期に近い遺跡だそうだね」


「上層部の石柱の頭が出土した頃より、材質と装飾から調査しました。このカルネアス王国建国以前の遺跡に間違いありません。我が曽祖父が発見した時の神クヴァネスの神殿と同時期のものです」


祖父は遺跡が覗き見える穴へと手を向けてフレデリックを誘う。遺跡に向かい始めた彼の背に祖父が続き、オーレリアも続いた。

穴の縁まで近づけば、木材を組んで作られた階段があり、石柱の立ち並ぶ石造りの屋根と、内部に続く石組みの入り口が見えた。中心に空いている四角形の口は暗闇で、落とし穴のように見える。


「一層を飲み込んでいた土砂は排除してあります。現在確認が取れたのは二層まで。そちらは調査中ですので入れません」


「現状の確認が取れるだけで構わないよ」


二人のやり取りを耳にしつつ、調査員が遺跡を調べる様子を眺めていたオーレリア。

突然、彼女に向かってフレデリックが振り返り、手を差し出してきた。


「・・・フレデリック王子殿下、いかがされましたか?」


「君も遺跡に降るつもりでしょう?足場がいいとは言えないから僕が支えるよ」


「殿下のお手を煩わせるわけにはいけません。オーレリアは私が連れていきます」


「アルスター殿、あなたは老齢ながら長身で逞しい。小柄なオーレリア嬢とは歩調が合わないし、階段も狭いから踏み外して滑落する可能性がある。僕はあまりオーレリア嬢と背丈が変わらないし、細身だから合わせられる。だから僕に任せてほしい」


「・・・」


オーレリアは息を呑む。感情に従えば触れ合いたくもない。身を任せたくもない。

ただ、事実からみればフレデリックの言葉は真っ当だった。


「案内してくれるんでしょう?アルスター殿、頼みましたよ」


「・・・オーレリア、フレデリック殿下に失礼のないように」


「はい、お祖父様」


祖父の顔が険しくなったのは一瞬だった。彼は広い背中を見せるとゆっくりと階段を降りていく。

オーレリアはおずおずと手を差し出した。すぐにその細く白い手は握り締められて、フレデリックの整った顔が近付けられる。


「落ちないようにゆっくりと行こうね」


優しい声が耳を擽り、彼女は総毛立った。叫びそうになったが、喉元で堪えて、手を引くフレデリックに身を任せる。


(早く降りて離れたい)


願いは叶わない。愛する孫娘を思う祖父がゆっくりと、オーレリアへと振り返りつつ進むため、フレデリックの温もりを感じ続けることになった。

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