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15話

 平日だが休日の昼下がりに、マンションのベランダに濡らしたバスタオルを干す。

 洗濯行為でもあるが、これは直射日光を避ける意味と、直射日光によって気化した水が熱をベランダから持っていく事を期待しての行いだった。


 結果は予想通りで、適度な温かさと涼しさを兼ね備えた空間を作り出す事が出来た。


 眠気を誘うような居心地の良い温かさと、その眠気を阻害しない涼しさの両立が、ただの洗濯のついでで得られる事に感動しつつ、今日もお天道様が高い頃から惰眠を貪り……


「腑抜けてるわね……」

「あー……来てたんだ朱華。」


 閉じきった瞼を空けるのには結構な力が必要だった。

 今はいない親父が喫煙用に置いたパイプ椅子を蹴ったのだろう。その衝撃が体にまで伝わり、船を漕いでいた俺の意識をを一気にマンションのベランダにまで引き戻した。


「おはよう。こんな時間からおやすみとはいい身分ね。」

「……いや、腑抜けてる訳じゃないと思うんだけどさ。」

「目も開けてない顔でどの口がそんな事言えるのよ。あなた、初めて魔法少女になった日の自分に会ったら殺されるぐらいの顔よ。」

「待ってくれ、話だけは聞いて欲しい。」

「別に聞いても聞かなくても何もしないけど……何?」


 朱華になら分かってくれると、そう信じてここ数日間の俺の心情を話す。


「……一応俺が魔法少女になったのは自分と、ひいては藍墨を助けるためなんだよ。そこに第三者というか、一般人はあまり含まれてないつもりだった……」

「つもり?」

「正直自分でも魔法少女になる意味ってのはよく分かってなかった。男だから……とかじゃなく、俺はこういう力を得たら隠れて自分と、自分に近い人間ために使う……そういう人間なんだ。」

「思い当たる節はあるわ。それで?」

「でもまあ、こんな俺にもやりがいというか……人生におけるハリを維持する何かがあって、それが実は魔法少女としての活動だったって事にここ数日で気づいたんだよ。」

「休暇ぐらい今まで何回もあったじゃない。」

「確かに今の状態でも一見するとなんの代わりもなく今までの生活は送れるかもしれないよ? でも、たった一つ、けれど決定的に一つだけが前と違うんだ。」

「聞かなくても分かるけど言ってみなさい。」

「この身体! 常日頃からこの身体っていうのはこう、かなりストレスが溜まる! しかも俺の身体をこんなのにしたやつを探す事もできない!」

「ストレスが溜まるのは分かるわ。」

「そう! 溜まるのはいい! 問題は発散も出来ないのが……! 出かければ周りの視線を気にする事になるからこんなのじゃどこにも行けない! ゲームセンターなんて以ての外!」

「今のアンタ見た目は良いから普通にしててもそこそこ目集めるものね……同情するわ。」

「絶対にそれはない! 変なオーラが出ちゃってるんだ……もうこれは抑えられない……」

「それで?」

「もうやる事が日光浴ぐらいになっちゃった。」

「……つまり腑抜けたって事ね。長々とありがとう。」


 なんかもうそれでいいや。人からそう見えるならそういう事なんだろう。


「……要するに、仕事するなって言われたから仕事してないです。」


 別にこれ自体は悪い事ではないのだ。

 まだスマホはないため直通という訳でもないが、音信不通という訳でもない。

 であれば、自宅待機の指示を受けてそれに従ってる俺は怒られる所以は全くない。


「そうね。ところで私はこんな指示を受けたわ。」

「何?」

「免許の更新。」

「えっ、車?」

「バカ言わない。」


 朱華は確か……俺の2個上だったか。なので18歳で、車の免許は取れる……が、どうやら車ではなさそう。


「魔法少女の免許よ! アナタなんだかんだ言って取れてなかったでしょ?」

「ああ……男が魔法少女の講習受ける訳にも行かないって言われたし。」

「今なら問題ないじゃない。ついでに連れていくように言われてるから、行くわよ。」

「んー……」


 考えてみるとほぼ一年程の期間無免許で活動していた事になる。

 朱華と2人1組で行動してるが故に、朱華というよりフェニックスの知名度もありわざわざ横にいる俺が身分証を要求される事もまあ無くは無かったが、それでも平気だったのは今までが可変TSだったからだ。

 そこは恐らく今後も変わらないとは思うのだが……とはいえ身分証が一つも無いというのはマズいだろう。

 今はうっかり職質を食らえば一発アウトという状態。多分連絡すればオリオンが便宜を測ってくれるだろうが、確実ではない。

 だったらもう家で日向ぼっこするしかない。先日の氷点下活動もあり、太陽光を溜め込んで起きたかった。


 が、まあ……体が動かせるなら付き合ってもいいか……


「今のうちにやるべきか……」

「ほら、しゃんと立つ!」


 正直、眠いのと気乗りしないのでどうにも体が重い。


「ああ……お姉ちゃんが引きこもり支援みたいに……」

「朱華しか居ないなら兄って呼べ……」

「覇気がない……! お姉ちゃんをよろしくお願いします!」

「藍墨?」

「はーい連れていくわ。今日中には返しに来るわね。」


 同意こそしているものの、なんだか俺の意思は関係ないような扱いだった。

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