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2話

試しにさっきまで着ていたカーテンを強めに引っ張ってみた。

ピン……と張り詰めるだけで、それ以上の何かは起きず、それはつまり今の俺の力はいままでの男子高校生程もなく、魔法少女のような並外れた力を発揮できないという事だ。


「俺……変身出来なかったら流石に何も出来ないよ。」

「私1人で何とかするから大丈夫。先輩なの忘れてない?」


確かに、俺が魔法少女になった切っ掛けはと言うとコイツの勧誘によるところが大きい。

俺も弱いはずは無いが、それでも朱華の方がワンランク上なのは事実だ。

ならばまあ、今回は任せきりになっても大丈夫か。


「……けど、最初の仕事の時とはまるで全然態度が違うわね。あの時は恥じらいとか無かったのに。」

「い、言うなって……! 仕方ないだろ……!」


奇しくもこの場所は、俺が魔法少女としての仕事を始めた時の、最初の討伐依頼の場所だった。


……


「おや、こんな場所に2人も来てくれるなんて嬉しいね。」

「新人なんですこの子。」

「どうも。」


初めての変身から紆余曲折を経て、改めて初めての仕事という形で変身する事になった。

依頼は銭湯に現れた魔物の討伐。


「魔物はどちらに?」

「私が見たのは女湯の方だねぇ。」

「分かりました。あとは任せて、お婆さんも一応避難してください。」

「あいよ。頑張ってねぇ。」


正直今のこの状態は俺としては成り行きに近く、義務や責任なんてものは微塵も感じていなかったのだが、避難する婆さんの背中を見て何も感じないほど適当には生きていなかった。


「よし、行くか。」


多少はやる気が回った所で、仕事に取り掛かろうとした時だった。


「ちょっと、あなたは男でしょ!」


袖をぐいっと引っ張られ、勇み足を止められた。


「そうだけど……こっちに居るってなら仕方ないんじゃない? 今は見た目は完全に女な訳だし。」

「だ、だとしてもかなり抵抗があるというか……中で変な事しないでよ。」

「俺をなんだと思ってるんだ……?」


今の状態であればむしろ男の方に入る方が問題だと思うのだが。

とはいえ確かにことが終わってもすぐに変身を解除するのはマズそうだ。その辺の意識は他よりも厳しめに意識した方が良いかもしれない。


「よし、では改めて……」


女と書かれた暖簾を潜った先には、信じられない湿度の空間があった。一瞬見えない壁を感じたほどだ。


「ぅあっつ! なによこれ……」

「服が張り付く……」


脱衣所だと言うのに空気がとにかく重い。こういうった場所のガラスはすりガラスで見えなくなるのは普通だが、あるいはこの湿度だけでも問題なく目隠しとして機能するかもしれない程だった。


「空気はおかしいけど、ここには何もなさそうだ。」

「そ、そうね。異常の出処ではなさそうね。」


ひょっとするとロッカーの中とかに潜んでいる可能性は無きにしも非ずだが、片っ端から開けていく訳にも行かない。

というか、こんな状況であれば原因の場所はほぼ間違いなく湯船の方だ。ここを探したところで何も得るものは無いだろう。


脱衣所から更に奥に進めば、粘性すら感じる空気に押し戻されそうな空間があった。


「な、なにこれ……スライム?」

「……の、風呂だな……落ちたら火傷じゃすまないぞこれ……」


湯気の出処で間違いも無さそうだ。

一般に水とお湯ではお湯の方が粘度が高いとされている。あくまでそれは物理の話なのだが、これはどう見てもその領域ではない。明らかに意志を持って動いている。

一応、今の俺たちは防御力も並外れにまで上昇しているので、今の所無事だが、気温湿度共にここまでの空間となると呼吸するだけで体の内部が焼ける危険性すらあった。


となると、万一ここに俺たち意外が居ればそれはつまり今回の諸悪の根源という訳で……


「あっ……やめ、やめなさい! んっ……もうすぐアイツらが来ちゃうから……あっ!」


女湯の奥の1番でかい浴槽には、スライムに絡まれてる変なコスチュームの女が居た。


「何やってんだコイツ。」

「バカね。」


文字通り熱烈に絡まれているコレをどうやって処理しようか考えていると、足元に蠢く何かを感じた。


「せいっ!」


タイヤを蹴ったような感覚だが、しかし確かに手応えを感じた。


「く……意外と侮れませんわね……」

「えっ、何?」

「コイツがバカ晒してる間に油断したら、俺たちもアレと同じになってたかも知れない。」

「そ、そうは言っても……この湯気全部に魔力を感じるから気配も何も感じないのよ……」


……なるほど。

言われてから魔力で探知してみると、確かに空間全てに魔力を感じる。

バカだと思っていたが、意外と考えられていたようだ。

俺が魔力にまだ慣れていないので、物理的な気配を頼りにした事は想定外だったのかもしれない。


「お前たち! 私を弄ぶのはもういいから、早く動きなさい!」

「グレイ、来るわよ!」


同時に、より一層湯気が濃くなる。

芝居は終わりだと言わんばかりの声に身構えた。


……しかし。


「……来ないな。」

「……そうね。」


いつまで経っても向こうから何かのアクションが起きることは無く、流石に痺れを切らした。

しかし、徐々に水音が激しくなっているような気はする。隠れて何かしているのであれば、止めた方がいい。


「ちょっと見てくる。」


そう判断した俺は、1番奥まで駆け寄った。音の出処はここで間違いない……が……


「あっ……はっ……! も、もういい言って言ったでしょ!? いつまで私を舐って……んっ、やめ……!」


「……はぁ。」

「グレイ! どうしたの!? 大丈夫!?」


「……いや、なんか馬鹿らしくなった。」

「え? ああ……そういう……」


フェニックスは極端に作画の低い真顔になっていた。

鏡は見えないのだが、恐らく全く同じ表情になった。

これを仕事と言われると、流石にちょっとキツい物がある。


「流石に見ないであげよう。」

「そうね。」


「ま、待って! イかないで……! お願い助けて! んぁっ、やめ……あっ!」


全ての事が済んだ後、念の為数発シバいて女と魔物を処理し、清掃班にも一応経緯を伝えてから帰還する事となった。


流石にちょっと嫌そうな顔をしていた。

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