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何も知らないから困惑する

『そうだね、先遣隊の調査はすべての行程を成すまでかなりの時間を要する。君の示した湖は王都とも距離があるから、半年はかかるはずだ。オーレリア、先ずは彼らに自身がどの地点に目星を付けたのか、調査の方針も示してみようか。闇雲に掘れなど言ったら流石の彼らも呆れてしまうからね』


祖父の指針の元、オーレリアは先遣隊となる十名の調査員達の前で、ブラスの居城発掘調査について説明をした。根拠である夢のことは伏せて、立地条件や当時の時勢を盛り込んで話せば、彼女よりも二十以上歳上の精鋭達は了承してくれた。


『君は私に付き従って様々な発掘現場に足を運んでいただろう?君の意欲を彼らも知っているんだよ。ルヴァン家の姫が遂に監督になったと喜んでいる者達も少くない』


祖父の言葉にオーレリアは喜びを得た。調査の見学に過ぎなかったが、どんな現場にも祖父に従って随行したことで、自分の思いは伝わっていたのだと。


『後は彼らの報告待ちになるから暫くは屋敷内で過ごそうか。何、半年経てば先遣隊が成果を報告してくれる。監督者として、どっしり構えて待とうね』


そして、遠回しに外出禁止を出されたことで内心落ち込んだ。顔には出さない。立ち聞きなどという淑女にあるまじき行いをしたのだから。

みだりに外出すれば、人目を引くらしいオーレリアはトラブルを起こす。ロノヴァも何故か婚約証書を送ってきた。祖父の評価から一筋縄ではいかない人物だと、彼女は知らされた。




フレデリックに、ブラスの居城発掘調査と外出禁止となったこと、会える日があれば教えてほしいという旨の手紙を書く。

美しい文字を心掛けて書き終えると、白い封書に入れて、オーレリアを示す刻印で蝋封をした。


「お手紙を出してくださる?」


「畏まりました」


メラニーに封書を手渡した彼女は、信頼できる侍女が退室すると不意に窓を眺めた。

可愛らしい装飾と色合いの家具で囲まれた自室。窓際に置いた白い丸テーブルの上に置いた筆記具は、転がり落ちないようにケースの中に収めて、ただ窓の外を見つめ続ける。


外出禁止になって三日になるが、すでに息苦しさを感じていた。自分の見た目が人を惹き付けるなど半信半疑で、それでもアルバの護衛騎士達の凶行やロノヴァのことで偽証ではないとは分かっている。


(私は美男子として名を馳せるお兄様と似ているもの、間違いではないのでしょうけれど・・・)


ならば、時が戻る前に醜いと言われ続けたのは何故なのか。

理解ができずに小首を傾げる。本当にオーレリアは醜いのか、それとも多数に及ぶ貴族子女達が嘘を言っていたのか。それならば、カルロやフレデリック、アルバもロノヴァも嘘を言っていたことになる。


(性根のことだとしたら・・・いえ、尚の事言われるはずがないわ)


性格が醜いと言われるほど他者と関わりがなかった。人と交流するための茶会も、オーレリアは挨拶をして回り、主催者の意向に従って行動していただけ。学園でも、王城での教育があるため授業には参加をしていたが、他生徒との交流はなかった。王族や高位貴族が選抜される生徒会も、支持をされなかったオーレリアが選ばれることはなかった。


(・・・バーバラ様と比べてならば分かるけれど・・・そうだわ!)


ハッとして顔を上げる。彼女の目線は窓の外で葉を揺らす常緑樹から、丸テーブルの上の便箋に向かった。

先ほどフレデリックに様々なことを報告した。オーレリアに婚約証書を送ってきたロノヴァのことも、簡潔だが書いている。


「どうしてロノヴァ様は私に婚約を願い出たの?バーバラ様がいるはずでしょう?」


ロノヴァは、カルロとバーバラと同学年で、侯爵子息ゆえに中央学園に入学しているはずだ。

騎士のように従っていたバーバラと出会っているのに、何故かオーレリアとの婚約を望んでいる。

あり得ない、と彼女は思う。ロノヴァも、カルロやフレデリック同様に熱烈な愛をバーバラに捧げていた。学園でも、カルロとの結婚後の王城でも逢瀬を重ねて、バーバラと乱れた姿を目撃されていたこともあった。


