婚約破棄なんかしてあげない
「大事な話?もしかして昨日できなかった話かな?
昨日もわざわざ来てくれたのに、突然帰ってしまうから心配したんだよ。
それで、どうかしたの?」
直視してしまうと、すぐ昨日のような要らぬことを口走ってしまいそうになるので、極力ベネディクトの方を見ないように答えた。
「あの、ベネディクト様。私わかっているんです。
あなたは、たくさんのご令嬢方にちょっかいをかけていますよね?
この前あった社交界でも、すこしお見かけいたしましたし、学園内でもだれかれ構わず話しかけていると噂も聞いておりますわ。
私という婚約者がいながら、すこし不誠実だとは思いませんか?」
チラッと顔を盗み見ると、ベネディクトが口元を隠すような仕草をしながらうつむいていた。
婚約破棄のチャンス!と言わんばかりに私は畳み掛ける。
「私、思うんです。
自分の婚約者にすら向き合えない方に、次期王が務まるのかと。
婚約者を蔑ろにする方が、国民を大事にできるものなのかと。」
これはゲーム中の断罪イベントでモブキャラが言ってたやつの丸パクリだけど。
「それにですね、ベネディクト様がそんなことをすると私も周りから言われるんです。
ヴェロニカ・グランクヴィストがまるで面白味のない女だから、第一王子がフラフラするんだ、と。
まぁ、その件に関しては実際そうなのかもしれな……」
「それは違う!!!!!!!!」
突然大きな声を出すものだから、私はびっくりしてベネディクトを見た。
パチっと目が合うとベネディクトは哀しげな瞳で私を見つめていた。
そして穏やかに続けた。
「それは違うよ、ヴェロニカ。
君は悪いところなんてひとつもないんだ、悪いのは僕だけだから。」
「ヴェロニカ。ねぇ、もう…婚約破棄したいっていう相談なんでしょ…?」
「僕のこと、キライになっちゃったんだよね…?」
ベネディクトは哀しげなウルウルとしたウサギみたいな目で見つめてきた。
こ、婚約破棄したいってバレてる…!!
いや、でもこれは好都合!このままこのダメ王子の婚約者でいても、損しかないもの!!
さっさと別れちゃいましょう。
口を開こうとすると、ベネディクトは続けた。
「いいんだよ、わかっているんだ。
ごめんね、ヴェロニカ。ヴェロニカの好きにしていいからね。全ては僕の責任だから。僕のせいだと周りには伝えるから安心して。」
ベネディクトを見ると、彼がなんとも言えない哀しい笑顔を浮かべていた。
それを見て、ついまた口が勝手に喋りだした。
「あなたが決めないのですか?ベネディクト様。」
「あなたはいつも決定権を私に委ねてる。そんなことで次期王は務まらないと思いませんか?あなたはどうしたいの?私に責められて、尻尾を巻いて逃げるように婚約破棄するんですか?それともきちんと向き合って、私をもう一度信頼させてくれるんですか?」
あー、やっちゃった。捲し立ててしまった。
ハッと我に帰って慌てると、ベネディクトは驚いた顔をして答えた。
「君の言うとおりだよ、ヴェロニカ。」
「僕には全くもって王の素質も無ければ覚悟もないんだ。」
そう自嘲気味に言うベネディクトを見ると、ムラムラ、いえ、イライラしてきた。
「きちんとあなたと向き合って、鍛え直して差し上げますわ、私がね。
婚約破棄なんて、してあげない。昨日はそれを言いに来たの。」
そう言ってニヤリと笑った。
このどうしようもないダメ王子を、どうにかしてやるんだから。