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醜い女とされた彼女へ

姿見の前に立つ。

オーレリアは、黒いレースが胸元や袖口を飾る白いワンピースをメラニーによって着せられた。胸の下を黒い帯で絞り、蝶結びで留められる。


「似合っているかしら?」


「勿論です、お嬢様。可憐なお嬢様に相応しい装いですよ」


ワンピースの裾を引いて形を整えたメラニーは、オーレリアの後ろに立ち、少し緩んだ黒いリボンを引き締める。

昨日と同じ、シニヨンと編み込みを組み合わせた髪型を作ってもらっていた。


「お帽子を被ってしまいますと多少形が崩れますよ?」


「それでも被らないわけにはいかないわ。外で顔を晒すのは、少し抵抗があるの」


「・・・お待ち下さい」


クローゼットに向かったメラニーは、中を検めて二つの帽子を手に取った。つばの広い白い帽子と、濃紺で同色のリボンと布製の花がついたクロッシュ。


「目元も隠れる帽子と、緩めのクロッシュ型の帽子がございます」


「・・・その濃紺の帽子がいいわ。同じ色のコートがあったでしょう?」


「こちらですね」


厚手のコートを羽織り、帽子を髪型が崩れないようにメラニーが調節して被らせてくれた。


「私のオーレリアお嬢様は、どのような装いも似合ってしまいます。とても可憐ですわ」


「欲目だわ、メラニー。私のことを可愛い妹と思ってるから、錯覚が起きているの」


「まあ!お嬢様はご自身の麗しさを理解されていません!最近は自らの見目を貶めるような発言も目立っていますわ。お嬢様は、旦那様と奥様から素晴らしいご容姿を引き継いでいらっしゃいます。他者が耳にすれば、ご両親に対する侮辱と捉えられますよ。慎まなければなりません」


「・・・そうね、気を付けるわ。ごめんなさい」


叱られたことでオーレリアは謝罪を口にした。しかし、それは口先だけ。内心は自身の容姿に自信はなく、醜いと思っている。

なぜなら時が戻る前のこと、現年齢と同じ十四歳のときから、彼女は容姿を蔑まれ始めたからだ。

公爵令嬢に対して、お茶会や社交場で目にした貴族子女は眉を顰めた。醜い、見窄らしい、貧相だと口々に言って、カルロの恋人バーバラとは比べ物にならないと声高に言われた。醜女を娶る王太子殿下が哀れだと、笑う人もいた。

すでに、中央学園で同年の貴族子女と交流を持ち、カルロとの愛を祝福されていたバーバラ。バーバラは華やかな美女と子から親へと伝わり、社交界でも話題になる。

バーバラこそ王妃の器、家柄だけの貧相な醜女は相応しくないと。カルロやフレデリック、アルバに加えて、バーバラに愛を乞う高位の男性達が広めて、比較していた。

オーレリアのことは嫌悪露わに醜いと詰って。


(両親から受け継いだものだけれど、それでも皆は『醜い』と言っていた。つまり真実なのよ)


どこが醜いのか、オーレリアにも分からない。容姿の似通う兄にも貶められたから自分が「醜い」ことに同意してしまう。


(でも、このような私でもフレデリック様は愛してくれている)


ただ、今のフレデリックは彼女を貶さない、笑わない。嫌わないでいてくた。

だから、自分が醜くてもいいと彼女は思っていた。そして、できる限り容姿を整えようと心掛けている。

本日は愛するフレデリックとのデート。見苦しく思われず、嫌われないように、化粧も衣服も細部に渡って気を使う。






階段からエントランスに降り立ったオーレリアは、迎えの馬車を待つために壁際のソファに腰を下ろす。


「お祖父様は今日も王城で宿泊されるの?」


「はい、国王陛下からのご相談の解決に難航されていると聞きました」


「そう・・・やっぱり、何事か起こっているのかしら」


傍に控える侍女メラニーと話し、オーレリアは不意に顔を動かした。

窓から外を眺めていることで、横顔を見せる彼女は本当に美しい。少女ながら絶世の美女の片鱗が垣間見えていた。屋敷の警備の騎士も、職務中の使用人達も足を止めて見惚れている。

