豹変
pixivみたいなアンケ機能はあるんでしょうか?
あったらオーレリアちゃん弱々し過ぎるもう少し逞しくなるべきでは?アンケを取ってました。
突き進む銀髪の護衛は振り返ることはない。オーレリアの後ろにいる茶色の髪の護衛も追従するだけ。
逞しい彼らの力に抗えず、彼女は駆けるように歩かされる。
「ま、待って!どこに」
フレデリックのお茶を飲んだことで熱を帯びていた体は、更に体温が上がっていく。軽い運動状態になっているため、心臓の鼓動は強く脈打つ。オーレリアの息が上がって、苦しさから言葉は上手く紡げない。
装飾品店は勿論、商業街から離されて、いつの間にか薄暗い路地裏の中。歩幅の広い護衛達に引かれたまま歩いていた。
フレデリックの護衛達はいなかった。見えなかった。彼らの目が離れた瞬間に連れ出されたから。
「い、いや!」
おかしいと気付くのが遅くなったのも仕方ない。強い力で連れ去る彼らは、アルバの護衛騎士達なのだから。ルヴァン公爵家配下の騎士なのだから。
仕える公爵家の令嬢で、アルバの妹であるオーレリアを害するなど思うはずがない。
「はな、離してください!」
彼女は足に力を入れて踏み止まろうとするも、背後の護衛に背中を押されて無理矢理進まされる。
「ご安心ください、オーレリアお嬢様。我々はあなたを害するつもりはありません」
「主人の命令で俺達は動いています。あなたを本来居るべき場所に連れて行けと言われただけです」
「い、居るべき場所って、きゃあっ!?」
住宅から伸びていた配管に足を取られて転びそうになる。慌てた様子の銀髪の護衛が、腕を伸ばして抱き留めた。
「はぁ、っ・・・は」
縋るように護衛の衣服の布地を握り締めた。厚い筋肉のある大きな体に抱かれたことで、無意識に恐怖を感じて離れようと反射的に腕で押す。だが、背後にいた茶色の髪の護衛が詰めてきたことで、身動きできなかった。
上から覗き込んでくる二人の男の顔。じっと眺めてくる目は淀んで見える。
「ぁ・・・」
逞しい肉体の異性に対する純粋な恐怖心が、彼女の体に緊張を走らせる。
「・・・俺が高位の貴族だったら求婚していた」
「滅多なことを言うな。この方は護衛対象だ、主命は守らなければならない」
「お前だって物欲しそうな目をしているだろう・・・王族だったら、金と権力に物を言わせて簡単に囲えるよな。羨ましいもんだ」
茶色の髪の護衛の発言に、オーレリアは血の気が引いた。彼の言葉から、誰が主導しているのか透けて見えた。
王族、つまりは王太子カルロ。彼ならばアルバを命じられる。アルバに命じて信用を得ている護衛を使い、彼女を連れ去ることができる。
このままオーレリアはカルロの元に連れて行かれる。
「いや、いやぁ!離して!」
蒼白な顔で叫び、身動いで護衛達の手から逃れようとする。だが、鍛えている彼らの力に敵うはずもなく、体を抱き締められて動きを封じられる。
「・・・」
「お嬢様の匂いを嗅ぐな、馬鹿。そんなことをやっている場合じゃないんだろう?」
「お前こそ気安く触るな」
「もういやぁ!!」
不快な温もり、過剰に触れてくる手の感触。耳を擽る吐息も悍ましい。
護衛達は美貌の令嬢に惑わされて、欲望が剥き出しになっている。彼らの脳裏に浮かぶのは、自らがオーレリアを手に入れた妄想。
「はな、し!カルロ様のところに、なんて!」
「・・・コートを脱がそう」
「何言ってんだよ、お前」
「お嬢様の姿は第二王子とその護衛達、商業街にいた市民にすら知られている。このままの姿では追跡されてしまうから、コートを脱がして欺こう」
「なるほどな」
銀髪の護衛が彼女の両手を掴んで拘束すると、背後の茶色の髪の護衛に濃紺のコートのボタンを外された。簡単に前面をはだけさせられると、襟首を引かれてコートはスルリと背中から落ちる。
