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27話

客と主の間に発生した静寂を、ひとつの電子音が切り裂いた。


「……どうぞ。」

「どうも。もしもし? ああいえ、今隣の部屋に魔法少女が居るのでちょっと……はい。失礼します。」

「……隣の部屋?」

「方便ですよ。私の魔法少女とは別のお仕事の呼び声がかかったのですが……面倒くさいので切っちゃった。」

「そんな事をしてると信用を落としますよ。」


気まずい空気が再度乱入した。

共通の友人を無くした友人の友人同士という空間は何故こうも苦しいのか。

加えて今回はその共通の友人……千月浅葱を巡って揉めている節もあるので尚更呼吸がしづらい。


「……それで、先輩さんを追いかけなくても良いのでしょうか?」

「必要であれば連れていかれました。残念ですが……今回は私の力は必要ないようです。」

「そうでしょう。足手まといになるだけでしょうね。」

「はい。その上で、私をここに連れて来てくれた事に意味があると思っています。なので、私は今、胡蝶さんにはどうしても首を縦に振ってもらう必要が――」

「いいですよ?」

「――ありま……え? 今なんと?」

「魔法なら教えても構いませんよと言いました。お兄さんが元に戻るためにも、私の目的を果たすためにも、あなたはいい駒になりそうですので。」


交渉は胡蝶ゆかりによる一方的な興味によって結ばれた。


……


『千月。学業の方はどうだ? 件の事故から1週間だが……』

『俺、多分そんな事している場合じゃないので。』

『事の発端となった変身者はこちらで調査中だから、千月が走り回る必要は無い。それどころか対応できないタイミングが生まれるとお前の本懐も達せない可能性が高まるが?』

『それでも、俺が何もしない理由にはならないです。』



「……と、言う風な具合だ。命令違反ではあるが、命令違反と言っても休めという命令を無視している訳だから、処分するほどでは無い……が。」

「……ちょっと心配ですね。」

「ああ。身体の変化によるストレスが指摘されていてな……過度なストレスを抱えている状態で魔力を扱うのはあまり良くない。精神状態が直に影響を及ぼす為だ。」

「心当たりは……正直ありますね。私にも。」

「加えて、まだ休職も解いていない。今の所パトロールの範囲から逸脱はしていないが……」

「分かりました。私からも言ってみます。」

「話が早くて助かる。貴重な人材をこんな事で失いたくは無いからな。」


恐らく友人間であれば説得が可能と踏んだのだろう。

魔法少女は年頃の女の子が多いこともあり、管理職である彼女が頭を抱えている事も少なくない。

その為、オリオンに限らず、魔法少女を管理する組織の内部だけでは手が足りない場合は外部と連携を取ったりする事もあった。


その最たる例が胡蝶のようなフリーの魔法少女だ。


「医療班から預かってる物もある。そろそろ必要……だそうだ。」

「これは……ああ。」

「それと、最近妙な動きを見せてる組織もある。魔物の制御か何かをしようとして、手がつけられなくなったらこっちを頼る馬鹿どもが居るらしくてな。」

「……まあ、仮にそうなっても守るべき人間ですからね。」

「お前が私情をあまり持ち込まない子で助かるよ。」


……



魔法少女会社を含む、魔法を扱う組織にも種類がある。

事細かに見ていくと、作業の1項目で魔力を使っているから該当……なんて物もあるのでとても数えきれないが、この世界もたった一つの基準で半分に分ける事ができた。


ズバリ、正規と非正規。


界隈全体の話として、安全性の面で認可されている技術しか運用しない事になっている。

それを破っていれば非正規。という結構分かりやすい判定だ。

そこに来ると俺の存在はどうなんだ……? となるがそれはさておこう。本当に考えても分からないので。


そのうえで考えると、オリオンが調査をしているのはこの基準でいう正規の企業のみだ。というのも、認可されていないのだから存在として計上されない。


つまり、オリオンが何もしていないという訳では無いが、非認可……いわゆる闇よりの組織の構成員に関しては一切調査が出来ないのが実情だった。


「ここもハズレか……」


そんな存在の情報だが、胡蝶が彼女の知る範囲で教えてくれた。それもいまさっきの話ではなく、結構前から。少なくとも数ヶ月単位の話だ。


そんな情報を魔法少女の俺に伝えるのはどうなんだ? と思いつつも、まあ彼女から見ても敵対しているのであれば彼女が匿う理由も無いか……と判断した。


……正直なところ、自分が今何をしているのかは分からない。


どういう魔法を使う存在を探せばいいのかが本当に分からないからだ。

こちらを認識して過剰に反応する奴、あるいは目の前でそれっぽい力を見せた奴がそうだろうという適当な考えで動いているので、なんとも成果に乏しい。


それでもじっとしているよりマシなので辞めはしないが。


「本当にこのリスト分の人間しかいない? 人手不足も良いところだな……」

「うるせえ……そう思うなら今減らした分てめえがなんとかしろ。」

「誰に向かって口聞いてるんだ?」


……理由は分からないがとてもイライラする。

変身するとまた面倒な事を言われるので、魔力による身体能力アシストのみで制圧していたが故にちょっと手間取ったからだろうか。


「人探ししてるんだ。このリスト貰ってくよ。都合が悪いなら写しといてほしい。」

「なんで俺が……!」

「ダメか?」

「このクソガキが……どの面下げて――!」

「……ダメか?」


否定的だったので、きちんと相手の目を見て再度お願いしてみた。


「……持ってけ。」


誠心誠意お願いすれば心は通じる物だ。


「……お前、何が目的なんだよ。チクるでもなく全員倒すでもなく、そんな情報手に入れて何するつもりなんだ?」

「人探しって言ったよな。探してはいるが……ちょっと、どういう魔法を使うのか検討が付いていない。だから片っ端から探してる。」

「1人で? 馬鹿だろ……」

「……やってみた感じ、この調子なら無理では無さそうだったな。」

「ふざけたガキだ。お前が捕まったって話を聞いたら飛んで行ってやるよ。」

「……誠意が足りなかったかな。」

「や、やめろ……! 助け――!」


……


「で、自分らなんで助けなんて呼んだんや?」

「アレは……多分、魔法……少女だ……! 俺たちを襲って……!」


「はー、しょうもな。なんでウチらが自分ら襲うねん。またしょうもない魔物の実験とかしたからちゃうんか?」



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