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30話


「痛むのはお腹ですの?」

「あ、うん……こんなの初めてってくらい痛くて……変なの食べたかな……」


半生の肉を食べた時よりもヤバい。キリキリと痛むような感じではなく、圧し潰されそうな感じ。

……正直だいぶ嫌な予感はするが。


「……正直に、言ってもいいんですの?」

「な、何が?」

「この鉄臭い匂いと腹痛……どう考えても生――」

「ち、違う! 絶対に……! そんなもの……! ありえない!」


笑えない冗談だった。

何が笑えないって、多分冗談じゃないところが。


「そうやってイライラしてるのも証拠のひとつですの。」

「だから怒ってなっ……! っぐぅ……痛い……ズキズキする……」

「あまり動くと痛みますの。薬はありませんの?」

「無いよ……初め……っ手ぶらだから……何か持ってるように見える?」

「その……私、目が殆ど見えませんの。」

「それは……なんかごめん。」


お互いにとって……多分向こうは同性の話だと思っているから絶対に察せられることはないだろうが、会話があまりにも地雷原すぎる。

悪気は勿論無いが、そうなると体調不全とはいえ盲目の相手に負けた事にもなる。

……とはいえ、未だに相手の魔法の正体が掴めていないのだから万全を期したとしても怪しいが。


「構いませんの。まあ、その状態だと何も出来ないのは分かりますの。薬でも魔法でも、痛みを抑えるまで待ちますの。」


そういうわけで待ってもらったが、ちょっとずつ冷静になってくると、なんだかこの意味のわからない状況が気まずくなってきた。


「……あ、あの? それで私にやらせたい事って?」

「ああ、そうでしたの。すみません。この話をすると空気が悪くなってしまう事をいつも忘れてしまいますの。」


不幸自慢をしてしまったと言わんばかりに申し訳なさを見せて来たが、仮にも敵対している関係でそんな態度を見せるのはどうかと思った。

それだったらあんな激痛に襲われる直接的な原因ではないにしろ、きっかけを作った事を謝って欲しいくらいだ。


「あなたに手伝ってほしいのは、早い話が人探しですの。」

「人探し……得意かと言われると全然苦手だな。」

「別にあなたが直接見つける必要はありませんの。こんなのですから誰かの協力を得るのも一苦労ですので、あなたが誰かに依頼しても構いませんの。」

「なるほどね。それで誰を探せばいいんだ?」


だが言われて見ると確かにという気持ち。目が悪いなら俺よりも苦手だろう。

直接探すにしても、誰かの手を借りるにしても、どちらにしても俺の方が動きやすいだろうという合理的な理解が生まれた。

まあ、俺を制圧できるくらいならあんまり気にしないでもいいんじゃないかとは思うが……見えないの程度が分からないので何とも言い難い。

そんな事を指摘するのは流石にデリカシーがなさ過ぎる。

俺の体調と同じくらい触れて欲しくないし、事情を知った以上触れられない場所だ。


それでも決して親切などではなく、負けたツケというか、借りをとっとと返すために動いてあげる事にした。


「この……写真に写っている人を探して欲しいんですの。」

「写真?」

「はい。訳あって……もう一度会わねばなりませんの。」


写真の人物と彼女の関係に無限の可能性があるが、その要素だけ見れば割とありきたりな話だろう。

しかし、だ。


「ちょ、ちょっと待って?」

「なんですの。まだ痛むんですの?」

「い、いやそっちは……大丈夫では無いけど違う。写真は見えるの?」


当然の疑問。

しかしなんだかんだといって目は合う以上ある程度こちらの顔は認識出来ているのだろう。

けれど画像認識が出来るというのはまあまあな視力の担保になるのでは? と思った。


「はいですの。詳しい説明は省きますが……このカメラで撮った物と、魔力は視えます。視力はほぼないに等しいので……視覚情報はそれだけです。」

「カメラ……? まさかさっきの攻撃って。」

「気づきませんでしたの?」

「……お恥ずかしながら。」


変身の気配は無く、身体強化のそれも伺えない。

なんなら今から思い切りドつけば倒せるとは思うが、それは論外というものだ。