「何を!?いや!!」
「暴れないでください」
「俺が腰を掴んでいるから手を離せ」
大きく骨張った男の手に、腰のくびれを掴まれる。その指は、白いワンピース越しから肌を撫でていた。その感触と、頬を撫でる吐息に彼女は喉を引き攣らせた
「あぁ、手触りのいい肌してるんだろうなぁ・・・」
「囁くな、お嬢様が震えていらっしゃる」
袖から手が引き抜かれたことで、コートは湿った地面に落ちた。
二人の男の眼前に、青白い肌で弱々しくも美しいオーレリアが晒される。涙を溜めて震える彼女は、浅く呼吸を繰り返すだけ。白いワンピースも相まって庇護欲掻き立てられる儚さがあった。
「このまま・・・いや、迎えの馬車が到着しているはずだ。急ごう」
「髪型も変えたほうがいい。紫色の瞳も目立つから、解いた髪で隠すか」
茶色の髪の護衛の手が、オーレリアのシニヨンに向かい、リボンを摘んで引いた。
オレンジ色のリボン。フレデリックの色をしたリボン。彼を想うために欲した大切なものが奪われる。
「駄目!」
「おわっ!?」
リボンを奪い返し、そのまま手を振って、迫っていた男の手を払い除ける。呆気に取られている茶色の髪の護衛に体を当てて押し込むと、空いた隙間から彼女は駆け出した。
大切なリボンを胸に寄せて、編み込みとシニヨンも解けかけた髪を靡かせて、暗い路地裏を一直線に走り続ける。
「お待ち下さい!」
「絶対に逃がすなよ!」
ルヴァン家の護衛が発するべきではない声を背後に受けながら、彼女は懸命に走る。走って、胸が苦しくとも、走って。走って、息が苦しくとも、走って。見えてきた光、太陽の光が注ぐ歩道へと走り続ける。
「待て!」
「い、たぁっ!?」
あと一歩というところ、茶色の髪の護衛の声が聞こえた瞬間、髪の毛を引っ張られた。頭皮に痛みが走り、引く力にガクンと足が崩れて、それでも逃げるために前に向かえば、オーレリアは倒れながらも日の下に戻ってきた。
膝から落ちたことで彼女の膝は擦りむく。ジンジンとした痛みを発している。それでも立ち上がって逃げようとしたオーレリアは顔を上げた。
「大丈夫ですか!?」
驚きで目を見開き、慌てた様子で手を差し伸べてきた人。憲兵らしく、クライン侯爵家の紋章がある鎧を着た女性に、彼女は手を伸ばす。
「た、助けてください!」
涙混じりの声に女性憲兵は手を掴み上げると、守るように身を引き寄せてくれた。
路地裏の奥、躊躇からか土を踏み締める音が聞こえる。オーレリアの目は、暗闇に潜んでいる二人に向かった。
「私の護衛達が豹変して、襲いかかって、きました・・・つ、つかまえ、捕まえてください」
恐怖が蘇り、震えで歯がカチカチと音を立てる。それでも、何とか意思を伝えれば、女性憲兵は辺りの憲兵達に声をかけて路地裏に向かわせる。
駆け出す足音、追いかける足音。遠ざかっていく音にオーレリアの体の力は抜けて、女性憲兵に身を預ける。
「ルヴァン公爵家令嬢、オーレリア様ですね?姿が見えないと第二王子殿下から捜索願が出ていました。悪漢の手にかからず、ご無事でよかった」
三十代半ばと思われる女性憲兵は、女性らしい体型ながらもしっかりとオーレリアを支え抱いてくれた。
同性の憲兵に安心感を得た彼女は、笑みを浮かべようと口元を緩める。
「お待ち下さい、ロノヴァ様!そちらのご令嬢は」
近付いてきた足音。体格のいい人だと分かる足音。
女性憲兵の顔を見ていたオーレリアは、聞こえた名前と近くに感じた気配に戦慄する。
「ルヴァン家のオーレリア嬢?」
恐る恐ると目を向ければ、背中を屈めて覗き込む青年が一人。
将軍子息、そして未来の将軍となり、彼女を悪女だと暴力を振るった人物。恐ろしいロノヴァ・クラインが目の前にいた。
ちょっとした脇役として出したのに、ここまで変態になるとは思わなかった。




