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1話

先に男に戻るか戻らないか、男と交際するか否だけ明言しておくと

男には戻さず、男とは恋愛的な絡みはさせません。

仮にも市民を守り、治安維持に務めていた、言うなれば正義の代名詞でもある魔法少女が、服とも言えない布で身を隠し、裏路地に潜まざるを得ない状況に陥るとは、屈辱以外の何でもなかった。


持ち物も何もない為、運良く知り合いが近くまで来てくれる事を祈るしかない。

幸い戦闘直後という事もあり、なかなか魔法少女が帰還しないという状態であれば、誰かが様子を見に来る……はずだ。


「は、朱華……」

「……ん? グレイ? なんでそんな不審者の真似してるのよ。しかも変身なんかして。」

「……してない。」

「戦いの時以外に許可の変身は……今、なんて?」

「……変身してないのにこの身体なんだ!」

「は……?」


変身を解除させられたのは分かる。

そういう能力を持つ相手に遅れを取った俺が悪い。


しかしこれは……どういう事だ?

今まで元の体に戻れなかった事は一度も無い。


男が魔法少女になると言うのは当然ながら正常な処理ではなく、何かしらの不具合が潜在している可能性はあるとは言われたが……


「な、なあ、俺が千月浅葱(ちづきあさぎ)に見えるか? 俺って最初からこんなんだったか?」

「み、見えない……見えないけど……」


同じく魔法少女であり先輩の魔法少女フェニックス……朱華緋鳥(はねずひとり)に呼びかけるも、その表情は困惑の色が見て取れる。

瞳に反射する俺の姿は魔法少女アリスブルーそのもので、記憶の中の俺の普段の姿とは違った。


「なんでアリスブルーの姿なんかに……?」

「い、今は特にその姿で呼ばないで欲しい! 頭がおかしくなりそうなんだ!」


アリスブルーというのは俺の魔法少女としての活動名だ。

可愛らしい名前なのが気に食わないので、特に親しい人間にはグレイと呼ばせているのだが……

普段以上に、混乱の中にある今だけはやめて欲しかった。


「……と、とにかく服よ! あなた何も持ってないの!?」

「な、無いよぉ……変身が解除されたらこの姿で……捨てられてたカーテンを勝手に持ってきたらから……」


それにそんな事を気にしている場合では無い。

今の姿は魔法少女として活動している時の顔とほとんど同じ。そんな容姿の人間がこんな姿で外を歩くのはイメージという物があるので避けたい。


「私が来なかったらどうするつもりだったのよ……」

「その時はもう、骨をここに埋めるつもりで……」


そして何より俺が恥ずかしいので絶対にそんな真似は出来なかった。


「ちょっとだけ待ってなさい。色々用意してあげるから。」

「本当にありがとう……好き……」

「も、もう! こんな時ばっかり調子良い事言って!」


その後、てっきりまたしばらくここで1人待つことになると思っていたのだが、手を引かれて驚いた。


「さ、行くわよ。」

「ちょ、ちょっと何処に……!? 服持ってきてくれるだけで良かったんだけど……! 今は無理だって!」

「捨てられたカーテンなんか着てたら汚れてるでしょ。その状態で服着せる訳にも行かないから、まずは洗わないと。」

「そ、それはそうかもだけど……!」


確かによくよく見ると汚いが、今はそんな贅沢を言ってられる状態ではない……


「え、洗う……?」

「うん。私も通報を受けたついでだったから、ちょっとだけ急いで。変身は出来る?」

「む、無理……道具も無いから。」

「じゃあ私の使って。ドレスも私のになっちゃうけど、無いよりはマシだと思うから。」


……確かにそれが出来れば話は一気に解決する気がした。

しかし、今さっき変身関連の事故にあった以上、原因も分からないままもう一度というのはかなり抵抗があった。


「……変身解除した時に朱華の見た目になっちゃうって事は。」

「なったらもうお手上げだから考えなくていいわ。」


潔い。

……我が身が大事な俺にはできない潔さだ。

他人事だと思ってるな、コイツ。


「それかこういうのはどう? その格好のまま認識阻害の魔法を発動するから、私とくっついて移動すれば……」

「無理無理無理! 謹んで変身道具をお借りさせて頂きます!」


「こ、コード:変身(トランス)……!」


しかし何もおこらなかった。

どうやら呼び声は表路地を走るトラックにかき消されたようだ。


「……ダメみたいね。」

「まって、まって、もう1回! 声が小さかったかもだからぁっ!」


「コード:変身ッ!」


しかし何もおこらなかった。(10秒ぶり2回目)

俺の声は多少、狭まった裏路地の中で反響こそしたが、変身シークエンスが発生する事は無かった。


「うっ……うぅ……そんな……」

「ま、まあ……気の毒だとは思うけど、ここで死ぬよりはマシでしょ? 絶対手離さないから、ほら、立って。」

「ごめん……助けてくれてるのに……」

「放っておける訳ないでしょ。ええと……グレイって呼んだ方がいい? 千月の方がいい?」

「好きにして……」


都合のいいことに、どうやら街の銭湯から魔物が現れたという通報があったようだ。

道中こそ怯えながら、かつ、おぶられながらの移動となったが、人払いの済んだ銭湯であれば、例え全裸であってもある程度正当性があるので、さっきよりは幾分かマシだ。


俺の家も朱華の家もここより更に遠い以上、これが最適解なのは否めなかった。


「さ、仕事しましょうか。」

千月浅葱:魔法少女アリスブルー 可愛い名前が嫌で、親しい人にはグレイと呼ばせている

朱華緋鳥:魔法少女フェニックス アリスブルーの事をグレイと呼ぶ仲。

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