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19話

 俺の目の前でアリスブルーを名乗る魔法少女は、どうやら表に出れない俺の代わりを務めていたようだ。

 知らなかったとはいえ疑ってしまった訳で、その間はかなり邪険な態度を前面に出してしまっていた気がする。

 一旦その辺りはオリオンのせいにしておくとして、ハーミットと呼ばれた少女に対しては一言言っておきたかった。


「で、影武者なんか紹介してどうするつもりだったの?」

「別に今すぐどうこうするつもりはないと思うわ。あなたが今の状態のうちにしか出来ない事はやっておくつもりなんじゃない?」

「挨拶とかかな……」

「その辺は変身中にある程度済ませてたから大丈夫だとは思うわ。まあ、紺野さんの方も挨拶と言えば挨拶だと思うけど。」

「……影武者、ねえ。」


 別にそんなもの必要かと言われると俺は要らないが、俺以外が必要と判断しているのだろう。

 衣服から影武者まで、俺の身の回りの物はどういう訳か俺が一番無頓着だった。


「あいつの魔法ってそういう力なのか?」

「詳しい事は聞いていないけど、成りすましや諜報関係の物って事だけは聞いてるわ。」

「……本人に聞いてみるか。」


 最終的な今の紺野の評価としては、成りすましていた理由が分かった以上疑る理由もない。

 その上性格面は嫌いでは無いタイプだ。出来ることなら普通に接していたい。


 適当に連絡して、待ち合わせて話す事にした。

 紺野は待ち合わせ時間よりも10分早く動く俺よりもさらに早かった。


「あ、千月先輩!」

「……この前から気になってたんだけど、その先輩って何?」

「え? 文字通り先輩だからですよ。」

「先輩、ねえ。」


 それは恐らく魔法少女としての、という事なんだろうが、どういう理由であれ俺は先輩と呼ばれる事が苦手で仕方が無かった。

 自分を慕う人間がいるというのは喜ばしい事である反面、ある種の責任も伴ってくる。

 俺はそういった責任から今までなんだかんだと理由をつけて逃げてきたので、どうにもやりづらくて仕方が無かった。

 とはいえ魔法少女となってなんだかんだと1年以上は経過している。

 そろそろその辺りの覚悟を決める時が来たか……


「聞きたいことがあるんだけどいい?」

「勿論です! 答えられる範囲ならなんでも!」

「じゃあ言っていいこと全部教えて。」

「ぜ、全部!?」


 しまった。魔法について聞きたいという前提は俺しか持っていなかった。


「全部と言うと……魔法少女になったきっかけからですか?」

「そこまで遡らなくてもいい。」


「よ、良かった……流石にちょっとまだ心の準備が。」

「……そう言われると気になってきたな。」


「聞きますか?」

「……いや、いい。それはまたいつか頼むとして、今日は紺野がどういう魔法を使うのかが知りたい。」

「ああ、そんな事ですか。大丈夫ですよ。呼び方も那由多で大丈夫です。」


 こっちも結構大事そうな事だとは思うが……そんな事呼ばわりされるのはなんだか意外だった。


「コード:αはズバリ、擬態能力ですね。成りすましたい人に成りすませます。」

「なるほど擬態か……影武者って言うんだから多分そんなとこだろうとは思っていたけど……いくつか腑に落ちない所があるんだ。」


 昨日、紺野が俺の影武者であると紫煙や朱華から説明を受けてからというものの……気になっている点があった。


「1つ、似てない。今はもしかすると擬態してないからかもしれないけど、少なくとも昨日は絶対に似ていなかった。」

「それはまあ……変身する魔法じゃなくてそう思わせる魔法ですから。」

「思わせる?」

「はい。周りの人に、私『紺野那由多』が『魔法少女アリスブルー』本人であると信じて疑わせなくする魔法です。」

「……ってなるともう1つ。俺が全く騙せてない事にならない?」

「それはそうですよ。仮に見た人全員が私がアリスブルーだと認識するなら、千月先輩が見た場合どうなると思います? より具体的には、千月先輩自身の認識はどうなりますか?」

「……那由多になるとか?」

「そうなると全く別の入れ替わる魔法じゃないですか。だから、あくまで擬態なんです。現に先輩の自認はそのままで、私を疑ってた訳ですから。」

「そこは申し訳ない。」


 そこからいくつかあーだこーだと質問したり、過去の例(といってもここ1年の間ずっと俺を対象に取っていたみたいだが)を参考に、ようやく再入手したスマホのメモ機能に簡潔に纏めてみた。


 ①任意の他人に成りすます魔法

 ②効果の及ぶ範囲は対象以外。そのため成りすました対象にはバレる。

 ③変装している訳ではなく、あくまでそう認識させる魔法。


 ここまでが魔法の説明で、


 ④仕草などから強い違和感を持たれると、解除される事がある。

 ⑤対象と並んだ場合でも、解除される事はない。が、違和感を持つきっかけにはなる。


「……纏めるとこんな感じか。」


 恐らくだが、昨日の試験で那由多が俺の本名を名乗っていたら、あるいは俺がアリスブルーとして変身することがあったら、誰かが……それこそ京夏さんとかが違和感を持つきっかけにはなったかもしれない。


