side 円上ルリ
「不味いなー。時間がかかっちゃうどころの話じゃなくなってきたかも」
『現在の生存確率は27%と推測されるよ。一時撤退も許可されてるよ』
物陰に隠れて息を整えている円上ルリに話しかけるのは、円上ルリのインテリジェンスガン、パーマネントだった。
アサルトライフル型のパーマネントを持つ円上ルリは、通学途中に敵性存在の出現の報を知らされ、同時に発令された成り立てのガンガールの救援の指令を受けてここにいた。
たまたま、円上ルリが最も現場近くにいたのだ。そのせいで、こうして敵性存在と最初に接敵しているという訳だった。
「ううん。逃げるのは、無しかなー。成り立ての子を見捨てるなんて、出来ないしー」
『ガンガール、橘カナエはすでにスコアセブンを突破したよ』
「え、うそっ。めっちゃすごいじゃん。ワーウルフを七体も!?」
『ルリ、投擲くるよ』
「はぁっ!」
会話の途中で挟まれるパーマネントからの警告。
鋭く呼気を放って、円上ルリは隠れていた物陰から飛び出す。
ワーウルフが投擲した瓦礫が、円上ルリが先ほどまでいた場所に直撃する。
円上ルリは飛び出した勢いのままアスファルトの上でくるりと受け身をとり、片ひざだちになると、投擲物の軌道の元に目掛けパーマネントを構える。
放たれるパーマネントの射撃。
タタタタっという小気味よい音とともに、無数の弾がばらまかれ、そのうちのいくつかが、投擲した姿勢のワーウルフへと襲いかかる。
全身にパーマネントの弾を浴びたワーウルフがまるで踊っているかのような挙動をみせて、後ろへと倒れる。
『ワーウルフの撃破を確認したよ』
「ようやく、一体かー」
『次、三体同時。きたよ』
「うそっ!」
まるで瓦礫を投擲してきたワーウルフが囮だったかのように、近くの建物の窓を突き破るようにして現れた別のワーウルフたち。
しかもそれぞれが違う建物から、円上ルリを包囲するようにして上空に現れる。
その数はパーマネントの伝える通り、三体。
それがほぼ同時に上から円上ルリへと襲いかかる。
「やばっ」
慌ててそのうちの一体にパーマネントを向ける。
しかしそれはあまりに遅かった。
そして遅すぎることを、この一瞬で円上ルリも理解していた。
それでも円上ルリは引き金を引くことを諦めない。せめて一体だけでも、自らの命と引き換えに道連れにしようとパーマネントの弾を撃ち込んでいく。
それは救援するはずだった新人のガンガール、橘カナエのため。橘カナエが遭遇する敵を、せめて一体でも減らそうと気合いを込めて引き金を引き絞る。
その放たれた銃弾は空中から襲いかかるワーウルフの一体を捉え、ズタズタにしていった。
ただしかし、それだけだった。
残りの二体。円上ルリへと襲いかかる無傷のワーウルフたち二体は、喜びの雄叫びをあげてその爪を、その牙を振るおうと迫る。
冷静にそれを見つめる円上ルリ。その腕は間に合わないことを理解していても、最後まで諦めることなくパーマネントを、残りのワーウルフへと向けようと動く。
決してその瞳を絶望に染めることなく、迫りくる自らの死たる爪と牙を見つめる円上ルリ。
その時だった。
立て続けに響く、二発の銃声。
そして、円上ルリの目の前から、その死をもたらすはずだったワーウルフの爪と牙が消えていた。
「あの、その……大丈夫、ですか?」
呆然とした円上ルリにかけられた声。振り向いた先にいたのは、円上ルリと同じ制服に、拳銃型のインテリジェンスガンを構えた少女。
「──天使だ……」
惚れ惚れとする均整のとれた射撃姿勢。憂いを帯びた切れ長の瞳が感じさせる深い知性の輝き。額が広く見える独特のその髪型さえも、円上ルリにはただただ、魅力的にしか映らない。
その少女の美しさに、円上ルリは思わず思ったことをそのまま呟いてしまう。
「え? え…」
円上ルリの熱い視線に困惑したような表情を見せる少女──橘カナエ。
これが二人の出会いとなるのだった。