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31話

 どんな理由であれ、不調は不調。

 あくまでとても浅い知識の上でしかないが、実際相当具合が悪いのだから、頼れるものはなんでも頼るべきだと思う。

 それは敵でもそうだし、味方でもそう。


「それであたしの所に来るのってさぁ〜……なんか都合のいい女として見られてる気がするんだけど?」

「申し訳ないとは思っています。」

「ううん? 滅茶苦茶興奮する。」


 ……こんな味方でも。


「撤回します。本当に気持ちが悪いです。」


 こんなこと朱華(はねず)藍墨(あすみ)には相談できない……ことは無いだろうが、ものすごく気まずい。

 朱華の方は若干喧嘩気味というのもあるし、妹を頼るのもかなり恥ずかしい。


 そんな調子で頼れる人間がどんどん消去法で消されて行き、最後に残ったのがこの女。


 よくよく考えなくとも真っ当に医者だし、身体の調子を見てもらうという点では人間性だとか関係性だとかに相当目を瞑れるほどに優秀な存在と言えた。


「ま、緋鳥ちゃんに持たせたのはダブっちゃう事になるけど、ここに来たのは正解だよ。なんてったって魔法少女を治す場所だからね。」

「……なんか、嬉しそうじゃないですか?」

「だって、あんなに可愛い魔法少女がボロボロになって運ばれる先がここなんだよ……? 考えるだけでゾクゾクしちゃう。」


 共感こそしないが、いい趣味はしていると思う。


「とりあえず、"女の子"の時は魔法はなるべく使わない方がいいね。魔法って結構脳とか心臓とか、色んな内蔵に負担かかるから、直せないならそうするしかないよ。」

「ぐっ……うぅ……」


 確かに、あまりにも魔法少女としての稼働が続くと頭が痛くなったり動悸がする時期はあった。


 最近はちょっと魔力を使い続ける程度であれば具合が悪くなったりはしなかったのだが……


「というか殆ど使えないでしょ? 結構メンタルが大事だから。」

「維持は出来ていたんですが……」

「そりゃそう。魔法の維持なんて魔法側が勝手に魔力を持っていってるんだから。発動出来なきゃ。」


 発動と維持は別……というのは分かるのだが、精々が魔力の消費量の違いなんだから、魔法側もそんな事でゴタゴタ言わないで欲しいものだ。


「くれぐれもそんな状態で何か出来るなんて思っちゃダメだよ。男に戻る話と違って4,5日で何とかなるんだから、安静にしてね。」

「そんなに……!?」

「長引くと1週間かな。まあこればかりは体質だから、アリスちゃんがどういう体質なのかは初めてだとそりゃあ分からないよね。」

「今日中に治ってくれないかな。」

「この期間ぐらいゆっくり休めばいいのに……」


 呆れたような顔をするが、この人にだけはされたくなかった。


「例えばさぁ……私とチューしたら男に戻れるって言われたらどうする?」

「……しませんよ。」

「今、一瞬考えたでしょ? それがダメっていうか、危ういなあって思うんだと思うよ。私だけじゃなくて、皆がね。」


 考えたのは事実だ。

 なんだかんだ腕前や知識に関しては絶対が着くほどに優秀なこの人の事だから、もう手段にアテがついている可能性はある。

 その交換条件にキスを要求してくることも、これまた性癖に関して絶対が着くほどに異常なこの人の事だから、これも全然ありえる。


 正直、半分ぐらい彼女普段の行いのような気がするが……それでも半分しか占めていないのであれば、まあ、俺の行動が危ういというのも事実なんだろう。


「そう……ですか。」

「なんか納得いってない感じあるなぁ〜!」

「しましたよ。身体を労れって事ですよね。」

「なんかちょっと違うけどそれで良いや。」


 休んでいてもすることは無い。

 することが無いと落ち着かない。

 落ち着かないと休んだ気がしない。


 このループから抜け出して真に休むには、とにかく目の前のタスクを遮二無二片付けていく事が近道で……


「ああいや、思い出しました。今日は人探しを手伝ってくれって言われてて……」

「人探し? あまり歩き回ったりするのは良くないと思うけど……」


 そう、目の前のタスクを思い出した。

 別に昨日の今日で忘れる頭ではないが、一旦別の行動を処理したため、再度優先度の1番上に持ってくる事に成功した。というニュアンス。


「はい。ちょっと色々あって助けてくれた人を手伝う事になったんですよ。この写真の人を探してくれって。」


 昨日渡された写真を差し出す。

 裸で持ち歩くのもなんだかなと思ったので茶封筒に入れておいたが、裏葉は丁寧に開いて取り出した。


 こういう時、多分朱華はビリッと行く。

 が、裏葉は意外にも、本当に意外にも色々と丁寧に物を扱う性格だった。

 俺にはちょっと乱暴なのに。

 封筒以下か。俺は。


「写真……って、これアリスちゃんじゃない!?」


 と、物に対して若干の嫉妬を抱いていると予想通りの反応が帰ってきた。


「そうなんですよねぇ……困った事に……」

「え、えぇ……? どういう経緯……?」


 なるべく怒られるようなことは省いた上で、かつ嘘もつかない範囲で正確に事の顛末を伝えた。


「……それで、最近の割には比較的同意の下でお手伝いする事になりました。」

