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なぜ取り合うのか

異常だった。

カルロはオーレリアに愛を囁いている。そのような関係も関わり合う時間もなかったのに。

今も、以前も、彼から愛を受けるはずがないのに。


「愛してるなんて、意味が、や、いやっ!」


更に顔が近付けられてお互いの頬が触れ合うと、カルロは感触を確かめるように擦り合わせた。ぞわりと総毛立つ。

彼は身を震わせる彼女をうっとりと見ていたが、その赤い瞳の目が肌をなぞる様に動き、胸の上で煌めくネックレスを捉えた。

フレデリックから贈られたフレデリックの瞳の色をした宝石。インディゴブルーのドレスでは夕日色を強調され、敢えて身に付けていたと分かるだろう。

カルロも気付いているようだった。フレデリックとオーレリアの交友も、両家が二人を結びつけようとしていることも見聞きしている。

このネックレスがフレデリックから贈られたと知っているはずだ。

現に忌々しいと睨み付けると、宝石が座すペンダントトップを握り締めて強い力で引く。オーレリアの延髄にチェーンが食い込む。鋭い痛みを感じて、彼女は悲鳴を上げた。


「いたっ、い、あぁっ!」


「こんなもので私からオーレリアを奪おうなどさせない!!破壊して捨ててやる!」


「いっ、たぁっ!いたい!やめてぇ!!」


「カルロ殿下!オーレリアが苦しんでる!やめてください!」


オーレリアの悲鳴のあと、アルバが叫べば、気付いたカルロの力が緩まる。

悔恨と眉を下げた彼の顔を、彼女は握り拳で押し退けた。片腕だけの拘束だったことから密着も解かれる。

オーレリアは飛び出すように身を乗り出すと、カルロの体の上から石畳へと落ちた。


「う、ぁっ」


「オーレリア!?」


大きな手が迫る。

手を伸ばしたカルロは掴み上げようとしたのだろうが、逃げ出したオーレリアは素早く這いずって距離を開けた。両親から贈られたドレスを傷めるとは分かっていても、恐ろしい男から逃げたいという気持ちに従った。

腕を支えに上体を起き上がらせ、腰を落としたまま見上げる。

手を伸ばす男には焦りの表情が浮かんでいて、落ちている彼女へと階段から身を乗り出して迫ってくる。


「これ以上、オーレリアを虐めないでください!」


座り込んでいるオーレリアを庇うように、カルロは前に出た。彼女の目には兄の後ろ姿しか見えない。


「虐めだと!?貴様がそれを言うか!!貴様だってあのときは」


「何の騒ぎですか?」


「子供の悲鳴だったぞ。新年祭で登城した貴族の子供が怪我を・・・あなたは?」


聞こえた声はカルロの方から。彼の後ろから聞こえた。

声の調子から勤務中の官僚達が、騒がしさから二の宮から出てきたようだった。


「カルロ殿下、如何様なことが・・・そちらのお子様達は」


「ルヴァン公爵家のアルバ様と、オーレリア様?」


「転ばれたのですか?ご令嬢の方は足に怪我を」


舌打ちはカルロのもの。

オーレリアからは見えないが、現れた官僚達を彼は睨み上げていた。


「・・・オーレリア嬢が階段を踏み外して落ちたんだ。私が医務官のもとに連れて行く。貴殿らには関係はない。職務に戻るように」


「・・・カルロ殿下、お立場を考えてください。婚約者のいないあなたがオーレリア嬢と共にいれば噂となります・・・オーレリア嬢にフレデリック殿下と医務官をお呼びするように」


前半はカルロに向けて、後半は部下に向けての言葉だろう。

官僚の発言に、カルロは大声を上げた。


「なぜフレデリックを呼ぶ必要がある!!」


「フレデリック殿下と交友関係のあるオーレリア嬢は、フレデリック殿下の婚約者候補だからです。現在、王家とルヴァン公爵家で調整をしていますが、双方合意となれば婚約を結びます。私は婚約証書の製作と管理を国王陛下から命じられているのです」


「貴様、王族典礼の」


「オーレリア!」


駆け付ける足音はオーレリアの後ろから。すぐに温もりに包まれた彼女は顔を上に向けた。

走ってきたらしいフレデリックが、肩を上下にしながらオーレリアを抱き締めている。その顔は苦しそうに顰めていた。それは走ったからか、彼女の状態を痛ましく思ったからか。

オーレリアには分からない。ただ、ポロリと彼女の紫色の瞳から雫が落ちた。目に溜まっていた涙が流れたのだろう。


「大丈夫?痛い?ああ、ドレスも擦れて膝から血が・・・カルロ。お前、オーレリアを殴ったのか?」


「私がオーレリアを殴るわけがないだろう!私の大切な人だぞ!!」


「いつからそうなった?オーレリアは僕との婚約が進んでいる。まさか、弟の婚約者を奪うつもり?」


「奪ったのは貴様だ!」


激昂する兄、静かな怒りを向けて対峙する弟。この二人はこれほど仲が悪かったかと、オーレリアはぼんやりと思う。

彼女は放心状態だった。恐ろしいカルロに抱かれて、愛を囁かれて、逃げ出すために高さはなくとも飛び落ちた。衝撃と恐怖で心が張り裂けそうで、アルバが庇ってくれたから安心をして、どうしていいのか分からなくなっている。


(なぜ・・・私をカルロ様とフレデリック様が取り合っているの?)


いずれ彼らの前に真に愛するバーバラが現れる。オーレリアを取り合うなど無意味なのに。


(分からない、何も・・・)


ただ、身を包み込むフレデリックに安心感を与えられていた。彼ならば、恐怖しか感じないカルロから離してくれると思ってしまう。


「フレデ、リック様・・・」


「どうしたの?他に痛いところでもある?」


「痛いのは膝だけ、でも、怖くて・・・ここにはいたくありません」


「そうだね、医務室に連れて行こう。医務官を待機させている。君は色々なことがあったから混乱しているし、休んだほうがいい」


「アルバ」とフレデリックは呼ぶと、庇ってくれていた兄はオーレリアへと振り返った。

浮かんでいるのは彼女を心配に思う憂い顔。


「オーレリアを連れて行く。父上とルヴァン公爵もこちらに向かっているから、詳しい説明を頼んだよ」


「分かりました。妹をよろしくお願いします」


「オーレリアを返せ!!」


「返すも何もお前のものじゃない」


怒声が轟く。

フレデリックに抱き起こされたオーレリア。彼に支えられて歩き去るその背中に、カルロの声を受け続けた。

カルロ→→→→→→→→オーレリア←←←←←←←←フレデリックの三角関係です。

オーレリアは死に戻る前に散々二人に傷付けられたので、どちらも好きではありません。ただ、暴力と殺意を一番向けてきたカルロには恐怖しか感じないので「何か」がない限り普通に話すこともできません。

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