ダメ出し
そう言ってから、私は一体なにを言っているんだろうと一瞬考えた。
婚約破棄をしにきたはずなのに、むしろこちらから婚約破棄なんてしない!と断言してしまった。
だって…なんだかベネディクトが自滅の道を辿っているように見えたんだもの。
自らなにか問題を起こして、嫌われるような、そんな行動をあえて取っているように見えてしまった。
それに、元々のヴェロニカでもきっとベネディクトの、そして自分の未来を知っていたらこうしたんじゃないかな?と思った。
あんなにベネディクトのことが好きだったんだもの。
第三者目線だとマティアス様とくっつけばいいなーなんて思ってたけど、やっぱりヴェロニカは好きな人とくっついてほしいな。
そんな、なにか言い訳じみたことを考えていた。
「ヴェロニカ、なぜ?どいうこと?僕は異性にだらしなくて、優柔不断なダメ王子なんじゃないの?」
ベネディクトが聞いてきた。
「たしかにそのとおりです。
あなたは異性にだらしなくて、何一つ自分で決められないダメ王子です。」
「そうだよね、マティアスの方がよっぽど次期王に相応しいと…」
「でも」
ベネディクトが話し始めたところを遮るように私は続けた。
「優柔不断ということは、きっとそれだけ優しいということです。」
「えっ?」
「あなたはなにをするにも私に意見を聞きますよね?私は公爵令嬢で、あなたは王家。あなたのほうがよっぽと立場が上なのにも関わらず。」
「それは…みんなそうじゃないの?婚約関係にあるんだから、パートナーの意見は尊重しないと。」
「いいえ、そんなことありません。少なくとも、私の周りではあまり聞きません。多くは殿方のご家庭で決められ、そのとおりに進みます。女性のほうから婚約破棄を申し出るなんてとんでもないことです。」
「そうなの…?」
「ベネディクト様、私はあなたにはなにか理由があるんじゃないかと思っているんです。そのように他人に気を遣いすぎてしまう原因が。そして、自らなにか破滅しようとしてるその行動にもきっとなにか理由が。」
チラッとベネディクトを盗み見ると、なにか図星を付かれたような苦しい表情をしていた。
「今は聞きません。あなたが話してくれるまで待ちます。
ただ、私はあなたの妻になる立場です。あなたが対等に接してくれるのでしたら、私もそのように振る舞います。言いたいことははっきりいいます。だからベネディクト様、せめて私にははっきりとご自分の考えを教えて下さい。リハビリかなにかだと思って、全ておっしゃってください。」
「……。」
ベネディクトは黙ったままでいる。
え、言い過ぎた?色々きつかったかな?
こちらもなにを言えばいいのかわからず、必死に頭を巡らせて考えているとベネディクトが口を開いた。
「わかった。そんなふうに色々考えてくれていたんだね、ありがとうヴェロニカ。」
ベネディクトがニコッと笑う。
はぁー、その笑顔だけでご飯5杯は食べられそう…。
「これからも、よろしくね。」
そう私の手を取ってさらに微笑みかけてきた。
もう…なんでも許しちゃうんですけど…。
それでもなけなしの理性を振り絞って口を開いた。
「あの…女遊びは自重してくださいませ。」
ベネディクトはキョトンとした表情をしたあと、なにか可笑しそうに笑った。
その表情だけで胸が苦しくなるくらいキュンとしてしまう自分を呪った。