4記
「いつの世のことからであろうか。」
この書き出しのヴァンパイア歴史書は初等科一年の歴史教科書に使われている。
ヴァンプとして生きるにあたり、学ばねばならない負の歴史。
かつて、ヴァンプが蹂躙された時代の歴史。
悪夢のような惨状の後に成り立ったのが今のヴァンプ共和国である。
「所詮、おとぎ話。
忌まわしい歴史の影には常に、王家が関わっている。」
自分の過去を知りたくて。
手始めに、16年前の王宮火災についてを調べ始めたのはいくつの時であっただろうか。
そう、あれは13になったころ。
中等科に進学をした直後のことだったと思う。
青のヒヤシンスが庭園に植わっていて。
尊敬する人からその宣告を受ける辛さ。
わかっている。
その事実は告げる方が辛いのだと。
事実、彼は言った。
カイアは大切な家族だと。
「これは、王宮に行かなければわからないな。」
早速、王宮跡ツアーなるものに申し込んでおく。
焼け落ちた宮殿の、未だに管理された庭園を柵越しに見ることができるのが最大の見所だそうだ。
なんにせよ、王宮に近付けるいいチャンスだ。
「・・・痛ったー。」
柵を握った瞬間だった。
飛び出していた釘に気づかず、手に刺してしまった。
訓練で生傷が耐えないから痛み自体にはなれるのが早いように思う。
その瞬間、一瞬、ただ白一色の空間に捕らえられた。
これが、過去を知る第一歩となろうとは。
そして、これが幼なじみとの運命を変えようとは露とも思ってはいなかった。
ただ、知りたかった。
それが唯一の理由だった。
「・・・んっ?ここは?どこだ?」
どうやら、地下空間ではあるらしい空間に横たわっていた。
古びた机の上にノートが置いてあることがうっすらではあるが、わかる。
これは・・・。
近づけば、燭台に勝手に灯りが灯る。
「・・・このノートを見れし者・・・。」
ああ、何て言うことだ。
長年苦しんできたというのに。
こんなことだったなんて。
腑に落ちなかったヴァンプ共和国の歴史。
それがストンと飲み込まれる。
真実はなんと辛いものか。
「それではこのツアーはお開きでございまーす。」
ツアーガイドの明るい声に解散を知る。
刺された傷は刺みたいなものが刺さり、傍らには真実が記されたノートがあった。
それが夢ではないと語っていた。
そして、ご丁寧に毒蔦の棘に含まれる成分を塗られていたようでにわかに発熱を感じる。
この感覚からしてドネイラ草あたりの毒であろうと判別がつく。
どこかで幼げな子供の、神話を唄う声が聞こえてくる。
これは、幻聴なのか。