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敵性存在

 てっきり電車を降りたところで尋問なり検査なり、何かあるだろうと思っていた私の予想はすっかり外れてしまう。


 私はいま、銃を突き付けられたままタクシーの助手席に座っていた。


 後部座席のど真ん中に座ったガンガール──宝来(ほうらい)倫子(りんこ)はそのすらりと長い腕を伸ばして、私のこめかみすぐのところにインテリジェンスガンの銃口を当てているところだった。


 視界をおおう前髪の隙間から覗くと、銃口はピタリとこめかみに狙いを定めている。

 運転中のタクシーはそれなりに揺れるのに、銃口は全くこめかみから狙いを外さなかった。逆に余裕なそぶりで、宝来倫子は調子外れの口笛を吹いているぐらいだった。


 ──すごい、これがガンガール……


 こんなときなのに、私はその技量に感動してしまう。

 ボッチだからこそ、人を観察するのが癖になっている私が実際にみた人間の中でも、彼女は別格の存在なのが一目瞭然だった。


 突き付けられた銃口の向こうには、タクシーの運転手さんの姿が見える。

 乗客がガンガールと、ガンガールに銃口を突き付けられた挙動不審な女子高生だというのに、何故だかとても落ち着いて運転しているようだった。


 ──確かにガンガールなら、なんでもありだし、運転が安定してくれているのはとても良いことなんだけど。でも、この状況で運転手さん、落ち着き過ぎじゃない? ガンガール御用達、って訳でも無さそうだし。


 私たちが駅を出て乗り込んだタクシーは、駅前のロータリーで普通に待っている一台のように見えた。


 周囲を気にしすぎなところのある私が、前髪の隙間から見えるタクシーの運転手さんの様子にそんな違和感を覚えているときだった。


『エマージェンシー』


 突然、宝来倫子の持つインテリジェンスガンから発せられた、機械音声。


 気がつけば運転手さんがハンドルから両手を離している。次の瞬間、その手が素早く動いて、何かキラリと光るものが運転手さんの左手に握られたのが見える。


 ──ナイフっ!


 驚きのあまり固まった私の体を、頭に突き付けられたインテリジェンスガンの銃口がドアの方へと押し込む。

 横薙ぎに運転手が振ったナイフが、私の目の前、ほんのすぐのところを過ぎていく。


 それはほんとうに紙一重だった。そして達人級の鋭さを持った一振り。

 そのナイフによって、私の顔を隠してくれていた前髪がバッサリ切り落とされてしまうぐらい。


 急に、視界が開ける。

 世界が、私の眼前に押し寄せてくる。


 その世界の圧倒的な情報量と、死にかけたことによって溢れでた、アドレナリン。


 私は思わず、ぎゅっと目を閉じてしまう。


 バンバンバンっという、銃声。

 ドアの方に押された私の体の、反対側に感じる、ふわりとした温かな感触。

 さらに激しい、何かが壊れる音がする。


 そこでようやくそっと目を開けると、事態は一変していた。


 運転席のドアが外れ、外を流れる景色が直に目に飛び込んでくる。

 襲ってきた運転席の姿は、ない。

 先程の音と、運転席の銃弾跡の状況、宝来倫子の体勢からみて、たぶん宝来倫子が銃撃後にドアごと運転手を外へと蹴りだしたのだろう。


 無理な姿勢で、片手でハンドルを操作している宝来倫子。その姿は血だらけだった。


「ほ、宝来さん!?」

「……はん、やっちまったね。まさかマエストロ級の敵性存在を送り込んでくるとはねー」


 全身の切り傷から、血が溢れだしている。複数の動脈をやられたのが一目でわかる。


「こりゃ、どうもダメそうだねぇ……。橘カナエさん。すまないけど、これを、預ける。うけとって、くれない、か……」


 そういって宝来倫子が差し出してきたのは、彼女のインテリジェンスガンだった。

 宝来倫子の伝説とともに、そのインテリジェンスガンも有名だった。


 確か名前は、ピットクリフ。


 それが私の胸元に押し付けられる。役目を果たしたかのように、だらんと力なく垂れ下がる宝来倫子の腕。明らかにその命の灯火はつきかけていた。


「私……でも……」

「──いいか、歩みを止めたら、ダメだ……敵性存在は必ず複数で、現れる。狙いは、き、み──」


 それが、伝説とうたわれたガンガール宝来倫子の末期の言葉となった。

 その間も走り続けている、タクシー。


「……は、ハンドルっ!」


 私は慌てて腕を伸ばすとハンドルを掴む。しかし、シートベルトで体を固定された状態で、宝来倫子の遺体もあって、ブレーキまでは間に合わない。


 世界の情報が、押し寄せてくる。

 時間の流れがゆっくりとなっていく。


 ──右側の生け垣に車体を擦るようにして減速。タイヤが跳ねないようにここで一気に右に!


 木の枝と車体の擦れる耳障りな音。次の瞬間、くるりと回転したタクシーのトランク側が、電柱に激突する。

 急激に膨らんだエアバッグが、私の横向きの体を受け止めてくれる。全身を走り抜ける衝撃。私はとっさに顎をひき、出来るだけ体を丸くして首と頭を守るのだった。


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