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時が戻ったことで夢を見る

【悲報】前後編では終わらなかった。

人生の分岐となる国王・・・今は第一王子であるカルロとの婚約は今から二日後に執り行われる。

前日に行われる王家主催のお茶会。そういった名目の婚約者選びの場で、オーレリアは選ばれたからだ。カルロ自らが選んだとされていた。

カルネアス王家がルヴァン公爵家と結び付きたいだけなのに、まるで王子自らが恋をしたかのように求められたのは遠くなってしまった記憶に過ぎない。

既に兄アルバは幼馴染としてカルロの側仕えとなっている。次期公爵、次期国王としてカルネアス王国を支えていくはずだ。


(ルヴァン家が忠誠を示す証にはお兄様がいるのだから、私は必要ないはずよ)


夕食の席で並び座るアルバを盗み見ながら思った。時折、視線が合ってしまい、気まずくて逸らすことが暫しあったが。


(お茶会は欠席しましょう)


心に決めたオーレリアは、翌日体調不良を訴えて寝込んだ。

何故か兄のアルバが焦り、何故か両家の婚姻に積極的だった父がオーレリアを庇った。


「オーレリア、座っているだけでいいんだ。そんな難しいことじゃない。座っていればカルロ王子殿下が挨拶にいらっしゃる。それに応えればいいだけだから」


「アルバ、オーレリアは体調が優れないのだ。いつも邸内で大人しく過ごしていたのだから体が弱い。ゆっくり休ませるべきだ」


父に追従する大人しい母は、疑うことなくオーレリアの頭を撫でて、看病してくれた。


「ごめんなさい、お母様」


「仕方ないわ、早く良くなるようにしっかりと休むのですよ」


心地良い温もりを感じながら、オーレリアは目を瞑る。言い争いになった父と兄は、眠る彼女のために部屋から出ていった。それでも、ドアの向こうから怒鳴り声が響いていたが。


(ごめんなさい・・・)


嘘をついたこと。この国に仕える気持ちは失ったことにオーレリアは内心で謝った。




翌日、快癒したと彼女は邸内で過ごしていた。

いずれ、カルロと兄を含めた男性達の寵愛を受けるバーバラが頂点に座す中央学園に入学することになる。

学びは自身の知識、技術となるために受けるべきだと思っている。半端な者とは思われないように、確実に身に付けなければならない。


(でも、中央学園には行きたくないわ)


バーバラとは顔を合わせたくない。いずれ彼女を愛する男性達とも、兄とは無理だったが、関わりたくなかった。


(どうにかしないと)


「オーレリア、体調は良くなったのかな?」


ぼんやりと図書室に向かう廊下を歩いている最中だった。後ろに唯一信頼できるメラニーだけを引き連れたオーレリアは、突然の声に体を跳ね上げた。

メラニーは素早く動き、彼女の体を支える。

目を向ければ、兄のアルバが図書室の前で立ち塞がるようにいた。


「・・・お兄様、心配をおかけしました。歩くことができるくらいには回復しました」


「そうか、良かった」


アルバは、死に戻る前には見せたこともない優しい笑みを浮かべて、オーレリアに歩み寄る。

異様だと、彼女はメラニーにしがみついた。


「昨日の茶会ではカルロ王子殿下も君を心配されていた。殿下の御心を晴らすためにも、今から王城に行かないか?」


「え?」


公爵位ではあるものの、オーレリアは数多の貴族令嬢の一人に過ぎない。だから、今は顔も知らないカルロが心配に思う気持ちが分からない。

微笑みを浮かべる異様な兄と、王子に対する不信に怯えてしまった。


「アルバ様、オーレリア様は病み上がりですので外出は」


「お前には話していない。俺はオーレリアに聞いているんだ・・・オーレリア、カルロ殿下は君のことを待っている。いつかの新年祭で見かけたようで、もう一度君を目にしたいそうだ。拝する王子殿下に求められている。臣下として応えなければならない・・・分かるね?」


メラニーの進言を無感情な顔で切り捨てるように言ったアルバは、また微笑みを浮かべてオーレリアに歩み寄る。


「い、いやです。お城なんて一人ではいけません」


「俺も一緒だから大丈夫だよ。さあ、カルロ殿下が待っているから」


アルバが手を伸ばしてくる。

咄嗟に抱き着いていたメラニーが身を捻り、オーレリアを恐ろしい兄から隠してくれた。


「わたくしは公爵閣下より、オーレリアお嬢様の心身をお守りするように指示を受けています。たとえ兄君であろうとも、怖がるお嬢様をお渡しすることはできません。わたくしの行動は公爵閣下からご許可を頂いてのことです」


メラニーは見たこともない険しい顔でオーレリアを庇ってくれた。


「・・・」


憤怒。あの最期に見た形相をメラニーに向けたアルバだったが、舌打ちをすると早足で横を過ぎていった。


「怖がる必要はないんだよ。カルロ殿下は君と仲良くしたいだけなんだから」


表情からはあり得ない優しく取り繕った声を残して。


(・・・嫌。絶対に、カルロ様にもお兄様にも関わらない)


「・・・お嬢様、大丈夫ですか?」


穏やかな声にオーレリアは上を見上げる。以前と変わらぬ優しい笑みのメラニー。

体の緊張も解れたオーレリアは、彼女に手を引かれながら図書室へと足を踏み入れた。


オーレリアは好きなものがある。それは歴史だった。自分が生きる時代までに脈々と続けられた人々の営み。過去に何があって国が形成されたか。祭日や祭りの発端。神話から歴史となって紡がれていったものを眺めるのが好きだった。


それは死に戻る前に諦めた夢に繋がる。

オーレリアの生家であるルヴァン公爵家は神話や歴史を重んじる。代々、発掘事業に出資していて国内に点在する歴史的遺物の発見にも貢献していた。

カルロの婚約者になる前に、オーレリアは南の地方都市に居を構える祖父母の元で、発掘調査の見学をしたことがある。ゆっくりと姿を見せる地中の遺跡に、彼女は胸を躍らせた。終わった人生で唯一の感動を与えられたのはあの時だけ。


私も歴史家として発掘調査員になりたい。


以前は夢は打ち砕かれたが、時が戻った今ならば叶えられるのでは。

ルヴァン公爵家が発掘した王家の神殿の記録を眺めながら、オーレリアは決意をする。


(公爵家を出てお祖父様達の元に行きましょう。あちらにも学園はあるし、何より今は都市近郊に眠っていた神殿の発掘調査中のはずよ)


確実に叶うとは思えないが、希望に胸は高鳴っていた。


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