STORIES 046 :曖昧な記憶を、あいまいに掘り起こす
STORIES 046
高校3年生になった僕は電車通学をしていた。
田舎なので、通勤・通学の時間帯でも、電車は1時間に2〜3本。
高校生なんてみんな同じ電車になりがちで、学校が同じなら尚更だった。
つまり、朝はいつも同じ顔ぶればかり見ることになる。
そんな中に、どこかで会ったようで、でも誰なのか思い出せない新入生がいた。
少し短めに直したスカート、濃い色のハイソックス。
結構かわいい。
…可愛らしい、のほうが近いかな。
妹みたいな感じで、恋愛的感情はない。
乗る駅が一緒だから、同じ町に住んでいるのだけはわかる。
向こうは僕のことを認識しているのかいないのか微妙な感じ。
僕の勘違いかな…
そのまま何週間か過ぎた。
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ある土曜日の帰り道。
ホームで上り電車を待っていると、あの子が1人で現れた。
少し離れた場所で電車を待つ。
やっぱり思い出せないな。
でも今日は帰り道だから、駅を出てどっちへ向かうかくらいはわかるか。
そして僕らは、その距離を保ったまま電車に乗り、僕らの住む街の駅で降りた。
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あの子が先に改札を抜けて歩き始める。
僕もいつものペースで歩く。
駅前の交差点を渡り、まっすぐ歩いてゆく。
ん?同じ方向か…
そのまま10分くらい。
あの子が前を歩き、僕は10mくらい後ろをゆっくり歩く。
あれ?もうウチもだいぶ近いんだけど。
どこまでこのまま歩くのかな。
ストーカーみたく思われたらどうしよう…
と思っていたら、通り沿いの見覚えのある家に入っていった。
へぇ…あの子はあの家の子だったのか。
そういや面影はあるか。
懐かしいなぁ。
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保育園の頃だったか…
その家の女の子とたまに遊んでいたのだ。
庭で砂遊びとか、そんな程度かな。
でも、よく通る道路沿いなので、忘れることなく、思い出だけはずっと残っていた。
あの子、可愛くなったんだなあ。
こんなふうにみんな、知らないところで確実に時を重ねているんだね。
幼なじみ。
幼い頃によく一緒に遊んでいた記憶はあるのに、その後の人生に全く登場しない人たち、というのはけっこう多い。
親たちの都合に応じて、友達が変わってしまうことも多いからね、子供って。
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その後もよく顔を合わせたけれど…
話を交わしたりすることはないまま、僕は卒業してその街を離れた。
だって、話したいことなんて、いまさら何も思いつかなかったしね。
彼女は可愛くて、僕らは幼なじみ。
それだけでもう充分じゃない?