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偽りの愛を抱かされて

何よりも愛しい温もりを抱き締めている。オーレリアは胸は高鳴り、体が熱くなっていた。

フレデリック、何よりも愛しい人。彼はオーレリアを愛してくれると言ってくれた。


(愛してる、私はフレデリック様をあいして・・・愛してる?)


なぜだろうと不意に思う。

フレデリックはいずれバーバラに恋をする。バーバラのためにオーレリアへと敵意を向けてくる。

だから、関わらないようにしていたのに、どうして「愛してしまったのか」。


「フレデリック、王子殿下」


抱き着いていた首から腕を外し、触れ合う体から離れようとした。

しかし、少年らしく細い腕をしているのにフレデリックの力は強い。身を離すことはできず、オーレリアの肩口に頭を乗せている彼を覗き見るしかできなかった。


「どうしたの?」


彼は目を瞑り、子猫のように頭を擦り付けている。

可愛いと彼女は思うが、気をそらされそうだと気持ちを引き締める。


「私、あなたを愛してしまって」


「そうだね、僕達は相思相愛だ」


「でも、愛する以前に関わらないようにしていたのに、簡単にあなたを想ってしまったことが分からないの」


「・・・どうして関わらないようにしたの?僕は君を怖がらせようとはしないし、無理強いもしないのに?」


暗にカルロのことを言っているのだろう。恐怖を思い出したオーレリアは、再びフレデリックに抱き着いた。


「いつか、あなたが本当に愛する方が現れたのなら、私は邪魔になるから」


「・・・・・・」


バーバラと出会い、恋に落ちるからとは言えなかった。

時の砂が発動して時が戻ったとは確定していない。管理している国王陛下が発動したと声明を出しておらず、不確定なことを明言はできないからだ。

何より、愛する人に真に愛する相手が現れるなど、悲しみが心を締め上げて震えてしまう。


「もし、あなたに最愛の方が現れたら、私は身を引くべきなの。私への愛は消えてしまうから」


経験したから分かる。

だから自分自身に言い聞かせる。深い悲しみが少しでも和らぐように。


「僕が愛するのは君だけだ」


「いえ、私よりも魅力的な方が現れたら」


「他の女なんて見ない。僕は君だけを愛する。ずっと、オーレリアだけを愛し続ける」


視線を落とせば、フレデリックの目が合う。真っすぐに向けられる夕日の瞳。鮮やかな美しさにオーレリアは視線をそらせない。


「僕は君の望むことだって叶えられるんだよ」


「望み?」


「歴史家になりたいという夢も、発掘を自ら行いたいってことも、何でも叶えてあげる。心変わりなんてせず、本当に愛しているから叶えられるんだ」


「本当に?」


「本当だよ。今は子供だが権力の使い方は分かっている。君のために何でもできる。何でもする。これが僕の愛の捧げ方だ」


オーレリアはフレデリックの首に回していた腕を下ろし、彼の腕を手でなぞる。

見下ろすように見つめていた彼女に、フレデリックは首を伸ばして額を合わせてきた。

視界の全てが夕日の色となる。


「オーレリアだけを愛すると誓おう。君を何者からも必ず守る・・・だから、僕の求婚を受け入れてほしい」


「絶世の美女が現れても?」


「君以上に美しいものなどない」


真正面から愛情を向けられたオーレリアは、温かさを心地良く思い、隙間なくフレデリックに身を寄せる。

触れ合いに、服越しでもお互いの体が熱くなっていると分かった。

なぜ、体温が上がっているのだろう。愛情から鼓動が高鳴っていたとしても、異様に熱く感じた。


(ああ、だからぼんやりとしてしまって)


「愛している、オーレリア。君も僕を愛しているだろう?」


「ええ、愛してるわ・・・」


容易く愛の言葉を紡いでしまう。




『オーレリア、婚約を結ぶためにお互いの保護者を説得しよう。僕は父上、君はアルスター殿。君の保護者は頑固だから、なかなか認めないだろうけど、可愛い君が強請れば折れるはずだ』


