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25話

 

「……まだ変身解けてないんですね。」

「あ……え……? 俺……なんで。」

「一応、私も魔法少女だから仕事仲間の保護って名目でお兄さんを連れて来てますので、変な勘ぐりは辞めてくださいね。」

「……ああ、そうなのか。」

「それと、私はお兄さんの変身の瞬間を見てないです。なので、お兄さんも私のもう1つの変身を見てない……これは絶対に呑んで貰います」

「負けたんだから従うよ……煮るなり焼くなり撮影してばら撒くなりしなよ。」

「しませんよそんな事! 悪魔ですか……!?」


 とりあえず細かい口裏を合わせる事にした。


 メリュジーヌと名乗ったあの狂気の悪魔とアリスブルーが交戦、敗北したところにピアニーが駆けつけて、アリスブルーを保護した。


 ……ちょっと無理があるかも知れないが、まあそこまでおかしくは無いだろう。

 少なくともピアニー……いや、メリュジーヌの考えは何一つ読めなかった訳だ。

 俺の魔法少女としての思考、そして彼女も魔法少女としての思考を足し合わせて、不都合な部分は分からないで通せばいい。


 ……敵の目の前で変身する事になったとか報告したら間違いなく厄介になる。

 お互いやましい事がある身。見なかったことにしてくれるならそれが1番だ。


「そ、それじゃ……俺はこの辺りで……はぁ……あ――」

「お、お兄さん!?」


 身体が鉛みたいに重く、上手く立てない。

 魔力のガス欠により身体強化は解除されているので物を壊したりなどは無い……が、そうなると変身だけは何故か維持できているのが不思議だった。

 加えて、話している間も思っていたがなんだか思考も上手くまとまっていない気がする。


「いつのまにこんな熱を――あー……雨か……」

「ご、ごめ……なんか、フラフラして……」

「はぁ……良いですよ。貸しはちゃんと返してくださいね。」


 風邪は魔法では治せない。

 基本的に魔法で治るのは外傷のみで、仕組みとして回復力を高めているだけだからだ。

 もしかすると治りが早くなるかもしれないが……熱で脳の処理が落ちている時にマトモに魔法が操れる事が出来る魔法少女が果たして何人居るか……


 という事で、魔法少女は風邪や病気が天敵だったりする。


「今って何時……?」

「朝の8時ですね。オリオンには共闘者として報告してあるので、そこは安心してください。」

「そうか……ありがとう。あと家族にだけ連絡させてくれ……後は何も言わないから。」

「別に監禁してる訳じゃないのですから、自由にしていいんですよ。」


 ……果たしてオリオンが本当に俺を外の人間の元に置いておくだろうか? とかは気になったが、どうにも思考力が落ちているので疑問は脳内でバラバラになった。


 それでも胡蝶への義理として、最低限の動きで妹にメッセージでただ一言、「怪我と風邪でちょっと遅くなる。」とだけ伝えた。


「変身も解いた方がいい……?」

「そのベッド私が使ってる物なんですよ。男の身体で使わないでください。」

「あ……そう。」


 だったら床にでも転がしてくれたらいいのにとは思ったが、逆の立場で考えて病人をその辺に置くのも変な話か。


「とりあえず、汗拭きますから脱いでください。」

「あ、えっ? ぬ、脱ぐって……俺?」

「……お兄さん以外に誰か居ますか? 汗で汚されても困るし、早く良くなって帰って欲しいんですよ。」

「無理……! じゃ、じゃあ今から帰る……」


 流石にそこまでされる訳には行かない。

 無理やり起き上がった。


「……コード:変――」

「ま、待って! 脱ぎます! 脱がせてください!」


 ……再びベッドにしぶしぶ座った。


 何故か変身が解けてないとはいえ、見た目の変化以外の魔法は全て解除されているとみていいだろう。

 確かこれは変身道具の安全装置のうちの1つだ。見た目が変化するタイプの魔法少女が余計なトラブルを生まないように、例え本人の魔力が枯渇しても見た目の維持だけは道具が内蔵魔力で代替してくれる。


