質問と探索
『橘カナエ。質問をよろしいでしょうか』
人気の無くなった街をてくてくと移動していると、ピットクリフから質問をされる。
それ自体が質問である問いかけはとても人間的で、ピットクリフがインテリジェンスガンとしてとても優秀なことが伝わってくる。
「どんな質問?」
次の敵性存在を迎え撃つのに良さそうな場所を検討しながら私はそう、答える。
相手がAIではなくて、人間に対するように。
『橘カナエが迎撃を選択した理由を教えてください』
「え、あー。そうね、さっきのタクシーの事故で体がまだ少し痛いからかな。ほら、痛みって余計なノイズになるでしょ? だから、うーんと」
思ってもみなかったピットクリフからの質問に途中で答えに詰まってしまう。
『迎撃の方が敵性存在に対する勝利の確率が上がるという判断でしょうか』
「──勝利の確率とかはよくわからないんだけど。さっき戦っててあんまり実感なかったんだよね。だから、その……ゆっくり落ち着いて戦えばわかるかなって?」
『「何」がわかるのでしょうか』
「えっと──相手を殺すこと、かな?」
自分でもなにを言っているんだろ、と思わず恥ずかしくなってしまう。
相手がインテリジェンスガンでなかったら、とても恥ずかしくて言えなかっただろう。
『橘カナエは殺戮の体感の再確認を求めているのですね』
「え、いや、ちが……わないけど……。それだと私が変な子みたいじゃない?」
『ガンガールとしての適正から外れるものではありません』
「そう、なんだ。そういえばさ、なんでピットクリフは私に使わせてくれてるの?」
『橘カナエの適正判定により、適正と判断されたためです』
「その、適正判定? それで私のどこが適正ってなったの?」
『機密事項により情報開示ができません』
「え、あ──はい」
ピットクリフから、急にぴしゃりと遮断されたかのような錯覚に、思わず黙りこんでしまう。
すうっと、萎縮してしまう意識。
だから、私は迎撃場所を探すことに集中することにする。
一般的な成り立てのガンガールであれば何よりも優先される、自身のインテリジェンスガンとの対話。それをそこそこで終了させてしまう。
──あ、あのモールにしよう。あそこなら何回か来たことあるから、少し中わかるし。
見覚えのある建物。
家族で何回か来たことのあるそこへ向かって、私は歩き出すのだった。