『ええ、わかったわ』


『夢を叶えることも忘れてはいけない。アルスター殿の指導のを受けてしっかりと努めれば、皆が後継者として認めてくれる。君に歴史家以外の道を用意しようとはしない』


『勿論よ』


『最後に、僕とは定期的に会ってもらうよ。一週間に一度。忙しくて会えなくとも最長一カ月までだ。美味しいお茶を君に飲ませたい。だから、必ず会おうね』


『お茶?楽しみだわ』


ぼんやりとした頭のまま、気付けば屋敷への帰路の途中だった。馬車に揺られていると分かったオーレリアは、視界をゆらゆらとさせながら、正面に座るメラニーを見ていた。


「お嬢様、大丈夫ですか?意識が混濁とされているような・・・フレデリック王子殿下に何か言われて傷付いていらっしゃるとか」


「何でもないわ。フレデリック様と素敵な時間を過ごせたの。だから、お祖父様にご報告しないといけないわ」


「お顔も赤いですし、発熱されているのでは?」


「ん・・・気持ちいい」


熱は帯びているようで、額にひんやりとしたメラニーの手が当てられて心地良かった。


「微熱程度には発熱されているような」


「熱なんてないわ。素敵な方との一時に夢見心地なの」


「・・・お嬢様、よもやフレデリック王子殿下に心を寄せていらっしゃいますか?」


「うふふ・・・フレデリック様。大好きなの。お祖父様に私の気持ちをお伝えしないと」


「・・・」


メラニーの手は降ろされる。

心配そうに顰める顔などオーレリアの目には映らない。

彼女は自分の心の変化など分からなくなっている。ただ、愛してるフレデリックに従うのみ。




馬車は屋敷に戻り、護衛の手を借りてステップを降りたオーレリアは、すぐに祖父の元に向かった。


「フレデリック様に恋をしました。将来を共にしたいと考えています」


彼女の発言に祖父は驚き、何事かと心配をした。

オーレリアはカフェで想いを確かめ合ったと伝え、求婚を受け入れたいと淀みなく言った。

フレデリックは彼女が祖父の跡を継ぎ、歴史家になることも支援してくれると言っていた。協力をしてくれるという。

そう告げれば、祖父は唸り声を上げて革張りの椅子に深く身を沈めた。


彼の視点からすれば、オーレリアの様子がおかしいと分かっている。彼女はフレデリックに対して一線を引いていたはずだった。恐怖心はないものの、嫌悪感を抱いていると端から見ても分かった。

それなのに、今のオーレリアは恋する乙女そのものだった。うっとりとした眼差しでフレデリックの名を呼び、物憂げに息を漏らしている。


異常な変わりように、祖父は外出に同行したメラニーと護衛に聞き込みをした。二人の証言では、カフェで過ごした三十分ほどで、オーレリアはフレデリックに恋をしたという。

今までの言動からあり得ないと思うも、フレデリックとの愛を訴えるオーレリアは真摯だった。純粋にフレデリックに対する想いを伝えられる。

今までは好感を抱ける部分が見えていなかっただけ。ついに目の当たりにしたことで、フレデリックに恋愛感情を抱いたのかもしれない。

そう結論付けた祖父は交友を許した。婚約に関しては、カルロのことを考えて保留にされる。


「君達は子供だし、不純な交友はしないと信じている。まずは友人として交流するんだよ。数年、そうだね・・・婚姻可能となる十六歳までに気持ちが変わらなかったのなら、婚約を国王陛下に進言しよう」


「ありがとうございます、お祖父様」


オーレリアは満面の笑みで感謝をする。彼女に甘い祖父は笑顔を目にしたことで、自分の決定は間違いではなかったと思った。

確実に異常な状態であるはずなのに。



オーレリアはフレデリックに言われた通り、祖父の指導や勉学の合間に交流を重ねた。

それは世にいうデートというもので、公園で日光浴をしながらのんびり過ごし、カフェで食事をしたり、博物館や公開されている遺跡を巡った。

食事のときに彼が淹れてくれる紅茶はとても美味しくて、仄かな甘みをいつも感じていた。

果実が入っている。ジャムが入っている。異国から取り寄せた砂糖が入っている。

そう言われながら飲み干していた。


「愛しているよ、オーレリア。君も僕を愛しているよね?」


「ええ、愛しているわ」


いつも交わす言葉。子供だから不純な行いなどせず、熱くなった体で抱き締め合って、頬や額にキスを送るだけ。


「子供の体がもどかしいな」


屋敷のガゼボで夢現つのとき。フレデリックが不服と言っていたが、オーレリアは陽光と髪を撫でられる心地良さで夢へと落ちていくだけ。

もう一度言いますが、フレデリックがオーレリアの恋愛(?)相手です。

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