6記
「御領主様に領地よりの文を預かってきた。
門を開けよ。」
ああ、嘘をついてしまった。
けれど、学園へ残る使用人が領主に面会するためにこうするより他にない。
「領地からの手紙を預かった者とやらは、一見、カイアの侍従に見えるが?」
領主様、目的を偽り面会を申し出て申し訳ありません。
しかし、昨晩未明にカイア様の容態を診た、薬学に長けた女子生徒からの手紙を預かって参りました。
申し開きのあと、リリー様からの手紙を渡す。
「何っ?これは真か?」
はい。確かに、カイア様は昨晩遅くのお戻りでした。
寮に戻られてからの発熱の折りに、薬師からの薬と飲まれていた由にございます。
昨晩の経緯をかいつまんで話すと、家令に指示を出す。
カイア様の主治医に伝えよと聞き取れた。
「さて、この手紙を届けてくれた礼をせねばな。」
確か、お前の家族は、この館で働くメイドの母と妹、それに従僕の弟がいたな。
一家揃ってが、この家の使用人だ。
今は亡き、父とリード公との間の約束ごとだったそうで。
父亡きあとの面倒を見てくれている。
「その事でございましたら、弟を後継のない家令の跡継ぎとして教育を施していただけないでしょうか?」
考えていたことだ。
今の家令夫妻に子はなく、次代、モラン様の手助けとなる人員がいない。
弟は家政学に長けております。
兄としてその才能は伸ばしてやりたいし。
それをどうか礼の代わりにお約束ください。
「その心意気しかと受け入れよう。」
ローランドよ、お前の息子はお前に似て。
お前と同じ決断を迫られたときに、お前と同じように弟の幸せのために手離した。
その思いを無駄にしないようお前のところの次男坊は預かろう。
「何?ドネイラ草とな?」
カイアが中和薬を振りかける前に毒棘を抜いてしまっていたこと。
その後、ショックを和らげるために用いた中和薬の材料と配合、使用量。
おまけに発熱を押さえるレモンピールを持たせてあることが事細かに書かれている。
最後に、リリー=ノーザンバードと署名してある。
「…坊、気がつきましたかな?」
坊が目を覚ましたのは、5日後してからだった。
ノーザンバードの姫宮はいつの世も聡明であらせられる。
姫宮にようくお礼をするように。
ノーザンバードの姫宮と言われても。
誰のことかはっきりしない。
いろいろな人間が働いたからこその助かった命だとカイアはまだ知らない…。