「・・・これも、変化なのかしら?」


考え浸ることで思い付く。

何らかの理由でロノヴァはバーバラと出会っていない。オーレリアの誘拐未遂の首謀者カルロも、バーバラと出会っていないから目に入ったオーレリアを求めている。


「イルルラルバの神殿遺跡とエイダン王子誕生のように、以前にはなかったことが起こってる?例えば、バーバラ様が中央学園にいらっしゃらないとか」


あり得る、と彼女は思った。

そうでなければ、バーバラを愛するはずの男性達に求められるはずがない。そうでなければあり得ない。


「バーバラ様はどんな方も心奪われる絶世の美女でしたもの。一目にすれば、どのような女性も目に入らないほど男性達を虜にされていた」


バーバラの家門である大商人バルザドール家は、オーレリアのいる南方の地方都市が拠点だった。

衣類や食品、貴金属から薬品まで手広い商売を展開している。良質とされた商品は貴族達の顧客も多く、美しいバーバラが広告塔として社交界で広めていた。


「ルヴァン公爵家とは取引がないから、バルザドール家のお話は聞かないけれど・・・もう少し市場を調べたほうがいいかしら?」


オーレリアが王妃となったころには、バルザドール家はカルネアス王国のどの部門の市場も制していた。バルザドール家あってのカルネアス王国とすら言われていたほど。

王城の家具も備品も、衣類もバルザドール家の商品を買い取ったものばかりだった。そうであるようにと、カルロの命を受けた宰相に指示されていた。


「国内の商会全てを飲み込むほどですもの。バーバラ様のご実家は素晴らしい商才と品質を保持できる名家よ。あのような自信と美貌に溢れた方になられたのは必然だったのね」


オーレリアに害されたなど嘘を言う人ではあるが、堂々とした言動と見目は間違いなく美しかった。

美貌を謳われていた公爵家生まれなのにくすんでいた自分と違う、など自虐的に思った彼女は急いで首を振った。

以前とは違う。オーレリアも夢を叶えるべく、努力と勉学を重ねて邁進してきた。

遂には、初の発掘調査の監督官として指揮をする。本格的な調査が始まれば、自らスコップと移植ごてを使って掘り当てることもできるはずだ。


しっかりしなければ、と思い直した彼女はずっと座っていた丸椅子から腰を上げた。運動がてら屋敷の中を歩き回ろうと部屋を出る。

自室のある二階から一階に降りて、中庭は寒さから出られないことを落胆し、無意識に図書室へと足が向かう。

途中、祖父の執務室のドアの横に護衛が控えていると気付いた。彼が立ち尽くしているということは、祖父は執務室の中にいる。

邪魔をすべきではないと、図書室ではなくサロンに向かおうと足を勧めたオーレリア。

彼女の耳にドアが勢いよく開く音が届く。


「またロノヴァ殿ですか。お断りの手紙はお送りしたはずでしょう?」


「諦めるつもりはないようだ・・・本当に困った。完全にオーレリアはロノヴァの標的になっている。断りの手紙程度では引き下がらないだろう」


進もうとした歩みは止まり、淑女らしからぬ引き攣った顔をしたオーレリアは、恐怖で心臓が締め上がった。


(・・・ど、どうして?)


胸を手で押さえ、痛みのおかげで動き出せた足で自室に戻る。ソファに座り、クッションを腕に抱えた。

何故、それほどまでに求められるのか分からないとクッションを抱き締めながら顔を伏せた。


(私は誰もが求めるバーバラ様ではないのに)


考えても、考えても何も知らないオーレリアには分からない。

バーバラが、カルロやフレデリック、アルバにロノヴァを始めとする王族含めた高位の子息達から愛されていた原因がイルルラルバの神器「愛の妙薬」のおかげなど、真相を知ることのないオーレリアには分からない。

はっきり言うと、絶世の美女はオーレリアちゃんだし、下手すれば傾国してしまう素質すらある。恐ろしいのはオーレリアちゃんだよ。真面目な子で良かった。

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