気付かないのは本人ばかり。時が戻る前の十四歳から処刑された二十三歳まで、醜いと言われ続けたことで自分に対する認識が歪んでしまった。

オーレリア付きの護衛騎士アンセムの代わりに、ルヴァン公爵家からやって来た二人の騎士も、役目を忘れて目を奪われているというのに。


走行する車輪の音。近付いてくる馬車の音に、オーレリアの視線は動く。その動きすら人々の目を奪う。何をするにも美しい人は、ソファから腰を上げてドアへと足を進めた。

ハッとした騎士二人が、後に続く。彼らの革のブーツの足音にオーレリアは振り返った。

アメジストに例えられる瞳に見つめられた二人は、同時に、無意識に喉を上下に動かす。


「怪我の治療中である騎士アンセムの代わりと聞いています。今日はよろしくお願いします」


「・・・はい」


「オーレリア様の御身は必ずお守りします」


オーレリアが微笑みを浮かべれば、騎士達は熱い息を漏らした。握っていた手を開き、また握り締めてを繰り返し。

何かに抗っているような動作は、フレデリックの来訪を聞いて振り返った彼女には見えない。

フットマンに開かれたドアの向こう。現れた麗しい第二王子にオーレリアは歩み寄り、身も寄せる。抱き締め合う二人を、騎士達は見て思い出す。


自分達には役目があったのだと。






フレデリックの馬車に乗ったオーレリアは、彼と並んで座席に座り、身を寄せた。二人が乗る馬車は、目的の商業街に向かって走り出している。

彼女の肩に回された腕。引き寄せる力と温もりに思わず頬を染める。注ぐように向けられる夕日色の眼差しを、オーレリアは見上げた。


「フレデリック様、王家の別宅に移られたのは何故?何か、王城から出なければならないほどのことが起こったの?」


「うん?突然だね」


夕日色の瞳は笑みで細まる。

穏やかで優しい顔。いつも浮かべている顔。

何事も起こっていない。家族との別居を選ぶほどのことがあったとは思わせない。


「・・・そうだな」


彼女が上目遣いで見つめ続ければ、少し唸って、フレデリックは唇を開いた。


「君は死を厭うから言いたくはないけど、隠すというのも良くない・・・カルロと殺し合いになるから王城を出た。あの場所にいても、これからの僕には無意味になるしね」


「え?カ、カルロ王太子殿下と、殺し合い?ど、どうして?」


あまりの衝撃に喉が震える。恐ろしい言葉に戦慄して思考もできない。兄弟仲が良くないとはいえ、殺し合いに発展するとは思わなかった。

動揺するオーレリアに対して、フレデリックは笑みを浮かべたまま話す。


「よほど衝撃的だったみたいだね」


「だ、だって・・・」


「元々、僕とカルロは仲良くはなかった。交わした会話も片手で数えられるほど、公務を共にしたってお互い意識をしないようにしていた・・・あいつは知らないけど、僕は憎んでいたからね」


「憎んでいた?あなたのお兄様なのに?」


彼女の体に腕が回されて、しっかり抱き締められた。吐息と一緒に言葉が耳元へ吹きかけられる。


「だってカルロは君を奪おうとするから」


「奪う?」


「僕らが殺し合う原因は君だよ、オーレリア。カルロが君を欲しがっている。自分のものにしたいから、いずれ婚約者になる僕が邪魔なんだ。僕も、君を奪おうとするカルロが邪魔だ。立場を考えなくていいのなら、殺したいと思っている」


「そ、そんな、なぜ・・・」


カルロはバーバラに出会っているはずなのに。

あり得ないと、カルロが自分に執着心を残すなど信じられないと、オーレリアは身を強張らせる。フレデリックに告げられた事実が受け入れられない。


(何か、やっぱり、何かおかしい・・・バーバラ様がいるのに、出会っているのに、なぜ私のことを・・・分からない。理由が分からない)


困惑をする彼女の背中は優しい手付きで撫でられる。


「怖がらせてしまったかな?ごめんね。でも、大丈夫だよ。カルロが君を求めようとも僕がいる。絶対に君を守る・・・カルロなんかに渡さない」


撫でる手が温かい。耳を擽る言葉に安らぎを得る。

心地良さを感じてオーレリアは目を閉じた。お互いの胸が合わさるように、フレデリックの背中に手を回して抱き締める。


「気落ちさせるために会いに来たわけじゃないんだ。大切な君とのデートだから、怖い話は止めるよ」


「・・・ええ。お互いが調べたブラス王弟殿下とイレーヌ様のことを発表し合うのでしょう?」


分からないことを考えても現状では解決はしない。考えるべきではない。今はカルロのことを考えても、オーレリアにはどうにもできない。

そう思い至って、逃げだと分かっていても、心の平穏を保つために彼女は放棄を選んだ。


(今はそれでいいはずよ・・・)

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