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彼の色をしたリボン

暫くして、フレデリックは落ち着きを取り戻した。ただ、なぜかオーレリアを抱き締めたまま放置していたアップルパイを食べ始める。

彼女は驚いてしまったが、彼が一口食べるたびに、腰に巻き付く腕が締めてくることで何も言えなかった。

離れたくないという意思を強く感じる。フレデリックは表面的には落ち着いているが、まだ様子はおかしい。望む通りにしてあげようと、オーレリアはなすがままになった。

数分ほど経ち、食べ終えた彼の手からフォークが皿の上に落ちる。接触で音が響き、陶器の皿が割れたのでは、と視線を向けようとした。

手が頬に触れる。微動だにも動かせはず、彼女の目に映るのは見上げてくる夕日色。


「オーレリア」


「・・・なあに?」


瞬きなく見つめられて、少しだけ恐怖心が芽生えた。愛する人に持つべき感情ではないと分かっているが、今のフレデリックは得体の知れなさがある。底の見えなくて恐ろしい。


「君に、髪飾りを贈りたい。僕の色をした髪飾り・・・絶対に外さないで。君が僕のものだとあいつに知らしめたい」


「前にも言ったわ。ずっとは付けられない。状況に応じて身に付けるものなのよ」


「あいつ」とは誰だろう。

オーレリアは一瞬考えるが、おそらくカルロだとすぐに分かった。カルロはフレデリックからオーレリアを奪おうとしている。オーレリアを巡って殺し合いになるとも言われた。

彼女はそれほど求められる理由が分からない。熱烈な愛を向けられているのが理解できない。


バーバラがいるから。時が戻ったこの世界には、カルロとフレデリックが最愛とする女性がいるはずなのに。


これ以上は混乱をきたすと首を横に振り、フレデリックの首に腕を回した。体が密着するほど強く抱きつく。

バーバラと知り合ったフレデリックが、自分の元から立ち去ることを思い出して悲しむ。そして、真に愛する人を得た彼に、虐げられるという絶望を与えられると気付いて。


「フレデリック様、やっぱり一つ欲しいわ。どこにでも身に着けられるもの。普段使いに、あなたのことを身近に感じられるものをいただける?」


覗き込んだ夕日色の瞳の目は、笑みを浮かべたことで細まった。




カフェを後にした二人は、護衛達に警護をされながら商業街を歩き進む。視線は変わらず受けるが、二人の連れ歩く屈強な護衛騎士が壁となることで、話しかけようとする者も妨害する者もいなかった。

フレデリックに手を引かれて進むオーレリアの目は、街中を縦断する川に向かう。煉瓦が組まれて作られた川辺に、ベンチが置かれていた。恋人や家族が寄り添って座り、川の流れや川の中を進む小舟を見ていた。


(もっと人目につかなければ、ゆったりと過ごせていたのに)


以前とは違って人々の関心を異様に受ける。最近の彼女は祖父の手伝いもあり、近場の公園で日光浴すらできなかった。これほど関心を向けられては、もはや散策すらできないだろう。

全ては、成長によって美しさに磨きがかかったことが原因。ただ、当の本人であるオーレリアは理由など分からない。今後は街中も自由に歩けないと落胆するだけ。


「着いたよ」


「え・・・ああ、ごめんなさい。川を眺めていたらぼんやりしていたわ」


「そう、あの川辺は恋人達の憩いの場として整備されているからね。もし人気が減ったのなら、ベンチに座ってのんびりしようか」


フレデリックは握っているオーレリアの手を引き寄せて、体ごと自身に近付けさせると、その肩に手を回した。手を取られたまま密着したことで、彼女の顔は熱を帯びる。


(人に見られているのに、恥ずかしいわ)


「金額の高いものは嫌なんだよね?この店なら大丈夫かな?」


彼の声に、オーレリアは赤い顔を上げて正面を見た。

目の前にあるのは装飾品店。外にも装飾品の棚が並び、ガラス張りのおかげで店内がよく見えた。色とりどりのリボンや、小さな宝石の煌めく髪飾りが展示されている。

貴族令嬢も、平民の婦人や学生が身分関係なく店内で品物を眺めていた。


「素敵な色のリボンが沢山あるのね」


ガラス張りのおかげで、展示されているリボンの棚はよく見える。鮮やかな色、淡い色、無色に寒色。ゆっくりと色味が変わるグラデーション状に飾られていて、彼女は華やかだと目を輝かせた。


