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5話

 この世界の魔法少女は、給料を貰って活動するサラリーマンのうちの1つだ。

 変身するにはある程度体質が影響しており、若ければ若いほど良いという傾向もあるため、学業と並行している者も多数いる。


 その点に関しては他と同様で、俺もそのうちの一人だ。

 形態としては公務員に近く、故にまかり間違っても魔法少女がほぼ裸で街中を歩いていた、なんて事は起きてはいけない。


 そこに来ると、朱華の助けがあったとはいえ全裸で放り出されるという危機的状況から無事に帰ってこれた自分を褒めて欲しいくらいだ。


『なるほど……アリスブルーの反応が一瞬だけ現れてから消えたのはそういう理由でしたか。フェニックスに見に行かせて正解でしたね。』

「はい。そのため通報のあった箇所に駆けつけるのがほんの数分だけ遅れましたが、人命救助と判断した上での行動でした。」

『そこは良いでしょう。こちらとしても貴重な人員を減らしてしまうのは本意では無いため、これに関してなにかのお咎めがある事はありません。』


 いつも通り朱華の家から、魔法少女を管理・育成・派遣する会社である「株式会社オリオン」の人間と通話で報告をした。


 相手は俺の事を知る数少ない人物の一人。

 人材としての魔法少女に関してはその全てを把握している人物、紫煙妃だ。


「それと……変身解除された方の戦闘は申請が出ていません。やむを得ない状況もあるとは思いますが、極力事前に一言だけでも報告をお願いします。」

「……了解です。」

「ではそうですね……1度医療班に診てもらって下さい。結果は医療班に共有していただくので、報告は不要です。他になにかありますか?」

「いえ。特には。」

「では、お願いします。以上。」


 終始事務的な通信を切られた。

 正直、もっと突っ込みが入る事を想定していたので若干の拍子抜けがあった。道具も無しに変身するというのは、実はファンタジー小説でいう所の無詠唱みたいなランクの話で、出来ましたかそうでしたかで済む話ではない。

 自分でも仕組みの方は理解していないため、細かいことを追及されないのはいい。実際都合がいいのだが……


「あいつ顔色とかないんか?」

「ま、まあ、動揺されて話が進まなくなっても困ったけど、あそこまで動じないとは……」


 鉄面皮とは彼女の事を言うのだろう。

 頼もしくはあるのだが、実際かなり怖かった。


「医療班か……普通に考えれば当然だよな……」

「あら、あなたは気に入られてるんだから良いじゃない。」

「まあ……普段は頼もしいんだろうけど……今の俺の状態は普通に知られたくない……」


 移動しながら、初めてオリオンの医療施設を利用した時の事を思い出した。


 ……


「朱華って自分の怪我は魔力で治せるんでしょ?」

「うん。私は他人の怪我も治せるけど、千月さんも自分の怪我なら訓練すれば治せるよ。」

「魔力……って奴を使うんだよね? って事は魔法少女に治療施設って必要ない気がするんだけど……」


 全く不要という事では無いだろうが、無いなら無いでなんとか出来そうなぐらいの需要に、プレイヤーキャラが強すぎるゲームの宿屋のような雰囲気を感じる。


「それはね……」


 後ろから会話に混ざってくる気配があった。


「例えばまだ自己回復が完全じゃない君みたいな子とか、魔力がカラカラになって動けなくなった子とかが運ばれてくるね。あとはまあ、健康診断とか、身体測定とかもうちで働いてるなら無料で出来るよ。」