 これは条件がシンプルながらに難しく、魔力を1度ゼロにする必要がある。

 おそらく俺の場合は戦闘での消耗と、無意識下で負傷を治していたが発症状態で回復していたため治ることはなく回復し続け……と言った所か。


 まとめると、一見魔法少女の姿をしているがただの人間レベルの力しかない。

 加えて、この姿だと元の姿程の筋力もないので、露骨に弱体化してると言える。


 そんな状態で、昨日やり合って普通に負けた相手に変身されるのは勘弁して欲しかった。


 結果として力づくで看病されるという、結構不思議な状態になった。


「細……これじゃもうちょっと魔力を上手く使わないとそりゃあ負けますよ。」

「……自分より小さい女の子に言われると流石に凹むな。」

「今はお兄さんも女の子でしょうが。どういう仕組みなんですか?」

「俺が知りたいよ……あぁ……武器壊したの怒られるな……どうしよう。」

「思ったんですが、流石にもっといいモノ持った方がいいですよ。」

「物にこだわるのは三流って言われてる。」

「魔法道具同士の殴り合いでそんな寝ぼけた事言ってたらそのうち死にますよ。出力こそ正義ですから。」

「力……力ねえ。」


 出力と言うあたり魔法だけの力ではなく、おそらく身体の膂力も合わせての力の事だろう。

 素の力同士でであれば当然勝てていた気もするが(そんな事当然だとは思うが……)実際に変身して魔力のアシストを含めると力関係は綺麗に入れ替わっていた訳なのだから。

 この辺りは俺が変身体にまだ慣れきっていないからというのもあるが、それを加味しても胡蝶の力はとてもじゃないが敵わない物だった。


「魔法が使える男性も多少は居るとは聞きましたが、魔力の絶対値が女性より少ないみたいです。特に、変身が出来る程の男性は聞いたことが無いです。やはり魔力量が少ないから弱いんでしょうか……」

「弱い弱いって何度も言うなよぉ……」

「……いつも見る姿なのに弱気なのはちょっと不思議な感じですね。

「……誰にも聞けないんだよ。魔法少女の立ち回りなんて。1人、俺の事情を知ってる人は居るけど……多分滅茶苦茶警戒されてる。」

「そんな事で日和って強くなれないんじゃ元も子も無いと思いますが。」


 朱華が俺の事をどう思っているのかは分からないが、面倒は見て貰っている。

 しかし、同じ「魔法少女」という枠組みの人間はそれ以外に接する事が殆ど出来ない身分だった。


 正直、人間関係が制限されている職場というのは中々に息苦しいものだった。


「……というか、お兄さんを負かしたの私ですよ? 居るじゃないですか適任がここに。秘密は守りますよ……勿論、対価を頂きますが。」

「頭が痛くなってきた……いてて……」

「都合のいい体調不良ですね……」


 そこに来ると胡蝶という存在は一概には言えないが、俺にとってはなかなか嬉しい存在だった。


 決して良い事ではないが、諸事情あり俺の変身前後の姿を知られている。


 女の姿をして女のコミュニティに属せる程の胆力は俺には無いのだ。

 なので仮に、俺がオリオンの中で今と違って他の魔法少女と顔を合わせる事があっても正直馴染める気はしない。


 が、元の姿を知られているなら、ある程度は接しやすい。

 ……多分向こうが気を遣ってくれているんだろうが、それでも、こちら側に隠し事が無いというのは心理的なアドバンテージがある……というより、ディスアドバンテージが無い状態になる。

 決して、コミュニケーション強者ではないので、何であれ接しやすくなる理由が生まれるのであれば大歓迎という状態だった。


 端的に言うと、多分友人に飢えている。


「信用してくださいよ。どうしてもと言うならお兄さん……というよりアリスブルーを探してた理由もお教えしますから。思惑が分かったで上なら安心出来るでしょう?」

「……いや、その態度だけで充分だよ。知ったらめんどくさい事になりそうだから、知らないままでいたい。それでも良いなら、魔法少女として仲良くして欲しい。」

「いえいえ、お互い様ですので。」


 そんな状況ですり抜けて来たものだから、多分、つい手を取ってしまったんだと思う。


「ただごめん……もう、なんか身体が限界っぽい……後で……ちゃんと話そ……」


 とりあえず後になって考えた結果としては、熱のせいにしておいた。

 相手が俺に接しているように、俺にも考えがあっての行動。という事であればギリギリイーブンに持ち込める。多分。


「這ってでも逃げればいいものを。自分の意思敵の手中で寝るなんて……本当に馬鹿ですね。」


 ただまあ、俺の考えというのは、今の具合の悪さをなんとかしてくれる人……なんていう、割と刹那的な事が目的だったりもする。

 ……後でもっともらしい理由を考えておこう。


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