24話
「お? 良かったですね。中に誰も居ないみたいです。居たら流石に気分悪かったですけどね……」
結果的に負けこそしなかったが、ここまで追い詰められたのは初めてだった。
多分、地上戦を行う魔法少女では随一だろう。
記憶が正しければアリスブルーは先月か先々月……世間では隕石災害なんて言われてる人災以降に見るようになった筈。
そんな歴の浅い魔法少女……魔法少女か? まあ、魔法少女に追い詰められるとは私もかなり甘えていたのかもしれない。
「はぁ……結構、疲れましたね……あと数十分粘られていたら危なかったです。」
このチェーンソーは破壊力こそ抜群だが、相応に燃費が悪い。
短期決戦が出来ると思っていたが、思った以上の粘りを見せた。
魔法道具ではなく本体の技術で抵抗してくるタイプというのはこれだから困る。
それと、戦闘中から気になっていたが妙な光が視界にちらついていた。
こちらを直接狙うでもなく、触れても大した影響がない。改めて観察すると
「魔法攻撃をかなりの精度で予測して危険地帯を可視化する魔法ですかぁ。横で何度か見ましたが……弱っちい魔法ですねぇ、お兄さん?」
攻撃の予兆が現れるという奇妙な魔法だ。
アリスブルーが気を失った状態でも、魔力が続く限り発動し続ける魔法の様子。
補助系なので強いとか弱いとかの話ではないのだが……それで私なんかに力負けしているようではあまり褒められたものではない。
この身一つで戦うのであれば、それを伸ばす魔力の使い方をすべき。
……というのは私の考えだが。まあ、立っている私が正義という事で。
「ま、お兄さんおかげであの子の無差別爆撃も回避出来てた訳だから感謝しないとですね。いまのあの子の攻撃なら、直撃すると多分、流石に痛いだろうから……っと。」
恐らく対魔物に特化しており、私のようなタイプが天敵だったとは思うのだが……
想定している状況下では実際凄く便利ではあると思う。
例えば現状でも飛来してくるキチクネビクの攻撃の予測を魔法が代理で行ってくれているので、光の無い場所まで良ければいいだけで済む。
思考をよそに任せることが出来るというのはかなりのアドバンテージだ。
固有魔法と戦闘能力を総合して今後を考えると、これは最終的に仲間に引き込んだ方が……あっ?
「うぁ!? なん、で……!?」
ぬかるんだ地面に足を取られた。
何故だ? 今のアリスブルーに自動で発動する魔法を偽装するなんてテクニックを披露するほどの体力・気力は残っているとは思えない。
念の為倒れている姿をもう一度確認したが、やはり倒れていた。
そのタイミングでよく目を凝らしてみる。
こんな魔法に頼らず、自分で魔力を見るのが一番……
「ああ、なるほど……既に溶けた地面には魔力は残ってない訳ですか……」
流砂状になった地面は人間はおろか車すらも飲み込む。
もがけばもがくほどに、引き込んでいくのだ。
知識のない人間がそこから一人で抜け出すのは殆ど不可能とされている。
悲しい事に私はそんなサバイバル技術を持ち合わせていない。取れる選択としては今すぐ変身を魔法少女の方に変えて……
いや、ダメだ。こっちの姿で魔力をかなり使った以上、インターバルにも少なからず影響が起きている。
それに変身という行為は維持こそ低コストなものの、最初の起動の段階が一番魔力を消費する。
最悪の場合、魔力切れで再度の変身が出来ず生身のまま飲み込まれてしまう事だろう。
「い、言ってる場合じゃない……この沼、硬すぎる……! た、たすけ……」
我ながら情けない。こんな避難も済んだ場所で誰が助けに来るというのだ。
あるいはアリスブルーの戦闘を嗅ぎ付けた誰かが様子を見に来たかもしれないが、倒した敵の目の前で沼にハマっているマヌケなんて誰も助けるはずが――
「い……嫌!? 離して!」
誰かに捕まれる感覚があって咄嗟に声を上げたが、冷静になって考える。
誰が私の手を掴むというのだ……?
血と泥で一瞬認識が遅れたが……目と目が合って理解した。
お兄さんだ。
「は……!? 最期に私なんか助けて正義の味方気取りですかぁ? そんな事で私が計画を止めると思ったら大間違いですよ! もう一度ブッ倒して……や……」
物理的に引き抜いた後、お兄さん二度寝するかのようにもう一度ぶっ倒れてしまい完全にやる気を失くしてしまった。
武器を仕舞って頭を冷やす。
「計画……? あれ……私、なんでお兄さんに怒ってたんでしたけ……殺すほどじゃなかったような……」
そこで、そもそも何で魔法少女達の能力を調べているかを思い出した。
「……殺しちゃダメじゃん!!! だ、大丈夫!? お兄さん!?」