「へぇ……」

「もう、福利厚生には目を通して置かないと痛い目を見るよ!」


 振り向いて認識すると……その人物がおそらく医者であろう事は何となく分かったが……ちょっと断言出来る自信がない。


 なんせ医者らしい要素が白衣と聴診器しかない。……あとよく見ると名札にも役職が書いてあるか。

 ただしそのほかの要素といえば、白衣の下にはチャイナドレスを着ており、それはもう深めのスリットが入っていて目のやり場に困る。

 かなり奇抜なコスプレイヤーだった。


「……この人が?」

「そう。オリオンの医療班長、裏葉垂(うらはしずり)さんよ。」


「この子が新人さん? 男の子の魔法少女なんて初めて!」


 そりゃそんなもんポンポン出てきてたまるか。

 よく見る程に普及しているなら、まずは"男の魔法少女"という概念から見直せと、当事者の立場から説教してやりたくなる。


「千月浅葱です。」

「はーい聞いてるよ。じゃあまずは変身して貰えるかな。アリスブルーの方の身体のデータから集めちゃおう。」

「方の……って事は両方の検査を?」

「そうだね。ただ、ここは魔法少女用のエリアだから、生身の検査は一般人用のエリアに移ってもらうことになるけどね。」

「なるほど。」


 多分この辺りは俺が変身前後で身体が違う事が理由だろう。

 面倒だが、仕方ない。これくらいの苦労は既に覚悟済だ。


「じゃあ……コード:変身(トランス)。」


 裏葉から数歩離れて変身する。


 変身行為自体、狭すぎる場所ではあまり推奨されていない。それは衣服や装備を纏う為のスペースの確保という意味合いがあり、多分巻き込まれるとちょっと痛い。


 なので変身する際は両腕の届く範囲には人がいない方が望ましいとされている。ちょっと動く体幹ゲームみたいな感覚だ。


「おお……可愛い!」


 ……いや、この人デカくないか?


 俺は魔法少女化すると、性別はまあ悩んでる種だから今更だが、体格が変わる……というより、恐らくだが肉体年齢が変化している。

 ここに関しては若い魔法少女には良くあることらしい。


 体格に関してはそりゃ戦うんだからタッパはでかい方が良いと思うが、個人的には手足の長さが変わると微妙に動きづらい。

 だが、その肉体の変化を加味しても、裏葉はデカかった。

 多分身長は190とか超えてるかもしれない……変身してもまだ見上げる程に大きい。


「えぁっ!? ちょ、危なっ……」

「童顔で目でかくてまつ毛長くて髪長くて可愛い〜! 衣装も良いね! 黒セーラーって奴かな? 改造制服っぽくて最高! 現代版アリスちゃんって感じだ〜!」


 抱きつかれて抱っこの形で持ち上げられる。


 変身すると身体能力が向上するため、変に動くとこの人が危ないのだが……

 手つきを見るにそこを分かっててやっている気がする。


「あ、危ないって……! 刀とか持ってるんですよ!」

「刀? ああ、これは長巻だよ。刀と違って柄が長いでしょ? この装備が呼ばれるって事は、剣道とかやってた?」

「ま、まあ一応……」


「ふむふむ……」


 1歩引いてから頭の先からつま先までもう一度入念に視線でなぞられ、再び近づきもう一度正面から抱きしめられ……


「わたし生きててよかった……」

「怖い……」


 まあ、魔法少女が好きでこの仕事やってるんだろうな……という好意的な解釈はしておこう。

 それにしたって押しが強すぎてこう、ちょっと嫌だが。


「まあ頑張りなさい。私もちょっと用事があるから、先に帰っても全然大丈夫よ。」

「あ……はい。」


 別に朱華とは特段親しい訳では無いが、共通の知り合いかつ、この空間で唯一の知人が去ってしまうとなかなか心細いものがあった。


「よーし。身長からスリーサイズまでだいたい分かったけど……もし違ったらアレだからちゃんと調べよっか! 脱いでもらっていい?」

「えっ今ので?」

「うん。165、56、76、52、72……だと思うよ。」

「そ、それが分かるなら別に脱ぐ必要は……」


 それはそれですごい事だとは思うが、だったら今からもう一度きちんとした採寸をする必要は無いのではと思う。

 申し訳ないが、個人的にこの姿であまり人と接したくない。


「うっかり腰周りのサイズを間違えたら、次変身するとスカートがずり落ちちゃうけど……大丈夫かな?」

「……お願いします。」


 ……この姿で人と接するのは嫌ではあるが……嫌ではあるが!