「なりましたって……その時点で名乗り出ていれば話が数ターン短縮できたと思うんだけど……」

「なんか、気分じゃなくて。」

「なら仕方ないか。」


 気分は流石に嘘だが、万全ではない中で探してる相手が自分だと名乗り出るのは普通に危険な気がした。

 極端な話、俺の事を始末するのが最終目的な可能性もあるのだ。

 探すという行為がゴールである事はあまりないだろう。


「うーん。話を聞いてる限りだとちょっと行ってこいとは言えないかな。いくら助けてくれた相手とはいえ、諸々の打算込みのはずだから。」

「ですよね。魔法が不調の今は特に……かと言って、俺を探していると言うのはちょっと見過ごせないので、なるはやでこいつらの情報を貰いたいです。何とかなりませんか? こう、薬とかで。」

「人体をナメすぎだよ、それは。」


 なので、ひとまず"コレ"が回復してから伺おうとしたのだが、思ったよりも期間がかかるなら作戦を立て直さなければならないかもしれない。

 もっとも、思い付きのような行動の積み重ねは作戦とは言えないので、今から改めて作戦を立てると言った方が良さそうだが。


 多分、知り合いの内の何人かは呼べば来てくれるかもしれないが……事情が事情だけにあまり誰にも知られたくない。

 ここに来たのもそれが理由だ。


 俺の事情を知っている那由他やゆかりに知られるのも正直かなり嫌だし、恐らく俺の事情を殆ど知らない京夏(きょうか)に今更生理が来たと言えば流石にかなり怪しまれるだろう。


 朱華はいまなんかこう、気まずい。


 関係性を考えると藍墨がもしかしたら1番話しやすいのかも知れないが、せめて藍墨が姉だったらなあと言ったところ。

 本当にこういう場合誰に相談するべきなのかは分からないのだが、あまり下の家族に話す事は中々ない……と思う。


 そして相談したとて、誰も彼も人が良いから表立っては何も言わないだろうが、その気遣いすらも本当に気になる。

 そんな人の親切すらも鬱陶しく感じる今の自分が一番嫌だ。


「……しょうがないな。今日1日ぐらいは手伝ってあげるよ。」

「え、裏葉さんが……?」

「こう見えてまだまだ現役のお姉さんだからね。ほら、アリスちゃんを助けた時だって私は前に出てた訳だし。」

「それはまあ……そうかも知れませんが。」


 あれやこれやと断る理由を考える暇もなく、まるで今朝起きた時からそのつもりだったかのような速度で外出の準備を整えてきた。

 そして困ったことに、断る理由も無かった。

 というか今回に関しては同行して欲しいくらいだ。


 消去法だったとはいえ、明確に上の世代の人間ならいっそ踏ん切りもついて頼れるというもの。


「ふふ、アリスちゃんと一緒にお出かけだ〜!」

「なんでそんなにはしゃぐんですか。」

「うふふ、デートともいうね。」

「言いません。」


 本当に、ゆかりといい裏葉といい原因が分からない位に好感度が高い人間はちょっと苦手だ。

 何か裏があるような気がしてならない。

 明らかに友達の距離を逸脱している矢印が向いている……というと自意識過剰だった場合恥ずかしいが、

 セクハラがされるという事はそう言う事……だろうか?


 俺はそんな小学生男子のような事は経験がないから分からない。


 ……なんで小学生男子の経験があるのに、小学生男子の経験がない女からそんなちょっかいを受けているのかは分からないが。


「今日くらいは仕事を放っておいても大丈夫だから、あたしがボディーガードしてあげる。」

「魔法少女の護衛ね…」


 言葉にしてみると、かなり変な字面だ。


 魔法少女というのはそれそのものが一種の暴力装置のようなものであり、少なくとも守られる側に入る事はそうそうない。


 言うなれば護衛の護衛をすると言ってるようなものだった。


「歩けそう?」

「あ、うん。ズキズキはするけど、動けないほどでは無いから。」

「うーん……アリスちゃんにどれくらいの効き目があるかは分からない……保証は出来ないんだけど……」


 かなり親しみのある、錠剤タイプの薬を出してきた。


「体を最も効率的に休ませたい時って、魔力を一切流さない方がいいんだよね。そんな時のための薬があって……」

「えっと、その……それってええと……生理……用品とは別で?」

「えっ? ああっ、うん。ただこれは本来魔法少女でも、自己治癒でもどうしようもない時の重症を医療手術で対処した時に使うものだから、最適か? と聞かれるとそうでも無い気がするんだよね。」


 話す時はだいたいセクハラが付きまとっているのだが、スイッチが入った時は一切おふざけが無いので、少し驚く事がある。


「自己治癒でどうしようもないんだから、丁度いいんじゃないですか?」

「……それもそっか。」


 かと思えば、実際の医療上の判断の具合については分からないが、俺の一言であっさり覆したりもするので、やっぱり完全に信頼しきるのは少し不安があった。


 俺の身を案じてくれているのはとてもわかるのだが……


「あ! 待って、もう1回生理用品って言って?」

「……。」

「お願い! 今度は網膜に焼き付けるから! 1回だけ!」


 こういうところが無ければ、基本的にはいい人ではある。

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