共鳴
その後どうやって、ベネディクトになんて言い訳して帰ったのか、ほとんど記憶はないのだけど。
情けない告白の後、真っ赤になる両頬を手で押さえながらどうにかこうにか言い訳して帰ってきた気もする。
確か、
「今日は朝から調子が悪い」
とか
「落馬して意識を失っていたせいで支離滅裂なのかも」
とか
「好きというのはあなたに言ったわけじゃなくて、全然違うお話なのよ」
とか。
冷静に考えるとどれも苦しすぎる…。
変なことを口走りながら足早に部屋を出ると、後ろから私を呼ぶイケボが聞こえた気もするけど、そんなの構っていられない!と、すぐに馬車に乗り込んで真っ先に自室へ帰ってきた。
ぐるんぐるんする頭の中で、ふと一つのことが気になった。
「元々のヴェロニカはどうしてたの?」
あんな超絶イケメンを目の前にして、どう対処してたのかしら?
それとも元ヴェロニカはベネディクトのことはタイプじゃなかったとか?
そんなことを考えながら、ドレッサーの引き出しを開けた。
すると、ボルドーの革表紙の本のようなものが出てきた。
「これは…日記帳かしら?」
心のなかで「ごめんなさい」と謝りながら、その日記帳を手に取った。
するとその瞬間、日記帳が光り、自分の中に言葉として流れ込んでくるような感覚がした。
「これはヴェロニカの記憶なの?!」
凄まじい情報量を受け止めようと構えると、走馬灯のような映像が心の中に流れた。
初めて6歳のときに、婚約者だとベネディクトに紹介されたこと
厳しい王妃教育に耐え忍んだこと
ベネディクトが初めて花を贈ってくれたこと
アカデミーに入って、ベネディクトと距離を縮めようとしたけどやんわりと拒否されたこと
それなのに他の令嬢に親しげに声を掛けている姿をみたこと
あぁ…ヴェロニカも、ベネディクトのことを本当に想っていたのね。
ゲームの中ではただの悪役令嬢だと思っていたヴェロニカが、実は普通の女の子だったと気付いた。
さっきベネディクトに会った時に感じた強烈な一目惚れの感情は、元々のヴェロニカ自身も持っていた気持ちなのね。
ヴェロニカ、苦しかったよね。
ヴェロニカの苦悩に共鳴しただけではなく、このあとのツラい展開を知っているからこそ、よけいに苦しくなって、気付けば頬を涙が伝っていた。
ごめんね、でも私はあなた。
あなたの未来を知ってる。
だから約束する、絶対に幸せにしてあげるから。
あんな、あんなダメ王子はさっさと捨てるから。
さっさと捨てて、あなたが幸せになれる人をちゃんと見つけてあげるから。
そう!マティアス様と!!!マティアス様と結婚させてあげる!
そしてあなたの努力が無駄にならないよう、絶対に王妃にしてあげる!!!!
きっと、それこそが私がヴェロニカに転生した意味なんだ。
私はこの美しい女の子を幸せにしてあげるためにここにいるんだ。
待っててヴェロニカ、私はもうぶれない。