 それ以上に嫌な現象の可能性を示されると参らざるを得なかった。


 服を1枚1枚、もたつきながらも丁寧に脱いだ。1人で脱げない部分は裏葉に任せたが、意外と真っ当に対応してくれた。

 童貞を殺す服って確か最初はこういう意味だった気がするな……


「この変身はね、オリオンの倉庫から装備を呼び出して装着してるから、微妙にサイズが合わない事があるんだよ。魔法の制御と、防御機能にも関わるから……ピッタリの物を用意しないとダメなんだ。違和感とかなかった?」

「違和感しか無かった。 女物とか着たことないし……」

「それもそっか。」


 初見で女の衣服の違和感に気づけと言うのは流石に無理だ。

 上はヒラヒラ、下はスースーして落ち着かない、これなーんだ? という状態がずっと続く。

 魔法少女の仕事を考えると普通の服どころか、例えば剣道の甲冑や警察が着るような防護服よりも頑丈なのかもしれないが、それでも男の俺が着るとなると不安が大きかった。


「下着はこれ付けてね。検査に影響が出ない特別仕様。」

「ど、どうやってつければ……?」


 下はともかく……何故説明も無しに分かると思ったのか。

 触るのもおこがましい気がするソレをつまみながら助けを求めた。


「あー……そっか。」

「あの?」

「じゃあ、私が1度付ける所見せるから、アリスちゃんはそれ見て覚えてね。」

「え? は?」


 良すぎる手際で、するすると目の前で脱ぎ始めた。


「ちょ、ちょっと!? 俺が男だって事忘れてません!?」

「大丈夫だよ。私女の子が好きだから。」

「そ、それはそれで素晴らしい事だとは思いますが……!」


 狼狽える俺を置いて、さっき取り出したものとは別の下着を取り出した。

 まずい……話がどんどん進められていく……


「ほら、持って。」

「あ……ハイ……」

「こうやって腕を通すの。上下を間違えないようにね。」

「……はい。」

「両腕を通したら後は後ろのホックを閉じるだけ。閉じてみて。」

「お、俺が……!?」

「いちいち驚かないでよ〜! 自分の背中のホックを閉じる前に私で練習していいから! さ、早く!」

「し、失礼します……」


 と言ってもこれ……届かなくないか?

 ベルトのように、穴がいくつかあってどれかを使う感じだと思ったのだが……1番端の長さが1番取れる場所の金具にすら届かない。


 さっきまで付けていたんだよな?

 ひ、引っ張って良いのか……?


 ……ええい、ままよ!


「んぁっ……」

「へ、変な声出さないで……! こ、これでよし。」

「お……? 良いね、上手。付けたことあった?」

「あってたまるか!」


 調子が狂う……会話の主導権をずっと握られている感じがして、しかもその中にずっとセクハラに準じた何かが含まれているので、かなり落ち着かない……


「じゃあ今度はアリスちゃんの番ね。頑張れ頑張れ〜!」


 アリス呼びもなんだか変な気分になるから辞めて欲しいところだった……これはまあ魔法少女としての識別名だから仕方ない気はするが……

 わざわざ大変な思いをしたお陰か、特に苦労することは無く下着姿になれた。


「……着ましたよ。」

「ふむ……」

「あ、あんまりジロジロ見られるとその……恥ずかしいんですけどっ!」


 ノーモーションで、胸を鷲掴みにされた。


「ひっ……触っ……!」

「うん。問題ないね。さすが私、ピッタリの下着を用意できる特技は健在だ。じゃ、検査へレッツゴー!」


 ……その辺りの記憶が強烈すぎて、その後の検査のことはあんまり覚えていない。でもとりあえず一般的な健康診断のような事をした……気がする。

 ちなみに身長体重スリーサイズは1cm、1kg以上のズレは無かった。


 ……要警戒リストのNo1に、裏葉垂の名前が記入された。

裏葉垂うらは しずり:オリオンの医療班の班長。小さくて可愛い物が好き。

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