総合的な判断として、俺はそのカメラを魔法道具と認識した。

このタイミングで見せて、なおかつ、彼女の説明に不思議な点も見当たらなかったからだ。


「被写体に様々な効果を付加するアイテムですの。」

「……それって攻撃出来る?」

「出来ますの。でも、あなたに使ったのは動けない代わりに外部からのダメージを遮断する効果ですの。」


……それでも俺の感知に引っかからなかった理由はわからないが、拘束された仕組みはとりあえず理解した。本来であれば防御のような場合に使うのだろう。

加えて……腹痛のような内部の痛みで悶絶したのも理解出来る。できるが……


「……なんで手の内なんか明かしたの?」

「いいえ? 女は嘘しかつきませんのよ。」


流石の俺も全てが本物と信じている訳ではないが、しかし、考えるそぶりとかも無くすらすらと説明された。

勿論ブラフもあるかもしれないが、その割合によっては相当な役者だ。

今の俺の立場というか、彼女との微妙な関係を考慮して、全面的に信用……とまではいかないが、

少なくとも彼女の言動に対する疑問は表に出さない事にした。


「まあいいか……それと一つだけ確認したいんだけど、私なんかが手伝って大丈夫なの?」

「どういう言う意味の質問ですの?」


「一応ほら、ここみたいな場所何個も潰して回った訳だからさ、もしかするとあなたにとっては敵……なんじゃないかなって思って。」

「あなた……本当に何も考えず動いていたんですのね。」


若干呆れられた。まあ、半分暴走気味だったから事情がある相手にここらで止められたのはラッキーだったのかもしれない。


「私達はあなた達のような存在は一括りにしているけど、実際はそうでは無いんですの。結果的に、私達……ええと、最初の『私達』とはミクロな単位の私達には、利益が生まれたりするんですの。」

「なんか難しそうだね。」

「ちょっとは考えた方が良いんですの。」


一枚岩ではない、という奴なのだろう。

冷静に考えてみると、恐らく彼女と、この辺の情報を教えてくれた胡蝶の関係もそうだ。


「ま、そのお助けキャラクターが生理痛程度で倒れる程度なら私としても御しやすくて助かるんですの。仲良くするのに抵抗はありませんの。」

「……次言ったら怒るよ。」

「あら、気にしてるんですの? 私も体調のせいかズレる事がたま〜にありますの。」

「そ、そう……まあ、よろしく。」


なんでコレを受け入れているか? というのは直面している別の問題があまりにも大きすぎる事にある。


魔法での治療というのは、的確に傷の場所を認識する必要がある。

これ自体は別に難しい事ではない。というのも、生物の生存本能というものは凄まじい物で、瀕死の重傷でも「なんか助かったわ。」という事例が多々ある。

というか、最初の俺がそうだ。他にも俺と近しい状況の人間は多数助かっている為、これはやはり魔力を手にした人間の基本機能なのだろう。


だが……これは仮説なんだが……


多分、俺が今怪我? 出血? している部分は要はその生存本能の対象外なのではなかろうか? というのが俺の考えだ。

生存本能というのは文字通り生まれ持つ物。


それに対して、俺はその……コレが身体にあると認識したのは遡っても精々1年程。

24時間共にするようになったのはつい先週の事だ。


一度死の淵に追いやられてからというものの大体の怪我はあんまり何とも思わなくなっていたのだが、

それは「死にかけても魔法でなんとかなる。」という成功体験が由来している。


が、ここに来てそれが通用しなくなった。


再び死を予感させるような、防げず回避も出来ない痛みに襲われる運命を唐突に告げられてしまい、あまり些細な事は気にしていなかったのかもしれない。


「そう言えばなんて呼べばいい?」

「……正気ですの? お友達じゃないんですのよ。」

「……それもそうか。」

「もっとも、私は知っていますの。よろしくお願いしますね、アリスさん。」

「……」


何で知っているかとか呼び方とか、あんまり気にしない程度には切羽詰まっていた。

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