「若い女性達に人気の店なんだって。君の金の髪を彩るに相応しいリボンがあるはずだよ」


再び手を引かれたオーレリアは、フレデリックに先導されながら店内へと足を踏み入れた。二人の護衛達は店の入口を塞がないように、外の道沿いに控えている。

女性店員の明るい挨拶を受け、二人はリボンの棚に足を進めた。


「僕の目の色か、髪の・・・駄目だ、髪色だとカルロと被る。カルロの色は駄目だ」


フレデリックが一人呟く様子から未だに正常とは言い難い。オーレリアの夢の話から、その内面は乱れているのだと分かる。

彼女は何も言えなかった。その心も乱れているから。あと二年、お互いに十六歳を迎えた年にバーバラと出会う。中央学園の二年上の先輩として、挨拶を交わしたときが別れの始まり。

フレデリックはバーバラの虜になって、今も握っているオーレリアの手から離れていく。


『オーレリア嬢、僕達は同級生だ。一緒に学び、一緒に過ごすことができる。入学式が終わったら校舎を見学しよう。何か面白いものが見つかるかもしれないよ?』


前日に王城で会ったフレデリックはそう話して、当日はすぐにバーバラの元に行ってしまった。オーレリアのことなど忘れて、目が合ったときは罵声を浴びせるだけ。


(いつか、あと二年経てば、フレデリック様もバーバラ様を愛する。私はこの方からの愛を失う)


今だけだった。愛するフレデリックから愛情を与えられるのは今だけ。

だから、オーレリアは思い出を欲した。離れていく彼を想い、心の支えになるものを手に入れたかった。


「オーレリア、これはどうかな?」


やや色味の深いオレンジ色のシルクのリボン。差し出されたそのリボンを受けるべく、彼女は後ろを向いて髪を留めている造花の髪飾りを外した。

フレデリックは手にしているリボンを、オーレリアの髪に当てる。


「色が濃いから君の金の髪に合わせても鮮やかに映るね・・・すまない」


彼が呼びかけたのは品出しをしていた女性店員だった。返事をして立ち上がると、フレデリックとオーレリアを目にしたことで、その目を見張る。

すぐににこやかな表情を浮かべたが、女性店員は二人が何者か分かったのだろう。


「如何されましたか?」


「このリボンを今すぐ彼女の髪に飾りたい。君なら留められる?」


「ええ、お任せくださいませ。こちらはご購入でよろしいですか?」


「ああ」


フレデリックが返事をすれば、女性店員は「失礼いたします」とオーレリアに声をかけた。彼から受け取ったリボンを使い、蝶結びで髪を留めた。


「お嬢様の金糸のような美しい御髪によくお似合いですわ」


「うん、綺麗だ・・・それじゃあ」


「お会計はあちらでお願いします」


女性店員の案内の元、フレデリックはカウンターに向かっていった。その後ろ姿を眺めていたオーレリアは、視界の端に鏡を捉えたことで歩み寄る。

カウンターから影となる銀製品の髪飾りの棚の横。立て掛けられた鏡を使い、自身の髪を飾るリボンを眺めた。


「目を引く美しい色だわ」


「オーレリアお嬢様」


突然、話しかけられたことで肩を跳ね上げた。丸くなった目で横を向けば、彼女の護衛、ルヴァン公爵家から派遣された二人の護衛騎士がいた。アルバの側でよく見かけた二人は、二十代後半の逞しい青年達。一人は明るい茶色の短髪、オーレリアを呼びかけたもう一人は肩まで伸びた色素の薄い銀髪。整った容姿で神妙な面持ちをする二人に、オーレリアは警戒心なく近付いた。

彼らはアルバが用意してくれた騎士。自分に危害を加える男性ではないと分かっているから。


「どうかされたの?」


「店内が混んでまいりました。外に向かいましょう」


「人が多いと身動ぐことすら難しくなります。悪意ある者がいるとは思いませんが、もし何者かが行動に移したら今の我々では守れません」


手を差し出される。

街中であるため軽装の騎士達。それでも体格の良さから店内の通路を塞いでいる。


(他の方の迷惑になってしまうわ)


銀髪の護衛騎士の手を取ったオーレリアは、力強く手を引かれて装飾品店から出された。彼の背の高さから歩幅も合わず、駆けるように、力に抗えずに街の中を進んでいく。

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