 そう考えると意外と脆い魔法だった。


「合ってます。先輩結構こういう能力の解釈得意ですか?」

「……まあ、カードゲームは好きかな。」

「これターン1ついてないんですよ。」

「ふふ。」


 そして那由多は意外と話がわかる。

 朱華は女友達という感じだが、那由他は男友達という感じがあった。

 もっとも、那由他が俺の中身についてどこまで知ってるかは分からないが……


「紫煙さんとかは私の魔法の対策がすごいですね。1分以上同じ部屋にいるとまずバレます。対象と並んでいると1発でバレます。」

「凄いな……」


 偽物を偽物と判断するなんて少年漫画見たいな機会は俺の人生にはまだ訪れていないのだが、同じことをしろと言われても難しい気がする。

 ……とはいえ、那由他の役割を考えると俺以外を対象に取る事はあまりないのかもしれないな。


「オリオンにいる限りこれ以上万能にしてはいけない……と言われてるのと、私も必要に感じてないのでこれ以上の出力にはしていないんです。」

「というと?」


 確かに便利ではあるが、能力に制限をかけるという程の物でもない気がする。


「先輩はマジックナンバーって知ってますか?」

「プログラムの方?」

「を、由来とする魔法のテクニックです。」


 確か由来の方はというと、プログラムのソースコードに直に書かれた具体的な数字の事だ。

 基本的には書き換え忘れのないように変数などで一元管理するものだが、それを行っていない物を指す。

 有り体に言ってしまうとヘタクソが書いたコードだ。使いづらく、読みづらい。


 だが魔法におけるマジックナンバーは、その「使いづらい」が肝。


 限定された状況でしか使えない能力にする事で、能力に尖りを持たせる事が出来るようになった。


「例えば先輩の千鶴の納刀時の攻撃力増加もマジックナンバーによるものですね。10秒というコストを支払って、それに見合った効果を引き出すテクニックです。」


 これは俺の装備の方の具体例だ。

 厳密にはそこにさらに"動かない"というコストも支払って、さらに攻撃力を上げる事に成功している。


 戦闘中に無駄な行動を行って隙を晒す理由なんて普通は無い。

 だがその無駄な行動を指定することにより、プログラムにおけるマジックナンバーと同等の役割を担うことになる。

 用は限定する事で、その状況における出力を向上させているのだ。


「ちなみになぜナンバーなんだ?」

「最初の頃は秒数による縛りが主流だったから……とかなんとか。今でこそ色々ありますけどね。」


 一度呼び名が付いてしまってから、なんだかんだと今まで呼ばれ続け……というパターンらしい。

 確かに一度定着すると特に不都合がない限りは変更できた例をあまり知らない。


「で、本題なんですけど、私のコード:αにはマジックナンバーが無いんです。オリオンにはつけてはいけないと言われているんですが、そもそもの話として私には扱えないんです。そこでちょっと相談があって……」

「相談。」


 少し嫌な予感がした。

 この流れから面倒じゃないお話が聞けた試しがあまりない。


「もし良かったら先輩に教えて欲しくて……」

「……無理! 魔法は本当に苦手で分からないから朱華に聞いた方が早いよ。」


 ……案の定、俺には対応できない内容だった。


 実際の所、魔法は不可能ではないが、苦手というライン。

 変身したり、変身の伴っていない強化をしたり、自分の傷を癒したりなどといった基本的な事は出来るが……

 例えば黄丹京夏(ガーネット)や、朱華緋鳥(フェニックス)のように魔法で砲撃する事は出来ないので、分からない事があるならそう言ったメンバーに話を聞いた方が良い。


「そ、そんな……私は魔法より朱華さんの方が苦手ですよ!? こう、コツを聞いてくるとかでも大丈夫なので……!」

「コツを聞いても俺が分からなかったらどうしようもないから……」

「じゃあせめて別の、誰か魔法が得意な人は居ないんですか?」


 一応、心当たりを探ってみる。

 だが俺のオリオン内での交友関係など、ここ数日分で収まってしまう。

 基本的に朱華とペアで動いていたし、オリオンの方針で他をあてがわれる事もなかったからだ。


 となるとオリオンの外、例えば家族や平時での友人関係になっていく。

 そんな方向の人間関係に、魔法に詳しい人間が居るハズもなく……


「あ。」

「居ましたか?」

「いや……コイツはダメ。オリオンの外の人間だし。」

「だったら大丈夫ですって! 私オリオンの人殆ど苦手なので!」

「それはそれでどうなんだ……」


 心当たりは一つだけあった。

 しかし……人を紹介したくないタイプの人間だ。

 危険度で言うなら裏葉と同等だが、裏葉とはベクトルの異なる異常者だ。


「さ、案内してください! 交渉とかは私がするので、先輩の手を煩わせる事はありません!」

「それが問題なんだよね。うーん……気が乗らないな……」


 これが可愛い物に目が無いタイプの異常者であれば制御は簡単なのだが……困った事に俺でも制御しきれない。

最悪の場合変身して倒す必要がある……というのもなかなか足を進める気にならない理由の一つだった。


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